心配性なAmore アウォーズ後の立食パーティーで並べられた煌びやかな料理、テレビや雑誌で見ていた有名選手に感動していた円堂。
その時、某有名スポーツブランドのデザイナーに話しかけられ、酒を渡される。
彼のデザイナー氏だが、本人はメディアに対して性対象を公にはしていないが、週刊誌やSNSでは男色であると有名だ。勿論、円堂はそのことを知る由もない。
なんかやっぱ海外の人は大人でも距離近いなーと思いつつ、酒に口をつける円堂。
「海外で活躍するアジアの選手をモデルに起用したいと考えていて、Mamoruに是非お願いしたくてね。……後は、個人的にも君のことが気になっているんだが、パーティーが終わった後、二人でどうかな?」
うわこの酒強いな、と内心びっくりしていたせいで、あまり話しを聞いておらず、その上英語もそこまで得意ではないため「ん?あ、ああ良いな、ぜひ」と適当に相槌を打ったら、そのデザイナーの顔が更に近付いてくる。
「そう言ってくれると思っていたよ、君はやはり魅力的だ」と耳打ちをされ、ぎょっとする円堂。
あ、これあいつに見られてたらヤバいかも……と思っていたら案の定、背後から腕が伸びてきて腰をスマートに引かれる。
……いや、前言撤回。かなり強めに引かれてグラスから酒を溢しそうになった。
「あまり円堂で遊んでやらないでやってくれ。〇〇氏では刺激が強すぎる。」
「少し世間話しをしていただけさ。久し振りだねYuto。」
二人は頬に触れるだけのチークキスを交わす。
鬼道の声色は穏やかだが、引き寄せられた手には少し力が入っていた。自分も無防備過ぎただろうか、と内心反省する。
「MamoruもYutoも二人とも優れたプレーヤーだ。現地のサポーターも非常に注目しているよ。来年はどちらもここで表彰されているかも知れないね。」
「そう言っていただけてありがたいな。イタリアリーグは世界各国から指折りのプレーヤーが集まってきているし、個人のスキルも申し分無い。日々勉強させてもらっている」
「俺もクラブの選手には良くしてもらっててさ!監督もコーチもちょっと厳しいけど、憧れの人達から色んなこと吸収しながらサッカーできて、毎日自分の成長を感じるよ」
鬼道に続き、サッカーの話しならと円堂も会話に参加する。
その途中で、二、三口飲んでから進んでなかった円堂のシャンパンを、鬼道が自分の手に持っていた別の飲み物と交換した。鬼道のことだから飲みやすいカクテルと取り替えてくれたのだろう。
それを見ていたデザイナー氏が、何やら含みのある顔をして、そういえば、と徐に話題を変える。
「噂で耳にしたよ。Mamoruにはパートナーが居るんだって?」
その言葉にぎくりとする円堂。
一方の鬼道は目を細め、円堂の腰に手を置いたままだ。離すつもりが無いのだろう。
「ああ…俺も聞いたことがあるな」
鬼道が得意気に笑みを浮かべて、つつーっと円堂の脇腹を撫ぜる。円堂の耳元に顔を寄せ、色を含ませた声でこう囁いた。
「お前に相当日が無いんだとか……こんな触れ方をしているなんて知られたら、俺はそいつに殺されてしまうかも知れないな……?」
こいつ……いけしゃあしゃあと……円堂は喉元に出かかった文句をぐっと堪えた。
まぁ別に内緒にしてる訳ではないが。だからといって公表してることでもないため、円堂は何を言おうか考えあぐねていた。
若干酔った頭で正しい回答がすぐに思い浮かばず、「あー……えーっと」と意味の無い声しか出てこない。
「Mamoruのパートナーは随分と情熱的なようだね?」
と鬼道を見て笑うデザイナー氏。
鬼道も口の端を上げて笑った。
「イタリアの男は皆愛に生きるからな。自分の恋人が他人に触れられていると知れば嫉妬もするだろう。」
手に持っていた、先程円堂のものと取り替えたシャンパンをくいと飲み干して鬼道は続けた。
「円堂個人への仕事の話しはクラブを通してオファーをしてやってくれ。こいつは滅多にメールを読まないんだ。いつまでも返事を待たせることになる。」
「非常に有用なアドバイスだ。つまりYutoに連絡すれば良いってことだね?」
「あぁ……そうだな。それも良いかも知れない」
相手を牽制するかのように、今度は円堂の肩を抱く鬼道に、ほとほと呆れる円堂。
こんなことしなくても、鬼道以外見ないし、鬼道だけが好きなのになあとは思うものの、会話を切り上げてパーティ会場のドアへと歩みを進める鬼道の、眉間に皺を寄せ拗ねた顔を見るとどうしようもなくときめいてしまうのだから。
円堂は、自分も大概イタリアに染まった、愛に生きる鬼道バカだと呆れるのであった。