ひとのふりみて「有馬さんって、いつもニコニコしてますよね〜」
「え〜、そうかなぁ」
眠気が襲う午後14時。
そんな睡魔から逃れるように駆け込んだ給湯室の一角。同じく休憩だとマイカップを持って現れた先輩の有馬さんとの雑談中、つい日ごろから思っていたことをポロッとこぼした。
しかし当の本人は自覚が無かったのか、意識すらしていなかったのか、よく分からないなぁ〜と首を傾げていた。
「そうですよお。営業もお手上げの、めちゃくちゃ曲者口悪クライアントとの打ち合わせでも、終始笑顔崩さないの凄かったです」
「そんなに悪い人じゃないと思ったけどなあ。最終的にこちらの言い分聞いてくれたし」
上司の出張のお土産を摘みながら、なんてこと無いという表情で話す有馬さん。
それが先輩としての、同僚としての建前なのかどうなのか、穏やかな表情と声色からは読み取れない。
「うちって、結構ハードじゃないですか。海外出張も多いし、営業からの急な納期や仕様変更もバンバンくるし……」
それでも自分の愚痴を含めて話してしまう。
こういう人のことを聞き上手と言うんだろうな、と考えながら。2個目のお菓子の袋を開けながらボヤいた。
「確かに忙しくはあるねぇ。ただ俺は海外出張結構好きだよ。営業さんからのオーダーも、クライアントの要望を叶えようって頑張ってくれてるんだな〜、って思うからそこまで気にしたことないかも」
そう言いながら、いつも通りのふにゃんとした表情でカップに口をつけた。
そこで自分も「そうなんですか〜」で終われば良いものの、ちょうど舞い込んできた急な仕様変更で若干苛ついてしまっていたのだ。有馬さんのその余裕な態度がなんとなく癪に障り、
「有馬さんって……、ほんとに人間ですか?」
と、軽口を叩いてしまった。
「……」
「ニコニコそんな仏みたいな気持ちで毎日仕事できませんよ〜、…………有馬さん?」
相槌が返ってこないことで、そこで先ほどの発言がとても嫌味な言い方になってしまったことに気づいた。慌てて彼の方を向き直り顔色を伺う。
と、一瞬。有馬さんの目が見たこともない程冷え冷えとしていた気がした。
まるでこちらを観察するような。そんな視線。
「えっ」と、口からこぼれそうになった最中、目の前の有馬さんは、いつもの柔らかな表情でこちらを不思議そうに眺めていた。
「ん? どうしたの?」
「いえ、」
見間違いかと思うほど普段通りの顔に、疲れているのかなと瞬きを繰り返す。
呆けている自分を他所に、当の有馬さんは手元の時計を見て声を上げた。
「あ、そろそろミーティングの時間だ。じゃあ俺行くね」
「お疲れ様です……」
ひらりと手を振ってその場を離れる背中を見送る。
きっと見間違えだと自分を納得させながら、まとわりついた違和感を拭うように珈琲を啜る。いつの間にか随分と温くなっていた。その妙に酸味が強く、舌に残る感覚に思わず顔を顰めた。
ーーー
「適度に不満を溢した方が自然なのかぁ」