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    Hinoshinnnn

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    Hinoshinnnn

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    cca後のブライトの妄想。主に虹にのれなかった男と閃ハサの情報を練りこんで書きなぐり、ブラミラ要素とアムブラコンビの温度感を食いたいだけのやつ

    例のシャアによる反乱から少し経ち、ミライ・ノアは娘のチェーミンを連れ、ようやく宇宙行きのシャトルに乗り合わせることが出来た。元は息子のハサウェイとも共に宙へ上がる予定であったが、アデナウアー・パラヤの割り込みにより座席を確保できず、それでも1席だけ譲られたそれをハサウェイへ託していた。その後はエレカで各地を奔走したのち、出遅れる形とはなったが、ようやく夫ブライトの元へ合流の目処が立ったのだ。

    「パパとお兄ちゃん、元気にしてるかしら…」

    窓の外を眺めるチェーミンは、耳元の焦げ茶の髪をくるくると指先に巻き付けながらも、輝く星々の中に別れた家族を見ているようだった。ミライはそんなチェーミンの頭をポンポンと軽く撫でると、

    「ニュースで見たとおり、ラー・カイラムの作戦は成功してるし、2人ともきっとピンピンしているわ」

    そう言って座席の背もたれに体重を預け、目を閉じる。ミライは完全なニュータイプと呼べるほどの力はないが、一年戦争時代から、ブライトよりはニュータイプとしての感覚が開花しているつもりだった。
    蘇るのは、地球でエレカのタイヤを交換している最中、夜空にくっきりと見えた、まるでオーロラのような緑の輝き。見知ったアクシズの影を浮かび上がらせたそれは人の温もりのような暖かさを放ち、そのオーロラの近くにいるはずの夫と息子の死の気配はまるで伝わってこなかった。それはシャトルがコロニー目指して進む今も同じだ。ここにはいないんだという喪失感はなく、無事に自分たちが到着することを願っている。何となくそんな予感がしている。


    その後もシャトルは宇宙を進み、ソロモンにほど近いサイド1のロンデニオンへと入港しようとしていた。前々からブライトと話をつけ、宇宙への移民先はロンド・ベル本拠地であるこちらへと決めてあった。既に新居も購入済みで、ブライトがある程度整えてくれているはずだ。ラー・カイラムは激戦の後とりあえずは落ち着けて、ブライトもそのまま帰港したようだったので、恐らく今は港で待っていることだろう。彼とは半年ぶりの再会になる。
    港に着き、キャリーケースにボストンバッグを乗せつつ周囲を見渡す。自分より頭ひとつ分近く大きい夫の姿を探していると、先にチェーミンの方が「あ!」と声をあげた。

    「あれパパよ!お〜いこっち!」
    「…!チェーミン!ミライ!無事だったか!」

    2人を見つけ表情を明るくした軍服姿のブライトを見るや否や、自分のキャリーケースをその場に置き去りにして、チェーミンは父親の元に駆け寄り思いっきり抱きつく。そしてブライトは勢いのままチェーミンを抱えて一回転してみせると、チェーミンの丸い頭を愛おしく撫でてから、2人で荷物を持て余したミライの元へ戻ってきた。改めてミライを見たブライトの顔は心底安心したようだったが、激戦をくぐり抜けてそう経たない今、疲れの滲んだ雰囲気を纏っているのか分かる。

    「ミライ…すまない、来るまで大変だっただろう」
    「いいえ、そんな事ないわ。あなたこそよくご無事で…」

    眉を少しハの字に下げたブライトを励ますかのように、2人はチェーミンにしたハグとはまた違う、体が沈み込むような深い抱擁を交わした。戦争の時代を生き抜く最中、この瞬間も、2人に許された数少ない愛の時間のひとつなのだ。数多の軍人が死に、そんな戦場の最前線をくぐり抜ける彼らにとって、こうして未だ互いの温もりを感じられるのも奇跡のようなものである。特に今は、死の戦場がブライトの影を引っ張るのか、尚のことその抱きしめる腕に力が込められているように感じた。彼の男性らしい大きい胸板の奥から、心臓の鼓動を感じる──

    「…ちょっと、パパとママったら、ギューしてる間に日が暮れちゃうわよ」

    そう呆れたチェーミンの声がして、ようやく我に返った2人は照れくさそうにして背中に回した腕を解く。娘に指摘されては恥ずかしくて堪らないが、そんなことを言っても2人はまだ30過ぎの若造なのである。
    そして弾かれたようにミライは思い出した。

    「あ…そういえばハサウェイは?ここには来ていないの?」

    先程ブライトのいた周辺を見ても、ハサウェイらしき背格好はどこにも見つからない。そしてブライトの顔を覗き込めば、彼は途端に曇ったような顔をして、もっと眉尻を下げるのだった。




    ■■■




    「…そう、ハサウェイが……」
    「今はとりあえず医者に診てもらいながら静養中だ。僕もあの後、ハサウェイとはろくに話が出来ていない…」

    新居に着いてから、軽く荷解きをして少し殺風景がマシになったリビングのソファで夫婦は情報を整理していた。第二次ネオ・ジオン抗争の間、何が起きたのかの大まかな擦り合わせと、息子ハサウェイの現状について。ラー・カイラムへの密航から軟禁状態だったはずの彼は、アクシズ落下を阻止した後に宇宙空間で回収される。そして回収直後、ブライトは慌ててハサウェイの元へ駆け寄って保護しようと声をかけたのだが、ハサウェイは放心状態でろくに返事をする気配もなかったのだ。あまりのショックに、息子は心を病んでしまったのだと親なりに思う。

    「ハサウェイは、君もわかっているだろうがニュータイプなんだろう。アデナウアー・パラヤの娘をあの戦場で察知して、そのまま追いかけてしまったんだ…はぁ……」
    「ブライト……」

    ブライトはハサウェイの覇気のない瞳を思い出すと、思わず頭を抱えた。そこに波のように押し寄せるのは、今回の戦いで感じた、ただひたすらの後悔だ。

    「僕は父親でありながら、ハサの気持ちに、成長に、何も気づけず向き合うことも出来なかった…その結果がこれさ」
    「あまり自分を責めてはダメよ…あなたはよくやっているわ。何も間違っちゃいない」

    ブライトの丸まっていく背中を撫でながら、ミライは少し焦るように慰めの言葉をかける。ミライの中へも押し寄せるように感じる、ブライトの自責の念は、今まで感じてきた中でいっそう濃いように感じたからだ。
    彼は一年戦争時代から変わらずこうだ。指揮官として余裕がなくなり苛立ちを顕にしてしまっても、高圧的に接してしまった後も、彼はいつも一人で内省する。そういったブライトの心の優しさが、ミライにとっては好きな一面でもあるのだが、それは残酷な戦場において己を蝕む呪いのようでもあった。

    「…今回の決戦は、あまりに失うものが多すぎた……生存確率なぞ1割もあるかという作戦だった。あの時、僕は皆の命をくれと言った。そう、分かっていた、分かっていたはずなんだ……っクソっ!」

    頭を抱えていた震える手が、ワックスで整えられていたその深緑の髪をぐちゃぐちゃに乱したあと、ブライトは不規則に震え始め、そのズボンに水滴の染みを落とし始める。思わず背中を撫でる手が止まった。

    「…ブライト……」
    「なぁミライ……アムロも、アムロも行っちまったんだ…あの時確かに、俺は緑の光を見た…暖かい光だった、だけど…アムロの命は…ぁ、あぁ、」

    ゆっくり顔を上げて、ブライトは焦点の定まらないような瞳でミライを見つめる。そこからはらはらと落ちる涙の粒の大きさに、ミライは、一年戦争でリュウやスレッガーを失った時も同じものを見たと、ふとぼんやり思った。
    アムロ・レイの消息の情報は、その宿敵シャア・アズナブルと共に報道され、ニュースキャスターの口から消息不明と言われていたのをミライらは既に見ていた。だが喪失の悲しみより先に、その時のミライはようやく納得したのだ。緑のオーロラは何故あれほどの温もりがあったのかと……
    だがそれを目の前で見たブライトは一体どうなのだろう。今のミライと違い、14年もの時を経て親友としてまた共に肩を並べ、アムロ・レイを信じて送り出した。誰よりもニュータイプを信じ、その指示を出したブライト・ノアは、あの温もりと輝きに、一体どれ程の悲しみと後悔を見出してしまったのだろう。現に目の前の夫は、1部隊の司令を担う軍人というにはあまりにもくたびれ、萎んでいた。

    「今まで多くのニュータイプを見てきた…ニュータイプでない戦友たちも、皆、この宇宙に散って、ニュータイプは…皆それぞれ遠くへ行く……体と精神が離れていくような……だがカミーユもジュドーも、それでも死にはしなかったんだ。なのにアムロは……っ遺体も、空っぽのモビルスーツすらも、見つかってないんだっ!!でも…僕ですら分かる…アイツはきっと帰ってこないって…ぁ…ああ、ぅぁあ」

    その独白が嗚咽に変わった時、ミライは自分の肩が濡れることも厭わず、ブライトを抱きしめ赤子をあやす様にその頭を撫でた。自分の後ろに落ちていく形にならない声とともに、迷うように背中へ震えた手が回される。ただ今のミライには、これくらいしか出来ることがなかった。

    「もし、もし君たちすら失ったら、ぼくは…っ…」
    「私たちがすぐ死ぬものですか。忘れたの?私も一年戦争を生き抜いた1人なのよ。ハサもチェーも、私とあなたで守ってるじゃない」
    「だって、ぼくはいつも誰かの傍に居ないんだ…いつもブリッジの中から爆発する光を見て、宇宙の中に浮く地球を見ることしか出来ない……」
    「あなたが命を張ってアクシズを止めなかったら、今は地球ですらまともに見れなかったかもしれないのよ?ねぇ、ブライト…」

    ミライは抱きしめた腕を解いて、その濡れに濡れた頬に止めどなく流れる涙を指で掬ってみせる。普段ここまで感情のままに泣く彼を見ることはないが、それだけ今回の作戦で、アムロとハサウェイをきっかけに今まで背負ってきたものに限界が来たのだと何となく理解した。親友を失うのはこれで何度目か…だがそれはそれとして、負の感情に引きずられ続ける姿を見るのはあまりに心苦しかった。
    頬を撫でた手はゆっくり滑り落ち、目で追わずとも、探り当てるようにして2人の手は握られる。見つめあったその先、涙に濡れた瞳の奥は、真空の宇宙に見えた。

    「ブライト、私があなたの抱えたものを、守るべきものを計り知ることは出来ないわ。でも、そんなあなたを支えてくれるのも家族でなくって?自分を卑下するだけではいけない、前を向かなくっちゃ」
    「…ミライ……」
    「あなたがこうして自分を曝け出してくれること、嬉しく思うわ。ちゃんと、ブライトにとっての帰る場所になれてるって思えるもの」
    「うん、」
    「家族みんな、ちゃんとあなたの傍にいるわ」
    「うん」
    「今こうして生きているのは、あなたのおかげ」
    「うん…」
    「愛しているわ」
    「…うん、ぼくもだ……」

    鼻の詰まったくぐもった声の後、引かれ合うように2人はキスをする。少し唇はしょっぱいが、その温もりはアムロ・レイが見せたあの光の奇跡と同じような気がして、崩れ落ちそうになる心をそっと繋ぎ止めたのだどミライは感じた。
    唇を離してから、改めて目元と鼻を真っ赤にしている情けないブライトを見ると、何だか拍子抜けしたような心地になる。でも今は、その心地すら温かくて愛おしい。口角は自然と緩く弧を描いていた。

    「ふふ、目を冷やしましょうか。ハサウェイに会う時に両目が腫れてたら、あの子に笑われるわ」
    「…今はむしろ、笑われる方がいいのかもしれん」

    そう言いつつも、ブライトは差し出された濡れタオルを素直に受けとっていた。




    ■■■




    その日、ブライトは久しぶりに泣き疲れた疲労感と共に、ミライを抱きしめて泥のように眠った。だが深い眠りに落ちた先、ブライトは夢の中で再び目を覚まし、眠たい目を擦る。
    そして意識が鮮明になった時、そこはかつて、一年戦争で指揮を執ったホワイトベースのブリッジの中であることに気づいた。だがクルーの姿は誰一人として見えない。

    「…?なんで、俺……」

    着用する軍服は、かつて19歳の頃に身につけた古い型のものだった。掌も、33となった今よりも皺の少ないやわそうな肌をしていて、思わず触れた自分の頬も若々しくハリがある気がする。どうしたものかと徐にかつて座っていた艦長席を立ち上がり、全面ガラスのその視界に広がる宇宙を見てみた。少し離れたところには、母なる星・地球の青い姿が浮かんでいる。すると、耳に響くような足音と共に、

    「ノアの方舟、って知ってるか?」

    突如聞こえた聞き馴染みのある声に振り返ると、そこにはかつてのアムロ・レイが立っていた。

    「!?あ、アムロ、お前……」

    ブライトは驚いてしどろもどろするも、アムロはそのままこちらまで歩いてやってくる。歩幅は短いのに、如何せんその踏みしめる足の力強さたるもの、まるで豆鉄砲を食らったような気持ちになった。

    「ノアの方舟…地上の堕落した人々の争いに嫌気が差した神は、地上を洪水で滅ぼそうとするんだが、神は唯一正しい人であるノアに方舟を作らせるんだ。そうして大洪水を生き抜いたノアは、神に今後大洪水を起こさないことを約束され、空には虹がかかるんだと」

    アムロは当時の16歳の幼い姿をしておきながら、ブライトの動揺なぞ反応するつもりもないという感じで語りを続けた。その精神は、つい先日まで頼もしく戦場を引っ張った今のアムロ・レイそのものである。夢の中だ、深いことは考えられないブライトは、そんなアムロへ中身のないふわふわとした返事しか口にできなかった。

    「へぇ、その…ノアが、なんだっていうんだ?」
    「ノアは主と共に歩んだ正しい人ではあったが、時には失敗をすることもあった。洪水の後、彼は農夫となってぶどうを栽培したけど、ぶどう酒に酔っ払って全裸で寝たところを息子に見られたりもした」
    「はぁ………」
    「話が見えないって、顔に書いてあるぜ。ブライト」
    「そりゃそうだろう。アムロが何を言いたいのかさっぱり分からん」

    そうブライトは首を振ると、目の前のアムロは心底面白そうに笑った。

    「俺はね、ブライトがノアの名前を持つのって、そういう事なのかなってふと思ったんだよ」
    「そういう事、って…ホワイトベースが方舟だって言いたいのか?」
    「ホワイトベースだけじゃない。今まであなたがニュータイプを見届けてきたアーガマ、ネェル・アーガマも、ラー・カイラムも同じさ。未来を繋ぐための、方舟」

    そう言い、ホワイトベースだったブリッジはオーロラの海に呑まれると、途端にアーガマの形に変わり、ブライトもアムロもグリプス戦役時代の姿に変化した。

    「ブライト、俺が言える口じゃないかもしれないが、あなたは完璧じゃあない。今までの戦いも、全て綺麗に解決できたわけじゃなかった。だけど、ブライト・ノアの導く方舟に乗ったものが、確実に俺たちを繋いできた。アーガマの時代は、シャアすらもそうだったな」

    グリプス戦役時代のアムロはあまり目にすることが出来なかったが、彼の今の姿は、不思議と懐かしさを滲ませている。そして、アムロの口にしたシャアの言葉で、あのサングラス姿のクワトロ・バジーナをどことなく思い出した。

    「クワトロ大尉もとい、シャア…あの頃のあいつは、かつての敵だとは思えなかった。同じような、人間くさい人間なんだと、俺にはそう見えていた」
    「そう。どれだけ道化が上手くても、可哀想なやつでも、どうしようもないやつでも、シャアはシャアで、同じ地球が生んだ人間さ。
    でも、あいつはそんな地球の人間に嫌気が差した…」

    伏せた目で、アムロはブリッジの外へ視線を向けた。そんなアーガマのブリッジの目の前には、ぽっかりと青い星が浮かんでいる…つい最近まで、シャアのせいで氷の星の危機に陥っていた地球だ。だがそんな星の青い海を見るうち、ブライトはつい呟いた。

    「シャアは、道化として神になろうとした…」
    「ふっ…じゃあ尚のこと、ブライトの艦は方舟になるな。そんな神の怒りに乗り合わせるための方舟…」
    「馬鹿言うな。方舟で生き延びるどころか、神になろうとした男を止めるために戦って…皆死んだんだぞ」
    「うん。だが実際怒りは抑えられて、無事に地球の人間は滅ぼされずに済んだろう?」
    「おいアムロ、」
    「もう…あなたが俺を気負う必要はないよ、ブライト」
    「ぁ…!」

    アムロはそのキラリと煌めく眼差しで、ブライトを射抜く。その煌めきは次第にアムロとブライトを満たしていき、宇宙の星々と溶け合うと、方舟はラー・カイラムとなり2人を乗せた。

    「なぁブライト、俺はきちんと最後、アイツに虹をかけさせられたかな。あなたはその虹を見たか?」
    「…虹……」

    ブライトの目に映ったのは、割れたアクシズから宙に架けるオーロラ。嘘偽りない、アムロ・レイがシャア・アズナブルと共に、数多の想いを乗せ架けた虹。自分が乗ることはなかった、確かな虹だ。

    「見たよ、お前たちの見せた虹は…でもそれじゃあ、お前たち自身は、何だったというんだ…?」
    「うーん、神、あるいはそのための供物かな。宇宙世紀に神はいらないと言われるが、現れた運命の神へは必要な犠牲だ」
    「そんな、俺は…アムロをそんな風にするために乗せたんじゃない…」
    「いいやブライト。ブライトが乗せたものは、ただの供物の木偶の坊じゃあないよ。それはきっと、あなたも信じたニュータイプの未来もだ。だから俺はそれらを繋ぎたくて、その信じるものをシャアにぶつけたのさ…」

    はにかむような笑みを見せたアムロのその先、ブライトには支えてきたニュータイプの姿が見えた。ある意味アムロよりも強いニュータイプの力を持ったカミーユ・ビダン。2人よりも強い精神力で戦争を乗り越えたジュドー・アーシタ。
    ノアの方舟は、それを乗せて宇宙の未来を繋ぐ。ブライトは不幸か幸運か、ずっとその役割を担ってきた。そうして見届ける側ばかりの自分にはいつも後悔ばかりが浮かんだが、アムロはその喪失による空虚を真っ向から否定するのだ。

    「分かるか?一度は最悪だと思った未来は繋がって、紡がれたんだ。その繋ぎ目になったニュータイプは、あなたが居たからそれができた」
    「アムロ…お前はこれでよかったのか」
    「俺個人の結末は結果の産物。あなたに申し訳なさはあるけどね…俺はそれであなたが傷ついて立ち止まっては欲しくない。ブライトには虹のさらにその先を見て、ブライトにしか出来ないことをやって欲しいんだよ」

    星の煌めきはアムロすら飲み込んでいく。だが、一年戦争でアムロらと出会い、そこから長く見てきたニュータイプの見せるものは、全て地続きに今を紡いでいる。そう、今は少し時間が必要かもしれないが、自分の息子ですら、自分に分からないものを感じて勝手にモビルスーツに乗り込み戦うようなニュータイプなのだ。きっとこの宇宙には、まだまだ自分の知らないニュータイプが沢山いる。アムロはそれを分かってて、ブライトに伝えまいとしているのだろう。

    「俺は人類を信じてる。だけど、今の地球にはあまりにもしがらみが多すぎて…この歳になって気づいたんだよ。ニュータイプをこれほど信じて、背中を叩いてくれるブライトの存在の稀有さにね」
    「…俺は大したことはしていない。本当に。」
    「あなたがそう思ってても、今までとこれからのニュータイプはきっとブライトに感謝するさ。素直に受け取っとけよな」

    少しぶっきらぼうにも聞こえる言葉は、アムロなりの餞別のようにも思えた。そうして、アムロ・レイはもうここへは戻らないのだということを改めて感じて、またひとつ寂しい気持ちがぽつりと湧き、下手くそな表情しか作れない。

    「あぁ…分かったよ。お前が言うなら俺は信じるさ」
    「ン、それでいい。それで」

    対してアムロは綺麗に笑った。その昔からさほど変わらない童顔で、無邪気さすら伝わるような綺麗な笑顔だ。ブライトはもう、笑ってるんだか泣いてるんだかも自分では分からなかった。ただ、くしゃくしゃとした表情筋の動きを感じながら、言葉が喉に引っかかる感触を得て、アムロへの後悔と寂しさを三度自覚した。

    「アムロ…」
    「えぇ?案外あなたも女々しいなぁ」
    「うるさい…」

    慰められ、励まされていることは分かっているのに、次第にこの夢にも"終わり"を感じてしまい、胸はさらに締め付けられるようだ。気づけば顔を袖口で乱雑に拭っていた。

    「ここに来てまで泣かないでくれよ」
    「そんなこと言ったって、俺も歳をとったんだよ…」
    「いや、まだまだ時間はあるだろうに」
    「今のアムロに言われたくはない」
    「はは、そりゃそうか。ごめん」
    「……馬鹿野郎…」

    そんなヤケクソの罵倒にアムロは困ったような顔をして、そのまま情けなく泣くブライトを抱きしめた。肉体のつながりはないのに、やけに感じる体温が温かくて、ミライほどではないけれど、軍人というには小さくて華奢な体だった。

    「これからもニュータイプのこと、支えてやってくれよ」
    「ン、分かってる…」
    「ミライさんに迷惑かけるなよ」
    「なんでお前に言われなきゃならないんだ…」
    「あの人は強いから。ホンコンシティで会った時も思ったよ」
    「あぁ…そうだな。彼女は強い」
    「ハサウェイとチェーミンのこともよく見るんだ」
    「そりゃ当たり前だろ…父親なんだから」
    「うん、他のみんなのこともよろしくな。俺は…いや、俺たちはあなたが寿命でポックリするまで気長に待つから」
    「ああ分かった、分かったよ…そう簡単に死んでたまるか」
    「はは、その意気だブライト!」

    アムロは強めにブライトの背中をバシバシと叩くと、ブライトの手を取って改めて正面に向き合った。その宙のような瞳は、確かに煌めいていた。だからこそ、もう終わりの時間だったのが分かった。

    「ノアの方舟の輝き。あなたの見せる輝きは、ニュータイプにとって特別な意味がある…だから託すよ、ブライト・ノア。俺の親友。」
    「……!」
    「またな。」

    アムロはそっと手を離す。すると、ラー・カイラムがぐにゃりと歪んだと思えば、ブライトの体は重力に引かれるように離れ、どこかへ吸い込まれていく。別れの時なのだ。思わずその中で手を伸ばす…アムロ、今は待っててくれ、と。
    散り散りになる意識の中で、ブライトは確かに叫んでいた。






    「…ライト、ブライト」

    ぼんやりと声が聞こえて、深淵から意識が浮上する。ゆっくり目を覚ませば、自分は寝室の天井へ手を伸ばしており、その横で既にエプロンをつけたミライがベッドに腰掛けてこちらを覗き込んでいた。その行き場を失った手をポスンと布団の上に落とせば、手持ち無沙汰そうなミライが指を絡めて握り始めた。

    「ぁ…おはよう……」
    「あなた、夢見でも悪かったの?さっきも寝言で言ってたわよ…アムロ、アムロって」
    「あぁ…僕、そんなにアイツのこと呼んでた?」
    「えぇ……」

    少し不安そうにするミライの声色を感じて、「違うんだよ」とブライトはその上体を起こす。下ろした前髪の隙間から、妻の顔を見た。

    「僕がいつまでもメソメソしてるから、アイツが説法聞かせに宙から降りてきたんだ。だから…いい夢だった」
    「まぁ…ふふ、気になるわね。アムロがあなたにどんな話をするのか」
    「そう?じゃあ、シャワーを浴びてからな」

    ブライトは握られた手をゆるゆると離して、浴室へと階段を下りた。ミライもそれに続いてリビングへと消えて、キッチンから微かに朝食の匂いを漂わせる。この家でまた一日、営みが始まるのだ。

    アムロの見せた虹のその先は今、僅かに、確かに見え始めていた。
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