おまけ 結局、場内の壁に二人で並んでもたれ掛かり、鬼道が空いたグラスを係の者に渡し、俺の方を見ずに不機嫌そうに長いため息をついた。
何か言いたいことがあるのだろうか、しかし鬼道は何も言わない。
先程の出来事を思い返してみるが、結局のところ俺別に何も悪くなくないか?と思いながらも、ちょっと反省していた部分もあったため、居た堪れなくなり手に持ったカクテルを一気に煽った。
するとその時、鬼道の手が徐に俺の尻を撫で始めたため、思わず飲んだばかりのカクテルを全部吐き出しそうになった。
「……おい………やめろ鬼道」
「………」
小声で諭すが、鬼道はこちらを見ずに尻を撫でる手を止めない。
「やめろ人に見られてたらどうするんだ」
「………」
「きど~〜〜〜~!」
「聞こえないな」
「なんだよ!あれは不可抗力っていうか、避けようがないっていうか……とにかく!俺のせいじゃないだろ!.......ないよな……?」
空いたグラスを持ち替えて、尻を撫でる鬼道の手首を掴んで止める。思わず自分には非が無かったことにしてしまい、ますます申し訳ないような、何とも言えない気持ちになり、語尾が弱くなってしまった。
「さっきから何のことだ?お前が何の話をしているのか、俺にはさっぱり分からない」
「お、怒るなよぉ……帰ったら俺のこと……す、好きにして良いからさ……」
「……………」
「……な?」
「男に二言は無いぞ」
「う…...って、うわ!?」
突然鬼道に乱暴に腕を引かれ、そのまま近くにあったドアから廊下に引っ張り出される。
廊下に誰か人が居るか確認する間もなく、鬼道の肘が顔面の横に勢いよく置かれて逃げられなくなってしまった。
「今はこれで手を打ってやる」
そう言うや否や、鬼道がかけていたサングラスをぐいと持ち上げ、噛み付くようなキスをしてきた。
びっくりしている俺なんてお構いなしに、舌を捩じ込まれて息もつけないほどの熱いキスをされる。
「っふ……んぅ……」
アルコールの匂いと、鬼道がこういう席にしかつけてこない香水の蕩けるようなムスクの香りがした。
鬼道の熱、絡め合う舌から漏れ出る淫猥な水音、目を開くと獰猛な獣のような赤い瞳と目が合い、まるで全身が鬼道に支配されたような錯覚に陥る。
五感で鬼道を感じて、つい喉から甘い声が漏れ出て止まらない。
もっと欲しくなり、鬼道の腰に腕を回そうとしたところで、突然唇が離れていった。
「鬼道……?」
「続きは帰ってからだ」
そう言うと鬼道は感情が読めない顔のままサングラスをかけ直し、俺を置いて颯爽とパーティ会場へと戻って行ってしまった。
熱を持て余したまま置き去りにされた俺は、壁にもたれかかりながらずるずると崩れ落ちる。
「くそ……鬼道のやつ……後で覚悟しろよ……!」
しばらくその場でしゃがみ込みながら、今夜ベッドの上でどうやって鬼道からその余裕を奪ってやろうかと、甘い甘い仕返しの算段を考えては悶々として、一向に冷めやらない熱を必死にやり過ごした。