たまにみる夢の話 時々訪れるこの喫茶店は不思議なところだ。
店内は広く、時としてまるで大衆食堂のような賑やかさだ。食事をする者、酒を飲む者もいる。今日は繁盛していて、カウンターの向こうでは、店員の1人が大急ぎで昼食をとっていた。私はそれを横目に見てグラスを傾けた。それを口に含んで気づく、今日は酒を飲みに来たんだった。
隣では、知っているようで知らない男の客が、カウンターに突っ伏していた。何やら愚図っていて、その様が情けなくて可笑しくて笑った。
2つ隣の席が空くと、待っていたかのように女性がやって来た。髪の長い彼女は溌剌とした雰囲気で、私と目が会うと笑顔になって私の頭を撫でた。やめてくださいよ、とちょっと私も恥ずかしい。
向こうの方では、店員が困ったように笑って店内を見回している。手には銀盆に料理がのっていて、どうやら給仕先がどこなのか分からないらしい。お茶目さんだが、白髪混じりの灰色の髪を綺麗に整え、また紳士的な髭をもつ初老の男だ。そんな身なりの彼がふらふらきょろきょろしているのは、なかなか可愛らしい。
戯れが落ち着くと、持ってきていた本を開く。そうだ、酒も飲みに来たがこれが読みたかったんだ。
その本は面白い作りで、2つの話が収録されている。右開きと左開きで一編ずつ話が綴られているのだ。この喫茶店の隣に大きな本屋があって、そこでなんとなく買ってきた本だ。二人の男、どうやら双子らしいその二人の話。
私はこの喫茶店が大好きだ。毎日通いたいくらいに。しかしそうはいかない。行きたくても必ず行ける訳ではないのだ。忘れた頃に、気づけばそこにいる。
なにせその店は────
「『夢の中』っと…」
私があの喫茶店に行ったのは今日で2回目だ。初めて訪れたのは、数年前のことだった筈。詳細は忘れてしまったが、縁あって再び相見えることになったことが嬉しくて、筆を取ったのだった。
あそこには喫茶店と本屋があるだけで、店員も経営者も客も全部、その時夢の中であの場にたどり着いた者たちだと思う。夢の中の場所を共有しているのだ。