短い話「バデーニさんの目には、きっと俺とは違う世界が見えてるんでしょうね。」
「は?当たり前だろう。知っての通り君の目とは視力が違うし、虹彩の色も違うからな。見えている明度も彩度も、ひょっとしたら色合いそのものが違うかも知れない。」
「や、そういう意味じゃなくて…。あなたは文字が読めて、知識も相当ある。」
「英傑だからな。」
「はは…、だから、えっと、何かを見た時にそこから感じるものが違うと思うんです。たとえばヨレンタさんと出会った掲示板とか。あの時の俺にとって、あれはただの木の板だった。でも彼女やあなたにとってはそうじゃない。」
「…ふむ。目に映るものをどう認識するかという問題だな。」
「知識を得ることで、目の前のものが違った意味を帯びることがある。」
「そういう意味では、同一の人物であっても時によって違う景色を見ることになるとも言える。」
「それは…そうですね。」
「文字を勉強して、君が見ている世界はどう変わったんだ?オクジー君。」
「…鮮やかになりました。今から思えば、昔は暗がりを歩いているみたいだった。」
「そうなって良かったと思うか?」
「当然です!それに…俺の目に映るあなたも、前より鮮やかになりました。」
「どういう意味だ?」
「あなたが知に魅せられる理由が分かったから。そしてそれが、俺にとってあなたを一層魅力的にみせる。」
「…。」
「それに、昔のあなたは俺にとって”何考えてるのか分からない怖い聖職者様”だったけど、今は…俺の”素直じゃない可愛い恋人”ですし。」
「ばっ…!バカか君は!」
俺があなたと同じ景色を見ることができる日は、きっと永遠に来ない。
でもあなたの隣で、同じ方向を見て歩いていきたい。
⌘
みたいな話をいつか書きたい。読みたい。