とはいったものの__
私の通うここは工業高校だ。座学はあるが実習や作業なんかで移動教室になることが多々。隣の席といえど黄金川君とそこまで関わりがないかもしれない、という現実を突きつけらている最中である。
そもそも、なぜ私が工業高校に進学したのか。大した理由がある訳ではない。ただ、何かモノを作ることに没頭したかったから、というものだ。
人と関わることを避けていた私にとって、作業に熱中している時間というのは充実したものであり、楽しいものであった。そんな中工業高校の存在を知り、いいなと思ったのである。本当にそれだけなので、他の生徒と比べたら大きな目標もない私は意識が低いのかもしれない。しかし、実際女子生徒よりも男子生徒の方が多いここは、なんだかんだ適しているのかも、と思う。どうにも同学年の女子を怖いと思っている節があるので。
これからもここでなんとかやっていけそうなことに心底安堵した。
「ミョウジちゃんおはよう!」
「…おはよう」
「あれ、なんか元気なくね?」
「そんなことないよーちょっと考え事してたの」
逆に黄金川君はいつも元気だねー、なんて返す。彼は朝からテンションが高い。そして座学の時はちょっと下がって、作業の時はまた上がる。それで、昼休みにテンションが最高潮になる。食べるの好きなんだろうな〜とか思いながら、黄金川君をここぞとばかりに観察している。いつも動きが大きいし、表情はころころ変わるし、見ていてほんと飽きないんだよな。時々目が合うと「ん、どうした?」なんて声掛けてくるから(授業中!黒板の方見て…!)って小声で返したり。そんな毎日。そこまで関わりがない、とはいえきっかけを向こうがくれるので、それに甘えている自覚はある。自分から声をかけるには、やっぱりまだ、心構えが足りない。ちゃんと友達、やれているだろうか。
「なんかさ、ミョウジちゃんと話せる時間少ないよなって思ったんだけど、どう?」
どう?とは。
「えぇ…?まぁそうだね?休み時間もなんだかんだ移動で潰れるし…朝と帰りくらいではあるよね」
「だよな!俺としてはもっと話してぇんだけど…ほら、ミョウジちゃんとは電話もできないしさ」
この男、携帯があったら電話するつもりがあったのか。これは友達がいなかった私でもわかる、さすがに、距離の詰め方がすごい。早い。すごい。それでも嫌だと思えないのは彼の魅力というかなんというか。案の定、始まってから1週間も経たないうちに、彼の周りにはたくさん人が集まっていた。いじられつつも愛される、そんなクラスの末っ子的ポジを確立している。随分と大きい末っ子だこと。
だからこそ、こうして話しかけてきてくれることにちょっとだけ優越感。隣の席を満喫すると決めたからには存分に浸ってやるのだ。とはいえ、そう簡単に距離を詰められると、なんて返したらいいのかわからない。もう感情がちぐはぐだ。
「なんかいい案ねぇかな?」
「そ、そう言われても…うーん…朝と帰りだけでも充分話せてると思うよ?」
「んー…」
「黄金川君人気者なんだから、私が独り占めする訳にはいかないでしょ」
「え?そういう事じゃなくて!俺はミョウジちゃんと話したいんだよ!」
「な、えぇ……?」
なんか今さらっとすごいこと言われなかった?ほら、クラスメイトからの視線が集まってる。
「ちょ、黄金川君声大きい…!ていうかその…なんで私と話したいの?」
「だって友達だし」
「んん…でも他にも友達いるでしょ?」
「それはそうだけど、あいつらはいつでも話せるんだよ!で、ミョウジちゃんは話せる時間が限られてるから、もっと話したいと思って!」
…これは、私が折れるしかないのか。それにしても、いい案なんて…
あ。
「…ちなみになんだけどさ、その話すっていうのは、肉声じゃなくても可?」
「ん?それ、どういうことだ?」
ひとつ、思いついてしまった。中学生の私が、密かに憧れていたもの。そして早々に、諦めてしまっていたもの。こんな提案をしたら引かれてしまうだろうか、と思う反面、黄金川君なら受け入れてくれそうだな、とも思う。…大丈夫、反応次第で適当に流してしまえばいい。これは軽い提案なのだから。
「その、さ…」
ええいままよ!
「私と文通、しない?」
「…ブンツー?」
目線をやればキョトンとする彼。ああ、やっぱり失敗だったかな。
「ブンツーってなんだ?」
「あ、そこ……」
なんだ。知らなかったのか。確かに無縁そうかも。
提案するのに緊張した分、思わず拍子抜けしてしまいなんともか細い声が出る。
「文通って言うのはね、簡単に言えば手紙をやり取りすることで…」
「手紙!なるほどな〜!あ、でも俺便箋とか持ってねぇ!ノートじゃダメか?」
そう言って彼が手にしたのは、あの日破っていたページがある黄色いノート。
「…全然大丈夫!っていうか、本当にいいの…?文通…」
「おう!話せなかったけど話したかったことを全部書いちゃえばいいんだもんな!あ、これじゃブンツーって言うより交換ノートか」
「確かに、うん…そうだね、交換ノートしよう」
ニッと笑った彼がゴソゴソと鞄を漁ったかと思うと財布から1枚の紙を取り出す。そこには私の名前。
あ、まだ持っていてくれたんだ、という喜びと黄金川君も財布に入れてたんだ、という事実に自然と心が弾む。
「これさ、ページの最初に貼らね?俺たちの交換ノートって感じ、するだろ?」
「…ふ、いいね」
メアドは交換できないけど、ノートなら交換できる。工業生なのになんともアナログなやり方だけど、どうしよう。すごく、嬉しいかも。
「最初はどっちが書く?黄金川君、選んでいいよ」
「うおー迷う!……俺が最初に書いていい?」
「もちろん」
帰ったら早速書くぞー!なんて意気込んでくれてる彼を見て自然と笑みがこぼれる。交換ノート、めちゃめちゃ友達っぽいのではないだろうか。
(というか、否定、されなかったな…)
よかった、と思った。自分から提案するのはやっぱり怖かったし、正直まだ怖い。でも、受け入れてもらえた。その事実が私の気持ちを軽くしてくれる。
嬉しかった、と伝えたい。直接言うのは照れくさいから、私の番が回ったら書いて伝えよう。
私も財布から紙を取り出し、隣に彼の名前を貼り付けた。