Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    薬膳りんごカルピス

    趣味垢/拘り強めの繊細な🎀推し/『ゆうぽむ』に情緒を破壊された人/カプ妄想垂れ流してます/#虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会/ラ!好きな人とつながりたいです/RT多めMT推奨/トプ画は@rurumesia0314さんに描いて頂きました

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 52

    音楽科に転科したばかりの高咲が自分の才能に向き合う話

    #虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
    #高咲侑
    takasaki
    #鐘嵐珠
    zhongLanzhu

    『嵐珠ちゃんは許してくれない』ピアノの鍵盤を前にして、私はただ黙って座っていた。

    譜面の上には、途中まで書きかけた音符がいくつか並んでいる。でも、どうしても次の一音が思いつかない。どれだけ手を動かしても、心に響くメロディにならない。

    ─────才能がないんじゃないか。

    そんな考えが頭をよぎる。

    もともと普通科にいた私が音楽科に転科したのは、みんなの夢を応援するうちに「音楽」というものに惹かれたからだった。

    ピアノは昼休みに遊び半分で弾く程度だったけれど、本格的に学び始めたのは最近のこと。最初のうちは授業についていくのが精一杯で、それでも必死に食らいついてきた。

    でも─────

    「やっぱり、才能がある人には敵わないのかな……」

    ポツリと呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。

    私の周りには、すごい人たちがたくさんいる。同好会のみんなはもちろん、音楽科には小さい頃から楽器を習い、コンクールで入賞経験のあるような生徒も大勢いる。そんな人たちと同じ土俵に立とうなんて、最初から無理だったのかもしれない。

    「はぁ……」

    ため息をついて額を手で覆ったそのとき

    「"私なんか"って、侑。アナタ、それ本気で言ってるの?」

    凛とした声が、私の背後から響いた。

    振り返ると、嵐珠ちゃんが腕を組んで私を見下ろしていた。まっすぐな藍鼠色のが、冷たい光を帯びている。

    「嵐珠ちゃん……」

    「過ぎた謙遜はただの嫌味よ。いい? 侑」

    彼女は前に歩み寄る。そして、ピアノの前に座っている私の目線まで腰をかがめた。間近で見ると、その表情は想像以上に真剣だった。

    「アナタはランジュが認めた人よ」

    嵐珠ちゃんが、私を認めてる?

    思わず息をのんだ。

    「そもそも、才能がないなら、ここまで来られるはずがないでしょ。音楽科に転科して、必死に授業についていこうとして、努力して……アナタはちゃんと前に進んでいる。でも、そんな自分のことをアナタは認めようとしない。違う?」

    「……」

    私は言葉を失った。

    確かに、私は今まで必死にやってきた。それでも、みんなみたいに華やかな実績があるわけじゃないし、天才的なセンスがあるわけでもない。だから、"私なんか"って思ってしまう。でも、嵐珠ちゃんからすれば、それは違うのかもしれない。

    「自信を持てとは言わない。でも、いつまでも腑抜けたままでいたら、ランジュが許さないから」

    私の肩に、そっと嵐珠ちゃんの手が置かれる。

    「侑、アナタがどれだけ悩んでも、迷っても、ランジュはアナタが前に進める人だって信じてる。その覚悟がないなら、音楽なんてやめたら?」

    その言葉に、胸が痛んだ。

    嵐珠ちゃんはいつも私に厳しいことを言う。でも、それは彼女が本気で私を見てくれているから。
    適当に励ましたり、慰めたりするのではなく、私自身が逃げないように、わざと突き放してくれる。

    「……うん」

    肩の力が抜けて、自然と笑みが溢れた。

    「嵐珠ちゃんには、敵わないな」

    「当然よ」

    彼女は自信満々に頷いた。でも、その目には確かな温かさがあった。

    ─────私は、前に進まなくちゃいけない。

    彼女が認めてくれた私自身を、私が一番、認められるように。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works