最果てはもうすぐそこ 幼い頃繋いだ手の、その熱を今も覚えている。
ほら、と差し出された手を当たり前のように握る。ヒマワリまでの道を並んで歩く。今日はなにして遊ぼうか。宿題は後回しで、施設を飛び出して街へ行ってしまおうか。舌足らずな口調で、あれこれと語り合う。はやく大人になりたい。錦山が言った。理由を尋ねる。だって、大人は自分でどこへだって行けるだろ。学校なんか行かなくたって、誰かの言うことを聞かなくたっていい。ひとりでなんだってやれるんだぜ。なあ、おまえもそう思わねえか。
その問いに桐生は曖昧に相槌を打って、はっきり答えなかった。先のことは何もわからなかった。背を追っている人はいる。その人のようになりたいと思う。ただ、それだけだった。ひとりでやりたいことなんて、思いつかない。
施設が見えてくると、自然な動作で手が離れていく。外の空気にさらされて、すうすうする手のひらを握りしめる。自分たちがもっと小さくて、弱くて泣き虫だった頃は、何をするにも手を繋いで過ごしていた。はぐれないように、見失わないように。何があっても、お互いを守れるように。親の顔を知らない桐生にとって、何もかもを預けて一緒に歩ける相手は、錦山だけだった。
ただ、それも昔の話だ。今はその手が差し伸べられることも少なくなった。もうガキじゃねえんだ、と、最近の錦山の口癖が頭をよぎる。あからさまに告げられたわけじゃない。乱暴に振り解かれたわけでもない。でも、その口癖を聞くたびに、自分だけがこの場に取り残されるような心地がした。ひとりは嫌だ、寂しいから。そんなことを口に出せるわけがない。さっきまでふれていた手が、これから先も近くにあるのを願うことぐらいしかできなかった。
見慣れた建物をゴールに見立てて、ふたりで走る。背中の荷物がガチャガチャと音を立てて揺れた。競争には桐生が勝つことが多かったが、その度に錦山は笑顔を見せつつも悔しそうに地面を見つめた。その表情を見て、錦山はきっと、ひとりで走りたくなったのだと思った。今よりもっと上を目指す錦山は、片手が塞がれていることの不自由さに気がついたのかもしれない。桐生の手を離せば身軽になって、どんどん遠くへ行けるのだから。俺を置いていくのかと縋るような真似はしない。親友の進む道を邪魔する気はなかった。お前がやりたいようにやれば良い。はっきり突き放されるまでは、そばにいることを決めている。
また負けちまった、拗ねたように錦山が言った。もっと大きくなれば、お前に勝てるかな。そうぼやきながら、ヒマワリへ帰っていくその背中を見つめる。なあ、大人って、そんなにいいものなのか。そんなに急がなきゃいけないほど、大人ってのは、大切なことなのか。ひとりじゃなくて、一緒じゃだめなのか。口にすればガキだと笑われそうな言葉たちを無理やり飲み込んだ。俺はまだ、お前の隣を歩いていたいだけなのに。
ガキでも大人でも、なんだっていいんだ、お前がいれば。
親っさんたちは、血が繋がっていなくても、一緒に育っていなくても、他人のことを兄弟って呼ぶらしい。
きょうだい、というひらがなを、口の中で転がしてみる。錦山の方を向いて、きょうだい、と呼んでみる。おう、と短い返事と、照れくさそうな笑顔が返ってきた。きょうだい、と呼ばれる。なんだ、と応える。思い切り肩を組まれた。自分たちの関係に、この呼び名はぴったりだと思った。
学ランは首元が詰まって、落ち着かない。中学校には学期初めこそ真面目に行っていたものの、次第に煩わしくなってサボることも増えた。最近に至っては、学校より神室町にいる時間の方が長いかもしれない。あの街は良い。制服姿でうろついていても、誰もが見て見ぬふりをする。口うるさく指導してくる教師も、足の引っ張り合いに必死な生徒もいない。親っさんはそんな自分たちを見ていい顔をしなかったけど、今更後戻りする気もない。
そうして極道に足を踏み入れてからも、錦山とは何かと行動を共にしてきた。中卒で、施設育ちで、腕っぷしだけが取り柄の自分が、なんとか今までやってこられたのは、兄弟の存在があったからだ。すぐに手が出てしまうような自分と違って、錦山はいつも先のことを考えて行動していた。頭に血が上った自分を制して宥めるのは、いつも錦山の役割だ。
もうガキじゃねえんだからよ、お前もちったあ頭使え。うんざりしたような口調で嗜められたことも、一度や二度では無い。でも、桐生にはこれしかできなかった。錦山のような器用な立ち回りも、外面を取り繕うことも不得意だ。この性分はどうしたって変えられない。別にいいだろ、と言い返す。俺のできないことはお前がやってくれれば、それで。助けてもらってばかりのくせに、生意気に言い返すと、錦山はなぜかひどく嬉しそうに笑った。仕方ねえな。ま、それがお前だからな。初めて聞くような、優しい声色だった。
錦山がいれば、桐生は寂しさを感じることなんてなかった。物心つく前からそばにいて、親友でもあるこの男は、桐生にとって兄のようでいて弟のようでもあった。昔から連れ立って馬鹿をやっては怒られて、傷を舐め合って生きてきた。お行儀よくなんてできず叱られても、施設育ちだと後ろ指をさされても、ふたりなら平気だ。
組に入ってからは、もう錦山と手を繋ぐことは無くなった。思い返すと、あのときは本当に幼かったのだと思う。からだのどこかにふれて存在を確かめていないと、不安だったのだ。互いの体温を分け合って生きる方法しか知らなかった。今は、そんなことをする必要はない。錦山も桐生も歳を重ねて、ひとりでいることが平気になった、はずだ。
そう思っていたから、銃を向けられたとわかった瞬間に、自分の考えが間違っていたことを嫌というほど思い知らされた。ああ、やっぱり俺たち、ひとりじゃ生きていけなかったんだな。そばにいるだけじゃだめだったんだ。しっかりと手を繋いで、足並みを揃えて、同じ方向に向かって歩くべきだったんだ。
絶体絶命の状況に置かれているというのに、桐生の心は凪いでいた。ここでお前は終わりだと告げられても、妙に納得できてしまった。兄弟が最後だと言うなら、きっとそうなんだろう。強烈な殺意を向けられているにもかかわらず、桐生には錦山の気持ちが痛いほどわかった。もし立場が逆だったら、自分もきっと殺しに手を染めている。自分には兄弟を殺す度胸なんてないから、たぶん、彼を罠にはめた犯人たちに襲いかかるのだろうが。
このとき完全に、桐生の心臓はとっくに錦山のものになってしまった。兄弟にならこの肉体の行末を委ねてしまっても良いと思えたのだ。自分の命を手玉に取られていたとしても、それに意を唱えようとも思わない。錦山の殺意は本物だ。それなら、自分も全身全霊をもってそれに応えるだけだ。むしろこの死を手柄にできるのならば、存分に利用して、頂点に立ってほしい。悔いはない。涙を流しながらも、銃を構えた腕を下ろさない錦山を見つめ続ける。おい、泣くなよ。俺の首、獲るんだろ。
終わりというのは突然に訪れるものだと、真っ向からそれと対峙するたびにいつも思う。さっきまで動いて声を上げていた命が、ただの物体に変わっていく。その虚しさを知るたびに、桐生は自分の終わりについて考えてきた。けれど、他でもない兄弟が最期を看取ってくれるのだとしたら、それが一番幸せなのかもしれないと思えた。錦山なら、桐生の命が絶えても、それを無駄にするようなことはしない。きっと最大限に桐生の死を使って、極道としてのし上がっていく。自分との約束を果たしてくれる。ガキの頃からずっと言っていたように、もっと上へ、遠くへ行ける。たとえその活躍を見届けることができないのだとしても、もうじゅうぶんだった。兄弟の役に立てるというその事実だけで、桐生が生きてきた20年には、大きな価値が生まれるのだから。
それでも結局、あの山奥で銃弾が桐生を撃ち抜くことはなかった。だから今、こうして生きながらえている。いつ死んでもおかしくないような人生を送っている自覚はあるが、あのときこそは、生かされた、と思わずにはいられなかった。
組に逆らってでも、自分を助けにきてくれた。怒りに任せて一線を越えそうになったときも、この男がとどめてくれた。その想いを無下にはしない。己の身をもって、お前の恩に報いたい。
唯一の兄弟の存在は、この先桐生がどこをどう生きていても、ずっとついてまわるだろう。きっと死ぬ間際までお前のことを忘れられず、そばにいなくとも事あるごとに思い返す。それだけ大きい存在だった。極道の世界でのいわゆる「兄弟」という言葉より、もっとずっと重く、長い時間を過ごしてきたのだ。だから、強がって手を離してしまうと崩れてしまう。互いの手のぬくもりはよすがでもあり、道しるべでもあった。失った途端に地に倒れてしまうような、脆くて情けない繋がりだ。でも、それがなきゃ生きていけなかったんだから、仕方ない。
なあ、錦。お前にもらったこの命で、俺は終わりまで立派に足掻いてみせるさ。だから、そのときまで隣で、どうか見届けてほしい。そして俺の最期は、ガキの頃みたいに、もう一度手を握ってくれないか。血で汚れた無骨な手でも構わないというのなら、あたたかなそれを差し伸べてくれたなら。俺はその体温を、冥土の土産に抱えていく。
──死んだ後の話をするなって? そうだな、じゃあ、約束してくれ。これからも肩を並べて歩くことを。それと、たまには昔みたいに、手を繋いでみないか。理由なんてないさ。安心するんだ、お前の体温は。なあ、だから、頼むよ、兄弟。
自分ががむしゃらに進んできた道を振り返る。他人の死体でできたそれは、皮肉にも桐生が生き延びてこられた何よりの証拠になっていた。靴底に血がへばりつく。スーツの裾が赤く染まっていく。極道になるっていうのは、こういうことだ。だけど、それでも、俺は。
お前となら、どこまでも行ける気がするんだ。
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お前となら、どこまでも行ける気がすると思っていた。
自分と肩を並べて歩く、その男のことを、錦山は物心ついたときから意識して過ごしてきた。年の差もなく、帰る場所も同じで、何をするにも一緒だったこの男は、常に錦山の思考の大半を占めていた。昔から連れ立って馬鹿をやっては怒られて、傷を舐め合って生きてきた。お行儀よくなんてできず叱られても、施設育ちだと後ろ指をさされても、ふたりなら平気だ。桐生が隣にいると、錦山は何だってできる気になれた。目を見張るほど強いくせに、どこか浮世離れしていて、放っておけない。おい、こっちだ、とつい手を引いてやりたくなるのだ。いつからか、ふたりは手を繋いで歩くことが日常になっていた。
錦山が手を差し出すと、桐生はいつも素直に手のひらを預けた。それは普段強気で生意気な桐生が、心の底から錦山のことを信頼している証だった。そうして体温を分け合うことで、少し目を離すと自分を置いてどこかへ行ってしまいそうな桐生を、繋ぎ止められるような気がしていた。今は自分の隣にいる桐生が、いろいろな人から好意を向けられていることを、錦山は知っていた。焦りや不安はない。桐生のいちばんが自分だということはわかっていたからだ。それでも、繋いだ手を強く握られるたびに、選ばれたのは自分なのだと浮かれる気持ちが、確かにあった。
そんな小さな触れ合いをやめたのは、中学に上がる前くらいのことだったか。あの頃、錦山ははやく大人になりたくてたまらなかった。風間の親っさんのように偉くなって、多くの人間を従えて。それで、隣には桐生もいて。2人でのしあがってやるのだ。たとえ施設上がりだとしても、夢を叶えられるってことを、一緒に証明する。そのために、強くなりたいと思った。いつまでも桐生の力を借りてばかりもいられないのだ。たまには手を離して、ひとりで立てるようにならないと、錦山はきっと大人になれない。自分は年齢的にも精神的にも、まだまだガキだなんてことはわかっている。けれど、虚勢を張ってでも、大人にならなくちゃいけないと思っていた。
そんな錦山の野望に、桐生は戸惑っているように見えた。先を急ぐ自分の後ろに、いつもの足音がついてこない。桐生はその場にとどまりつづけている。それに気づいたとき、浮かれていた心が急に氷のように冷たくなって、裏切られたような気持ちになった。
お前、俺の隣にいたくないのかよ。これまでずっと、素直についてきてたくせに。今までなかった不安が生まれて、焦りに変わっていった。こんなちっぽけなガキじゃいられない。もっと大きく、偉くなって、堂々とひとりでも生きていけるようになりたい。そうしたら桐生も前と同じように、隣を歩いてくれるようになるかもしれない。そんな矛盾した期待も、わずかにあった。先に手を離したのは錦山のくせに、結局、桐生と一緒じゃなきゃ何も意味がないことに、このときは気がつけなかった。
極道に足を踏み入れてからも、桐生とは何かと行動を共にしてきた。硬派といえば聞こえはいいが、桐生の日々は地味で、無粋だった。やっと自由になれたのに、これじゃあわざわざこの世界に飛び込んだ意味がない。つい昔のように付き添ってやりたくなって、口を出してしまう。もうガキじゃねえんだからよ、お前もちったあ頭使え。そう嗜めても桐生はまるで気にしていなかった。それどころか、別にいいだろ、と言い返してくる始末だ。
生意気なその態度は、ヒマワリにいたあの頃と何も変わっていない。少し口を尖らせた表情を見て、ふいに、愛しいなと思ってしまった。それだけで、説明がついてしまった。今まで手を引いてきたのも、何かと放っておけなかったのも、全部この感情が元になっていたのだ。あとから気づいて愕然とした。友情だと信じていた気持ちは、いつからか全く違うものにすり替わってしまっていた。
桐生は兄弟だ。それ以上でも以下でもない。大事で、大切な、兄弟。頭の中で何度も、刷り込むように言い聞かせる。そうやって必死に誤魔化して、なんとかやっていけるはずだったのに。桐生の周囲で起こった事件は、自分の浅はかさを見つめ直すきっかけになった。自分が身を置くこの世界が、血で血を洗う、死と隣り合わせの場所だということに今更気がついたのだ。
そうして桐生に銃を向けることになったあのとき、錦山は今まで生きてきた中でいちばんの絶望を味わっていた。頭も心も激しく違和感を訴えているというのに、それを無視して車を走らせた。信号待ちのたびに、穏やかに眠る男の寝顔を盗み見た。ずっと隣で生きてきた兄弟を守るために手をかける、そのおかしさに頭ががんがんした。こんなやり方は間違っている、もっと違う方法があるはずだ。そう主張する理性も、次第に追い詰められて消えていった。
地を踏みしめて立つ男の背中を睨む。顔が見えない方が一思いにやれそうだ。傲慢にもそんなことを考えた。手は震えて、足はすくんで、視界はぼやけて、とても人を殺せる状態じゃないくせに。自分でもイカれていたと思う。まともな精神状態じゃなかったのだ。そのうえ結局、錦山は狂いきることができなかった。覚悟も度胸も桐生の方がずっと上で、銃を向けているのは自分のくせに、その存在感に圧倒された。しっかり狙えよ、と男は言った。こいつも相当な馬鹿だとは思うが、自分はそれ以上に愚かだった。兄弟の敵に歯向かう度胸が無いくせに、その兄弟自身を手にかけようとしていたのだから。
明確すぎる殺意をもって狙っているのに、どうしても照準が合わない。引き金が引けない。やっとのことで指を動かしても、銃弾は桐生を掠めもしなかった。対峙する男の目に怯えの色は全く無い。錦山の何もかもを見通して、納得したような声色で己の死を利用しろとまでうそぶいている。怖かった。同じ時間を過ごしてきたはずの兄弟は、錦山の手に余るほどの成長を遂げていた。もうこの男の手を引いて歩くことはできない。自分の後ろにいると思っていたのに、いつの間にかどれだけ走っても間に合わないくらい遠くへ進んでいた。俺を置いていかないでほしい。その一心で、兄弟の縁を切られてもなお、この男の人生に齧り付いた。
全てが終わったあと、桐生は平然と錦山に礼を言った。あの山奥で錦山が何をしようとしていたか、覚えていないはずがないのに。放った言葉の通り、本当に全部忘れてしまったのだろうか。俺はお前を殺そうとしたんだ。銃を構えたときの殺意は本物だった。いくら後から挽回しようが、その事実は変わらない。それに錦山は、自惚れていたのだ。あのときの行動は、桐生が自分になら殺されていいと思ってくれると、予想したうえでのものだった。実際に桐生はその通りだった。激しく抵抗することだってできただろうに、悠々とその命を投げ出そうとした。膝をついて涙を流すしかできなかった自分と、堂々とそんな錦山を見下ろす桐生との隔たりは、明らかだった。
桐生が堂島組に戻った後も、錦山はあの山奥でのことを夢に見た。一発の弾が本当に桐生を撃ち抜いていたら、どうなっていたのだろうか。硝煙の匂いが立ち込める中、倒れた男の胸に顔をうずめて涙を流す。ひたすら自分の行いを懺悔する。俺はただ、お前を守りたかっただけなんだ。汗ばんで冷たい背中で飛び起きて、夢だと気づいてからもなお、錦山の心中に渦巻く感情は複雑だった。その内の大半は恐怖だ。そこに後悔も混じっている。これしかなかったんだという焦燥感、桐生とその周囲に向けた罪悪感も。そして、少しの安堵と、恍惚。
大切に思っている男が、自分にその身を全て委ねてくれた。その事実は何にも変え難い優越だった。失敗したなと思う。あのとき手を離していなければ、周りから笑われてもいいからふたりで歩いていれば、兄弟とかいう便利な言葉に全てをまとめられていただろうに。離れるとどうにもだめになってしまう、そのことを身をもって理解したときには、もう手遅れだった。一緒に歩いてきた道は先が見えず、どこに続くのか想像もつかない。きっと桐生はこれから、錦山が登れない激流を易々と飛び越えていく。そうしていつかは、誰の手にも負えないほど大きくなってしまうのだ。
けれど、それでも、叶うならもう一度あの手を握りたい。ガキのころとは違う、血に塗れて荒々しい手でも、錦山にとっては変わらない、桐生の手だ。唯一の兄弟を葬ろうとしたこの手でも構わないというなら、しかと掴んでもう離さない。
桐生。お前を守るために、この手でお前を殺そうとしたことを怒らないでくれ。お前がそれを受け入れてくれると確信していたことも、わかってくれ。友情と、兄弟関係と、それ以上も欲張ってしまった俺のことも、どうか許してくれ。俺は本当に、お前がいないとだめだったんだ。
極道ってのは、一筋縄ではいかないもんだ。そのうちにお前はまたひとりで突っ走って、危ない道を渡っちまうかもしれねえ。もしかしたら、俺と敵対しちまうことだってあるかもしれない。──ああ、もう、うるせえなあ。もしもの話だって言ってるだろ。
ただひとつ、覚えておいてくれ。俺はどうしたってお前を殺すことはできない。どんなに理由があっても、俺が殺意を抱いていても、俺はお前を殺せない。だから安心してほしい。
なあ、そんな顔するなよ。大丈夫だって。俺たちは、これからもずっと一緒なんだから。