エアスケブの成れの果て おれはただ、ウタを作っていただけだ。
冷たい鉄格子がただそこにあるだけ。何度見ても目の前の光景は変わらないから、一度起こした視線をもう一度伏せた。
ここは機械ばかりがひしめく街。いろんなところから蒸気が上がってオイルの匂いがするような街だ。人の代わりに機械が店頭に立っているのは普通で、ついにこの前機械が大統領選を勝ち抜いた。知能を持った機械が人間を虐げる話もざらで、創造主であるはずの人間が謀反を起こされてるようなものだった。
ここはそんな機械たちを怒らせちゃった人間を閉じ込めておく牢屋だ。おれは世間がどう変わろうがウタを作って歌っていただけだけど、おれにウタを作って欲しいと依頼した人間がレジスタンスだったらしく、そのウタが政府を嘲笑するために使ったらしい。その人間は捕まり、おれも共謀罪ってことで捕まった。いや知らなかっただけなんだけどな。
とはいえおれのすることは変わらない。ただウタを作って歌うだけ。ウタだけは何にも縛られない自由なものでいてほしい。そう願いをこめてここでも歌っていた。機械たちは何も言わない。止めろとも言われないから問題はない。
でももっとのびのびとしたとこで歌いたいなあ。夜に高いところから見えるこの街のキラキラした感じ。無機質な煌めきは夜空の星を遠ざけるけれど、それでもここで暮らすしかないと感じさせる。なら少しでも楽しいほうがいいだろう? 星が瞬くようなメロディを奏でて、そして、
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
急に鳴り響く警報音。赤いランプがぴかぴかと光ってせっかくの新曲がどこかへ逃げ出した。騒がしいなあ。少しは黙ってられないの? そう思うと急に、目の前に深紅色が飛び込んだ。
「月永レオさん。お迎えにあがりました」
凛とした声は、警告音が鳴り響く中でも何故かおれに届いた。まるで、とある物語のよう。