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    αのカブトさん×カブトさんのためだけのΩになったαの万ちゃん「カブトさん、朝。ほら、起きろって」
    ベランダに続くガラス戸が見えるように遮光カーテンをあけるが、カブトは光を嫌がって向こう側を向いてしまった。寝汚いのはわかりきっているが、そろそろ起きてもらわないとせっかく作った朝食も冷めてしまう。
    一時間ほど前まで自分も眠っていたダブルのベッド。自分が寝ていたはずの空間を向いているカブトがどこか寂しそうに手を動かすのを見ながら、いつもベッドに上がるときと同じように端に座った。普段は中央で分けているが、セットせずにそのまま下ろすと少しばかり長めの前髪を避けてやりながら、顔を覗き込む。
    「ん、」
    「あーさ。起きろ」
    半分は起きてきたらしいカブトは薄っすらと目を開く。そもそもあまり大きくない目が細めがちになるとなかなかに鋭くて、初めて見たときはどこまで機嫌が悪いんだと思ったが、悪いのは機嫌ではなく目つきだと暫く一緒に過ごすようになってから結論付けた。あぁ、あと態度も。これも今更だから全部気にもしていないが。
    布団から腕だけを出してヘッドボードをごそごそと漁り、充電器が刺さっているスマホを目の前まで下ろしてきてデジタルの数字を確認する。九時に起こしに来たのにすでに九時五分になってしまっている。五分くらいで起きてきてくれれば早い方。平均十分はかかるし、酷い時には三十分くらいかかる。葵士が起こしに来ていた時はすぐに寝るがすぐに起きていたらしい。全然そんなことないなってあたり甘えてきているんだろうと思う。そうしてすぐに許してしまうからまたカブトの甘えがひどくなるのだと葵士にも――左京にも怒られた。
    「……まだ寝てられる時間だろ」
    「練習あるだろ」
    ん、ともう一回こぼしてからスマホを元の場所に戻して布団に潜り込む。
    布団をはいでやろうと思って手を伸ばすと、そのまま手首を掴まれて強く引っ張られた。このまま布団の中に引きずり込んで二度寝三度寝を決め込むタイプの人なのは知っている。今まで何度も引きずり込まれたこともあったし、今日が二人ともオフならそれでもよかった。だが残念ながら今日は二人とも練習があるし、あと一週間でそれぞれ公演が入っている。サボるわけにもいかない。
    まだ時間はあるにせよ温かいまま朝ごはんを食べてほしいし、そのあとに片づけをしなければいけないからこの時間でちょうどいい。
    体制を崩される前にカブトの手の甲を叩いて、反射的に力が緩まった隙に手首を抜いた。今日は然程力が入っていなくてよかった本気で引きずり込む気の時には意地でも手を離さないから苦労する。
    「いいから起きろ。朝飯、あったかいうちに食おうぜ」
    ぐだぐだ言ってるうちに冷めてる気はするが、一眠りしてから食べるよりは断然マシ。早く起きて来いともう一回声を掛けてからキッチンへと戻った。
    寮のキッチンに慣れていたから、男の二人暮らしなのに少し広めのキッチンがいいとねだったのは万里だ。冷蔵庫も大きいものだし、作業するための台も広い。四人くらいの家族で住んでても余裕で足りるくらいの収納には特に今は半分ほどしか物が入っていない。収納は此処まで多くなくても良かったんだけど、いつ家族が増えるかわからないだろって言われたから、うまる日を少しだけ楽しみにしながら日々過ごしている。
    キッチンの一角に置いてある小さな引き出しケースの一番下からピルケースを取り出した。一週間分の仕切りがあるケースの中から今日の曜日が書かれた蓋を開けて、中身を掌に出してくる。普段よりも一つ増えた薬の数を確認してから口の中に放り込む。近くに置きっぱなしになってたグラスに蛇口から水を注いで、そのまま少し多めの一口。薬と一緒に飲み込んだ。
    比較的いる時間が多いダイニングキッチンにかけられたカレンダーには二人の予定が書かれていて、万里の予定がオレンジ、カブトの予定が緑、二人共通の予定が黒。一週間後はそれぞれの色で公演日と記載されている。千秋楽はカブトの方が二日ほど遅い。どちらかと言えば日曜日が千秋楽になるカブトの方が普通で、万里の方が普段と違う予定になっている。理由はオレンジの千秋楽の文字の下にある黒いバツ印のせいだ。
    消された二人の予定の下に書かれていたのはヒートで、その三文字は緑の千秋楽の文字の下に移されている。
    元々α――今でもαではあるが、カブト専用のΩとして体質が変わってからは万里にもヒートが来るようになっていた。放っておくといつ来るかもわからないからとピルで管理をしていて、今回のヒートの予定がちょうど万里の千秋楽の日だった。カンパニーの方にも事情は伝わっているからと全部説明して一週間前倒ししようとしたかったのだが、そこの土日がどうしても灯とレントの都合がつかなかった。一週間は無理だがそれ以降の平日ならということで、平日五日、金曜日の夜を千秋楽にしてもらった。それでもヒートに入る時期は直前の二日くらいが使い物にならなくなることは自覚しているからと、本来の時期より更に後ろにずらすために薬を増やしたわけだ。
    いつもならそろそろ兆候が少しずつ出てきたりもするが、今のところはそれらしき気配もない。αの時は何とも思っていなかったが、Ωの要素を持つようになって薬の大切さを心から感じている。
    毎月一回、病院と言うか研究所というか。Ω落ちしたα自体の数が多くないからと通常の病院では対応できないから特殊なところに出向いて検査をして、その時の具合にちょうど良さそうな薬を出してもらってはいる。今回はヒートの時期をずらしたいこともあって先生に言いに行くのに、カブトもついてきた。万里としてはちゃんと時期さえずれてくれればいいと思っていたが、万里の体に負担がどこまで出るのか、それ以外にも寿命や妊娠器官に支障が出ないかなど事細かに聞いたのはカブトの方だ。
    本人のことじゃないくせにっていったら、番のことを心配して何が悪いと本格的に機嫌を損ねたことを思い出して口元を緩めていると、後ろから肩に腕が乗ってきた。
    「どうかしたか」
    「別に何でもねーよ」
    それを信じてくれる人ではないことは十分理解しているが、別に言うほどのことじゃない。後ろからカブトが手を伸ばしてカレンダーの文字をなぞる。元々綺麗な方ではあったが、万里が整えるようになって更に爪の先まできれいに整えられている。バツで潰された文字をなぞってからそのまま今度は腕を腹の方に回されて引き寄せられる。頭を万里の首筋に埋めてすり寄ってくると、同じシャンプーを使っているはずなのに少しばかり男らしさの残るカブトの匂いがほんのりと鼻に届く。
    「具合は?大丈夫以外で答えろ」
    この言い方をするようになったのは、万里がとりあえず「大丈夫」と答える癖があったからだ。別に言うほどの不調ではないかといつも大丈夫と答えていたら、自覚していた以上によくない状態で倒れたことがあって、それ以来必ずちゃんと現状を言葉で答えさせる。
    病院についてきたり、状態をしっかりと把握したがったり。そういうタイプじゃなかっただろうと思うことも多々あるが、これが自分のために向けられているのは悪い気はしない。
    「ちょっと体重いくらい。ったく、心配性だな」
    倒れてからもそうだし、番になってからは特にこの傾向が強くなったなと思うと自然と表情も緩むし、肩も揺れる。最初は何考えてるかわからなかったことを考えれば随分わかりやすくなったと思っていただけなのに、カブトに頭で小突かれた。
    「心配にもなるだろ」
    「そりゃどーも。ほら、早く食べようぜ。もう冷めてるだろうけど。温め直す?」
    「コーヒーが熱けりゃそれでいい」
    「それはコーヒーメーカーがあっため続けてくれてるから問題ねえな」
    万里の腹の上でベルトのようにしっかりと握られている手を離させると、ダイニングテーブルの方を指さして促す。しぶしぶと言った様子だが、それでもカブトが移動し始めたのを確認して万里もテーブルにまだ乗っていないコーヒーの準備をするためにキッチンの中へと戻っていった。
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