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    miyu_me

    @miyu_me
    ※誤字脱字誤用キャラ崩壊口調違いがよく含まれます※

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    miyu_me

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    まほやく転生現パロを書きたかった。小説ではない。まほ晶♂
    口調の間違いとかめっちゃくちゃある。もはやみんな別人。正直書きたかったの序盤と終盤なのでほぼメモ書き。
    カインとヒースとスノホワが多く喋る。次に愛憎、次にクロエとルチル、次に仲良し、あとは同じくらい。

    流転する運命の中で幼い頃から頻繁に見る、月が落ちてくる夢。
    来ないでと懇願しても追い縋る巨大な天体が自らの体を押し潰す。ちっぽけな体はその物量に耐えきれずに弾け飛んで、転がった眼球が世界を覆う程の花の欠片に埋め尽くされていくのを視認して意識が溶けて行く。そうして目が覚める。
    逃げても逃げても追いかけられる恐怖より、押しつぶされる痛みより、花欠片によって埋め尽くされた世界から自らの体のみ月によって弾かれる悲しみが全身を襲って、成人を迎えた今になっても涙を伴って目を覚ますのだ。空を見上げても月は朝に姿を映さない。


    ーこれは桜に似た花が見せた夢かー
    ーそれは瘴気に蝕まれ現のまま見た幻かー



    ーーーーーーーーーーーーー

    ーーーーーーーーーーーーー


    ーーーーーーーーーーーーー


    幼い頃から時折見る、月に押しつぶされ転がり落ちた瞳に写るキラキラと輝く花びらが目の前の景色を全て覆い隠す夢。
    成人を迎え、近所の猫と戯れた満月の日。
    その夜に見た夢は過去1番鮮明な景色だった。キンと響く音と聞きなれない声の聞きなれない言葉が聞こえてくる中で、空から地上に目掛けて落ちてくる月に光が当たり、少しだけ押し戻されて、その月から溢れ出る黒い靄の塊もまた光でかき消される。けれどその勢いはどんどん強くなって行って戻すことも消すことも難しい程に大量に増えてそして。

    「っ、ハァッ!」

    布団を勢いよく剥ぎ取りながら晶は大きく息をする。痛む頭とどくどくと脈打つ心臓と全力疾走した後のような息切れ。月に潰されたり、花が覆い尽くすことも無かったものの先程見た夢がいつもの夢だということにはすぐに気付いた。夢を見たあとは世界に弾かれたような気がして悲しみが襲い涙がとめどなく溢れ出ていたけれど、真っ暗な部屋の中で晶を苛む感情は恐怖と奇妙な高揚感だった。例えるなら今から失敗できない大舞台へ繰り出すようなそんな感覚。いつも目覚めた瞬間には朝になっていたのに、今は時刻が夜の2時を指していることに気付く。カーテンに遮られてなお月明かりが床を照らしている。切れた息を整えながらベッドから降りた晶はカーテンに手をかけるとそっと開く。

    「……っ」

    見える月は普段よりは大きいようだが、夢で見たほどの大きさではなく、普段通り空の彼方に浮かんでいる。
    無意識の内にほうと安堵の息を吐いた晶はこつんと窓に小さな何かがぶつかる音に肩を大袈裟に震わせた。
    月から視線を外し下に目をやれば、バルコニーの床にきらきらとした小さなかけらがいくつか転がっていて、晶はそっと窓を開く。
    これが石か何かであったなら誰かの嫌がらせと思って翌日まで開けることはなかったのだろう。けれど月の光を受けてきらきらと光るそれは悪意は含まれていないように見えて、欠片をひとつつまみ上げる。うっすらと色のついた軽い小さな欠片は金平糖に似た形をしていて、散らばる欠片も大きさや形は異なりつつも素材は同じようだ。丁寧にかき集めた21個の欠片を手のひらに乗せた晶は部屋の中へ戻ると、机に飾っていた物の中から星の砂が入った小瓶のコルクを抜いてその中にいれていく。星の形をした砂と欠片が混ざってもそこまで違和感はない。

    「なんだろ、これ…」

    何故こんなものがバルコニーに落ちていたのか。もしかしたらたまに遊びに来る猫が持ってきたのかもしれないが、こつんとぶつかった音は多分この欠片で、誰かが投げ入れたと考えることも出来る。捨てるか、元の持ち主に返すかどうすべきかわからないが、何故か晶は机の上にその小瓶を戻すことはなく、そっと手のひらに握りこんで布団の中へと入って目を閉じる。完全に目が覚めきったと思っていたのに、すぐにゆったりとした眠気が晶を迎え入れ、瞼が自然と落ちていく。

    「んー……!」

    次の日すっきりとした目覚めに伸びをして起き上がった晶は手にした小瓶を鞄の中に潜ませて、1限目の講義に向かう。いつもの夢を見たはずなのに今までの中で1番気分が良かった。
    丁度5限が終わる頃だった。ざわざわと講義室にいる学生達が騒いでいることに気付いて晶は教材から顔を上げる。何があったのか首を傾げる晶へ、外を見ていた同級生が興奮した様子で話しかける。

    「なあ真木、外見てみろよ。ロールス・ロイスが停まってんだよ!」

    滅多に見れないってと急かす同級生に晶も立ち上がって窓の外を見る。確かに講義室から見える道路に停止する高級車と、遠巻きに眺める学生達の姿が見える。

    「ほんとだ……。うちに用事なのかな」
    「や、でもあんな高級車が来るような大学じゃないじゃんここって。だからみんな興味津々なんだよ。……なあちょっと行ってみねぇ?」

    無関心な学生も多々いる中で高級車が気になる学生は高級車を間近で見ようとカバンを持って外に飛び出していく。

    「でも、失礼じゃないかな」

    いくら場違いで目立つとは言っても、野次馬の中に加わるのはどうかと思うと晶が告げると、同級生はそんなこと言わずにさぁと周りの友人に声をかけて、数人で高級車を見に行くことになってしまった。嫌なら嫌と拒むことが出来たはずの晶がそれに着いて言ったのは、晶自身が好奇心旺盛な人間であったからだ。少しくらいあんな高級車に乗っている、乗るような人物の姿を見てみたいと思ってしまったから。だから。

    「っ……晶様…!」
    「晶!」

    造形の異なる見知らぬ美形が晶の名前を呼んで一直線にこちらに向かって来るだなんて事態を引き起こしてしまったのだろうか。

    「え、えっと……」

    高級車を見ていた学生達のざわめきが一気に広がり、晶を連れ出した同級生達は目の前に居る美形2人の顔を惚けたように見つめている。
    精悍な顔立ちに左右で瞳の色が違う青年と、美術品のように精巧な造りの金髪の青年。男でも見惚れるような容姿の二人が戸惑う晶を見て、周りをちらりと確認する。金髪の青年が周りの視線が全てこちらに向けられていることに気付いて、うっすらと頬を赤く染める。作り物のように美しいのに血の通った人間なんだなとあまりの衝撃に筋違いのことを考えた晶に、オッドアイの青年が申し訳なさそうに眉を下げて晶に笑いかける。

    「突然すまない。ええと、なんだったかな。そう、俺たちの主人がどうしても礼を言いたいと言っていてな。もし時間があるようだったら30分程でいいんだ、あんたの時間を俺たちにくれないか?」
    「礼ですか…?」

    礼と言われても晶には何も思い浮かぶことがない。
    容姿と立ち居振る舞いから話し掛け辛そうな二人だが、オッドアイの青年の言葉はよく居る若者のソレで、気さくな雰囲気と表情に周りの学生と晶を現実に引き戻す。

    「ちょっと覚えが……」
    「真木くんまた人助けしたの?」
    「ほんとお人好しだよなお前って」
    「情けは人の為ならずってマジであるんだな」

    ないんですけど、と続けようとした言葉を周りの学生達に遮られた。何故か講義が被っている学生達皆が真木ならそういう事もあるだろうと納得している。そしてこの提案を断ろうと受けようと好奇の目に晒されることに変わりはない。もしこれで晶が女性であったなら嫉妬の対象になって大学生活を過しづらくなっていたかもしれないが、晶は生憎と男で彼らと同性のため、そこまで酷いことにはならないだろう。それに周りの学生は次の日に晶を質問攻めにするための期待のような目を向けている。誰だって退屈な日常に刺激が欲しいのだ。

    「えっと、その……」

    流石にこんなに人が沢山いる中で誤解ですと叫ぶような勇気はない。

    「わかり、ました……」

    周りの視線から逃れたいという気持ちと、目の前の二人の言葉をきっぱりと断るのは何故かはばかられ、晶は渋々と頷いた。
    人の目が無くなったら誤解だと告げようと。
    晶がこくりと頷くと、羞恥から顔を伏せていた金髪の青年が、花がふわりと柔らかく開いていくような控えめな笑みを浮かべる。

    「よかった…」

    こく、と晶の喉が上下する。金髪の青年の顔は晶の好みどんぴしゃだ。そんな人の笑みの破壊力と言ったらたまったものでは無い。それは晶のすぐ側に居て青年の顔を見た生徒たちも例外ではなく、どきりと胸を高鳴らせる。

    「場所を変えよう」

    オッドアイの青年が晶の手を恭しく取り上げてそっと引き寄せた。

    「おわっ…!」

    あまりの驚きに変な声を出した晶を笑う人はいない。まるで姫をエスコートする騎士のようだったとこの光景を見た学生たちは後に語る。
    平均身長はある晶と二人の身長の差は10cmもないが、腰の高さと足の長さが違うせいで歩幅の違いが出て来るはずだ。しかし、2人は晶の歩むスピードに自然と合わせてくれているため、遅くも早くもない足取りで車の方へと向かっていく。遠巻きに眺める学生達もそっと晶達を尾行するように移動しているが、まるで壁が作られているかのように近付けず、車の傍に来る頃には道路から生徒たちの姿が見えなくなっていた。それに気づかない晶はオッドアイの青年に引かれている手を見つめながら、自分の記憶を探っていた。何一つ自分が礼を言われる様なことをしたことが浮かばない晶は、突然立ち止まったオッドアイの青年の体にぶつかりそうになって立ち止まると、ガチャという音がして、気付けば目の前にあった高級車のドアが開く。そしてその中から何故か広々とたシートの上に四足で乗っていた青年がぴょんと軽やかに飛び出してきた。

    「にゃあーん!」
    「ぎゃっ!?」

    ぱっと両手を広げた紫髪の青年はオッドアイの青年の傍に居た晶にその勢いのまま抱きついた。ぐりぐりと猫が甘えるように頭を晶の肩に押し付ける青年に晶は硬直する。

    「ちょ、ちょっとムル…!賢者様困ってるから…!」

    少し離れていた金髪の青年が紫髪の青年をムルと呼びながら慌てたように手を伸ばす。

    「わかった!ごめんね賢者様」

    あっさりと晶に抱きつくのをやめたムルは腰を軽く落として晶の顔を見上げるような体勢を取
    る。じっと青緑の瞳で晶の瞳を見つめ始めた。

    「ええと」

    抱きつかれたことに驚いていたはずの晶はムルの顔を見つめ返して困ったように首を傾ける。

    「いきなりはびっくりするのでやめてください…?」
    「わかった〜!」

    まるでステップを踏むかのようにぴっと姿勢を伸ばし離れたムルにほっと息を吐いた晶はオッドアイの青年と金髪の青年を順に見て、申し訳なさそうに眉を下げて、何か勘違いをしていないかと問い掛けた。

    「勘違いじゃない、俺たちはあんたに用事があったんだ」
    「貴方に礼をしたいというのは本当です。主人が、ではなく皆がなんですけど……」
    「みんな、ですか?」

    2人の言っていることはますます意味がわからない。晶には本当に礼を言われるような覚えはない。けれど真剣な表情に嘘の気配は微塵も感じられず、二人の誠実そうな雰囲気が晶の警戒を解く。

    「そうなんだ。全員では来れなかったからあの時と同じ俺たち4人で迎えに来た」

    そこまで告げたオッドアイの青年が自然な仕草で晶の前に跪く。

    「俺の名前はカイン。カイン・ナイトレイだ。貴方の名前を教えて欲しい」

    美形に目前で跪かれて晶が驚きに足を1歩引き下げる。

    「お、俺の名前は真木晶です。えと、その、顔を上げてください、カイン」

    カインさん、ナイトレイさんというよりも先にするりと口を口をついてでたのは馴れ馴れしい呼び方で、しかしそれが妙に馴染みが良い。名前を呼ばれたカインは顔をあげると太陽が輝くような満面の笑みを浮かべてすっと立ち上がった。

    「晶、晶だな。宜しく」
    「は、はい、よろしくお願いします」

    とても嬉しそうなカインの姿に晶の胸が暖かくなり、何を宜しくするのか分からないまま宜しくと返す。

    「お、俺の名前はヒースクリフ・ブランシェットです…!」

    見つめ合う晶とカインの横から金髪の青年が自らの名を名乗り出し、晶はヒースクリフの方へと体を向けた。

    「ヒースクリフ」
    「……は、はい……」
    「……ヒース…?」
    「……っ、はいっ!」

    ヒースクリフと呼べば少しばかり悲しそうな表情を見せるものの、違和感を口の中で転がすようにしながら続いたヒースという呼び方に返した彼の声が喜びに少し上擦った。作り物の美しさを持つヒースだがころころ控えめに変化する表情が可愛らしくて晶がくすりと小さく笑みを浮かべば、ヒースの頬がふわりと紅に染まり、そっと視線が伏せられた。なぜだか照れさせてしまったとカインを見上げると、目を軽く細めて微笑みかけられて、心臓がどきりと高鳴った。ここに居る3人が全員晶の心を浮つかせときめかせる。

    「ね、賢者様、俺の名前も呼んで!ムルだよ」
    「は、はい。ムル、はその賢者様っていうのは……」

    今度はべたりと背中に引っ付かれながらムルに賢者様とはどういう事かを問いかけようとした所で、運転席の方の扉が開いて中から人が姿を見せた。

    「そろそろ私も賢者様とお話して宜しいですか?」

    長い髪を結い上げた人影が手にした煙管を吸ってふぅと息を零す。女性的な柔らかな仕草で色気の滲む青年がうっすらと唇に笑みを乗せ晶の方へと視線を向けると優雅に歩み寄る。

    「再びお会いできて光栄です賢者様。私の名前はシャイロック。しがないバーの……いえ、今だけはハート家の運転手です」

    色気を含んだ声と妖しげな雰囲気に晶の心臓が、再びどくどくと高らかになりはじめた。4人の系統の違う美形に囲まれて、まるで乙女ゲームの主人公になったようだ。

    「しゃ、シャイロック…」
    「はい、賢者様」
    「シャイロック我慢できなくなっちゃったの?」
    「貴方が賢者様にべったりなので妬いてしまいました」
    「えー?俺今日は賢者様にくっついてたい気分だから退かないよ!」
    「それでは車に乗れないでしょう?」
    「それもそっか」

    軽快なやり取りにムルとシャイロックの仲の良さが伺えるが、賢者様と呼ばれる理由の答えが
    はぐらかされたようにも感じられる。

    「改めて晶に聞きたいんだが、俺たちに付いてきてくれるか?ほんの30分程で、といってもここにさっき言った時から15分は経っているんだが」
    「今日はバイトもないので大丈夫ですよ」

    明らかに怪しくはあるものの大学のほとんどが目撃者であり、晶に何かあればこの高級車を追いかければ気付く事だって出来るという理由もあるが、何より初めて話す相手なのに舌に馴染む名前と、自らが賢者と呼ばれる理由の答えが気になって晶は頷いた。

    このロールス・ロイス・ファントムは5人乗りで、後部座席に3人座れるようになっている。ふかふかとしたソファのようなレザーのシートと足を伸ばせるほどの広々とした空間に乗り込むのはムルとヒースと晶で、ムルとヒースに促されるまま2人の間に座った。運転席にはシャイロック、助手席にはカイン。全員が乗り込むと車がゆっくりと発進する。走る音も揺れもほとんどない車内は慣れている人間であればリラックス出来る空間だろうが、晶の心はそわそわと忙しない。なんと言っても家ひとつ買えるような値段の車に乗ったことなんてないからだ。

    「ところで賢者様」
    「なっ、何ですか?」
    「昨日は悪い夢見なかった?」
    「……えっ…!?なんで知って」

    突然の問いかけになんで知っているのだろうかと驚きに目を開いた晶にムルはよかった〜と間延びした声で両手を前に伸ばす。

    「シュガーに祝福が宿るのは今でも変わらないみたーい!」
    「えっと…」

    ムルの言葉が分からずに戸惑う晶に口元をにんまりと歪めたムルは作った拳を軽く左右に振り晶の目の前でぱっと開いた。手のひらに転がる小さな欠片に晶の顔が驚きに見開かれ、そして慌ててカバンの中を探って星の砂の入った瓶を取り出した。

    「昨日、バルコニーに落ちてたのと同じ……」
    「わぁお!俺たちのシュガー持っててくれたの?」
    「俺たち……って昨日これを俺の家に投げ入れたのはムルなんですか?」
    「うーん、どうだろ!」
    「え、でも俺たちのって」
    「俺だけど、俺じゃない俺なのかも!」

    ムルは何を言っているのだろうかと疑問符を浮かべる晶に前から声がかかる。

    「ムルは魂が砕けた時の後遺症で人格を複数持っているんです」
    「魂が砕ける……?」

    助け舟のように見えて全く助けられていない答えは晶の戸惑いを深くしていく。けれど誰も詳しいことを晶には話してくれないらしく、どうしようかと目線をさ迷わせると、ミラー越しに何かを言いたそうなカインと目があった。

    「すまない晶、詳しい話はムルの屋敷に着いてからさせて欲しいんだ。俺たちの我儘でしかないのは分かって居るんだがどうしても皆があんたに会いたいって言っていてな、説明はその時にさせて欲しいんだ、変わりにと言ってはなんだが、俺たちのことを先に話しておこうか。さっきも言ったが俺はカイン。大学生で晶と同い年だな。小さい頃から剣道をしていて、今も大会には出ているんだ。苦手なものは蛇、得意なことはチームワーク、それから…」

    カインの指先が何か大切なものを撫でるように動き、首を軽く左右に振った。
    「いや、これ以上は辞めておこう」
    「次は私ですね。普段はBARの経営をしております。あなたに私の秘密を明け渡すのも胸が踊りますが……秘密がある方が私のことを考えてくれるでしょうから、今は内緒。いつか貴方のためのカクテルを振る舞えることを楽しみしていますね。あとで名刺をお渡しします」
    「お、俺は、さきほども名乗りましたがヒースクリフと言います。カインと同じ歳で大学に通っていて、機械工学を学んでいます。何か修理したい機械とか絡繰があれば仰ってください」
    「俺はムル!現代でも月を愛してる!えっとねー、社長とか事業主とか色々してるよ。賢者様が知ってる企業のスポンサーとかもしてると思う〜。カードとかチェスも好きー!でも退屈なのはきらーい!」
    「え、あ、俺は真木晶と言います。大学では文系を選択してますが就職のことはまだ決まってなくて、えっと、猫が好きです」

    名前を名乗られたこともそうだがこうも素性を明かされてはと何故か晶までもが自分の話をし始めると、驚いたようでいて、どこか暖かな視線が向けられてあ、と声を上げる。

    「すみません、ついノリで……」
    「構わないさ、俺は晶の話を聞きたいよ」
    「俺もです……!」
    「俺もー!」
    「私も。ですが、他の方に怒られてしまいそうなのでこの辺りにしておきましょうか。着きましたよ」

    シャイロックの言葉に車が停止したことを知り、一同が外に出ると、晶は目の前の光景に息を飲んだ。なんと表現していいのかわからないがかなり豪華な建物が立っている。テーマパークや旅館と言われても納得出来そうな広々とした空間と大きな建物はかなり高級に見える。確か社長をしていると言っていたムルに目を向ければ、彼は晶の腕を掴んで走り出す。

    「流石に箒には乗せれないからね、こっちだよ賢者様!」
    「む、ムル……!?」

    触れるだけで開いた重厚な扉の先にあるホールは広く高く、頭上には大きなシャンデリアが揺れている。大理石の敷かれた床を蹴り、進むムルに必死で足を動かしていると、急ブレーキをかけられて一気にムルの背中にぶつかった。

    「うぶっ!」
    「たっだいまー!」

    バンと勢いよく開いた扉の先にあるかなり長さのある机の置かれた部屋に10人以上の目立つ人々が立っていることにすぐに気が付いた。彼らはムルと晶の姿を見た瞬間にそれぞれ口を開く。

    「「「「賢者様」」」」

    細かな表現は違えど、目の前にいる16の美しい男性達が晶のことを賢者と呼んで迎え入れたのだ。

    「は……」

    十代から三十代前後の様々な年齢の人がいるだろうか。そのどれもが芸能人顔負けの容姿をしており、まるでハーレム系のドラマの世界に紛れ込んだようで、晶はぽかんと口を開く。二の句が告げない晶に追い打ちをかけるように、ムルに背中を押されるまま前へ進めば、近くに居た二人の青年が晶の目の前に立つ。

    「お会いできて嬉しいです賢者様。今は晶様って呼ぶ方がいいかな?私はルチルって言います。うふふ、記憶の中の賢者様そのままで嬉しいな」
    「俺はクロエって言うんだ!賢者様は今俺たちと同い年なんだっけ?でも良かった〜会えるの楽しみすぎて賢者様用に何着か作っちゃったんだけどサイズは問題なさそう!」

    ベージュの髪を切り揃えた優しそうな青年と赤髪の元気そうな青年にマシンガンのように話しかけられて晶は軽く仰け反った。

    「クロエとルチルばかりずるいです。僕も賢者様とお話したいのに…!」
    「兄様、クロエさん、賢者様が困ってますよ…!」

    クロエとルチルが話し出すと同時に動き出していた幼い雰囲気の少年が二人近くまでくると、可愛らしい顔立ちで眉を吊り上げながらクロエとルチルの服を引っ張る金髪の少年と、気の強そうな顔立ちの明るい茶髪の少年が宥めながらもルチルに困ったような顔を向ける。

    「わっ、ごめん!賢者様に会えたのが嬉しくてつい!ごめんね賢者様、いきなり話しかけてビックリしちゃったよね?」
    「ミチルも賢者様とお話ししたいよね?ごめんね兄様達が独占しちゃって……すみません晶様、嬉しくて貴方のことを考えずに話し出してしまって」

    そう言いながら、クロエとルチルに申し訳なさそうに謝られて晶は大丈夫だと手と首を振った。

    「あ、それは大丈夫です。人の話を聞くのは好きなので。それよりも俺は賢者と呼ばれることの説明とかを聞いてなくて何がなんだか分かっていないんです。ここに来たら詳しい話をしてくれるとカインが言っていたんですが……」

    クロエとルチルの2人が何を言っているのかときょとんと晶を見て後ろを振り返る。

    「なんだ、クロエとルチルは聞いていなかったのか?」
    「僕も聞いてないです」
    「僕もです。オズ、どういうことですか?」

    奥に立っていた黒髪の少年が淡々と告げた言葉に金髪の少年と茶髪の少年がそれぞれ別の人物へ視線を向ける。
    長い黒髪をポニーテールにした1番年上に見える男性が眉間にシワを寄せたまま金髪の少年へと目を向ける。

    「私は説明した。聞いてなかったのはお前達だ」
    「そうなんですか?アーサー」
    「私も賢者様と再び会うことが出来ることに気を取られていて聞いていなかった……すみませんオズ様」
    「………いや」
    「ごめんごめん。2人がすごく喜んでいたから、水を差したくなくて」

    にこにこと微笑みながらミチルへと話しかけるのはウェーブがかった薄い青緑の髪色の男だ。

    「それでそのまま言うの忘れちゃったんですか?」
    「バレた?」
    「もー……フィガロ先生ってば」
    「フィガロ先生……」
    「いやぁ、ごめんって」

    フィガロの隣に立つ背の高い黒髪にメガネを掛けた朴訥そうな青年に呆れたように見られて肩を竦める。

    「ええ…?俺も聴き逃してたのかな……?」
    「大丈夫だよ、クロエ。僕も知らなかったから」
    「それって大丈夫って言うの!?」

    うんうんと唸るクロエにキャラメルブラウンの髪色の上品な青年がゆったりと微笑んだ。

    「なんだ、相変わらずいい加減だな」
    「先生はちゃんと説明してくれてたしなぁ」
    「当たり前だろう」

    黒髪の少年の傍に居た水色の髪色を束ねた青年とウェーブのついたダークブラウンの髪の青年がぼそぼそと会話をしている。

    その中で、その会話に我関せずに携帯を弄る白と黒の混じった短髪の青年と、ケーキをひたすら食べている銀髪の美青年と黒い何かを掴んで食べている背の高い赤髪のげだるい色気を持つ青年が居た。
    思い思いの行動をしている部屋の中の住人達はパンと高らかになった2つの柏手で一瞬で静かになる。

    「我らが賢者ちゃんを迎える手筈だったのに」
    「まさかムルが走り出すとはのぅ」

    晶とムルが入ってきた扉のところには人形のような虹彩を持つ黒髪のそっくりな双子と、その後ろに着いてきているカイン、ヒースクリフ、シャイロックが立っていた。

    「我はスノウじゃ」
    「我はホワイトじゃ」

    名乗りを上げた双子は小学生くらいの見た目と反して落ち着いている。

    「は、初めまして、真木晶です」
    「賢者ちゃんはちゃんと挨拶ができる偉い子じゃのぅ」
    「うちの子達にも見習って欲しいのじゃ」
    「わかる〜」

    うんうんと頷いた双子は晶をじっと見つめながら口元だけで笑いかける。

    「いきなり連れてこられて戸惑うのも仕方ないことじゃ」
    「皆自分の席に着くのじゃ」
    「賢者ちゃんはこっちね〜」
    「はいはい早く座って〜!」

    双子の号令で部屋のあちこちに立っていた16人がそれぞれ椅子に座り始める。そして晶は双子に促されるままお誕生日席へと連れてこられて、カインに椅子を引かれて双子に座らせられる。左右にずらりと介した21人の美形の圧が強い。まるで宗教画にでも出てきそうだなと現状から再び逃避する晶を尻目に22人の対話が始まった。


    「まずは自己紹介から!といきたいところじゃが」
    「賢者ちゃんもこんな大人数覚えきれんじゃろうし」
    「我らがお主をこの屋敷にに招いた理由を」
    「我らがお主を賢者と呼ぶ理由を話そうかの」

    代表して話だしたスノウとホワイトはまるで1人が話し続けているかと錯覚してしまいそうな程流暢に、交互に話し始める。

    「これを言うと怪しい宗教か勧誘みたいになってしまうが」
    「お主を含めたここに居る22人は前世で短い一時を過ごした仲間なのじゃ」
    「ぜ、前世?」

    宗教であれば自ら怪しいとは言わないはずという気持ちに先に疑問を潰しておいて油断させて勧誘しようとしている悪徳商法かもしれないという気持ち、そして何故か彼らを信じたいと思っている自らに戸惑う晶に、双子はさらに話を続けていく。

    「この地球とは異なる世界には魔法使いが居て」
    「年に一度訪れる厄災を退けていたんじゃ」
    「厄災は月の形をしており」
    「その月が年に一度我らの世界へと落ちてくる」
    「それを空へと押し返していた」

    月が落ちてくるという言葉に晶の肩が跳ねる。それはあの夢の光景と似通っていたからだ。

    「ここに居る我ら21人は魔法使いで」
    「お主は魔法使いを導く賢者として」
    「「その世界に存在していたのじゃ」」

    「…………っ」

    そんな小説のような話を誰が信じると言うのだろう。しかし人違いだと言うには幼い頃から見続ける夢が邪魔をする。
    そしてユニゾンする双子の声に晶は脳を、心を惹き付けられていく。

    「ここに居る21人にもそれぞれ前世の記憶が残っておる」
    「全てではないし、記憶している情報量の差もあるがのぅ」
    「我らは全て昔と同じではない」
    「みな前世とは異なる生活環境に置かれている」
    「本来交じることのなかったであろう我らの運命を」
    「本来持ち得ることない前世の記憶が引き寄せた」
    「例え今の環境に満足していても」
    「前世と今世は別物だと理解していたとしても」
    「強烈な記憶がどうしても会いたいと願った」
    「運命という名の魔力に寄って我らは引き寄せられた」
    「……………っ……」

    しんとした空間に響く双子の声はまるで麻薬のように晶の心を侵食していく。

    「「そして、最後の1人が賢者だった」」

    そこまで言い終えると、神託を下すような現実離れした双子の雰囲気が一気に霧散した。

    「賢者ちゃんだけが誰とも会ってないみたいだったから」
    「我らも自由に動けるようになったし」
    「「迎えに来ちゃった」」
    「なる、ほど……?」
    「みんななんだかんだ20になるまでには出会ってたんだけどぉ」
    「賢者ちゃんとだけ誰もあったことがないっていうし」
    「ムルと我らで全力で探したんだよね」
    「なんてったって我ら双子は予言の力を持ったままだったもんね」
    「我ら3人以外も魔法舎のみんなには1度でいいから会いたいって言ってたし」
    「全員でおしかけるのも迷惑かなって思って」
    「賢者ちゃんがあの世界で初めて会った4人で迎えに行くことにしたの」
    「は、はぁ…」

    そこまで言われて晶は大学の門の前に止まった高級車と遠巻きに群がる学生達の姿を思い浮かべ、あれも割と迷惑だったんじゃないかと考える。

    「まあ実はそれだけじゃないんだがのぅ」
    「ま、これは賢者ちゃんがYESって言うかどうかじゃし」
    「とりあえず」
    「「自己紹介の時間だー!」」

    それだけではないという言葉がどういう意味かと聞き返そうとしたが双子が盛り上がり始め、手にしたグラスを掲げて打ち鳴らし勢いに負けて口を噤む。

    「人数が多いからどうしよっかなー?」
    「うーん、名前と何か一言の後に」
    「このグラスにシュガーを1つずつ作り出して貰おうかの」
    「一言が無かったら省略可じゃ」

    にこにこと楽しそうに手を繋いだ二人が椅子から立ち上がる。

    「我はスノウ」「我はホワイト」
    「「可愛い可愛い双子の小学生じゃ」」
    「「せーのっ“ノスコムニア”」」

    繋いだ拳をグラスの端に軽く当てると、からりと音を立てて、グラスの中に欠片が2つ転がった。

    「うんうんこんな感じだとみんな緊張しないよね」
    「我らいいお手本見せたって感じ?」
    「「きゃっきゃっ」」

    そうして笑った二人は隣にグラスを滑らせる。目の前に置かれた容器を両手で掴むとその人は晶のことをじっと見つめてからうっすらと笑みを浮かべ口を開いた。

    「僕の名前はオーエン、可哀想だねおまえ、わけもわからずこんな所に連れてこられて変なやつらに囲まれて、この後食べられちゃっても知らないから“クーレ・メミニ”」
    「え」

    食べられるんですかという言葉を飲み込んだ晶から視線を逸らしてオーエンもグラスの中に欠片をころりと落とす。
    隣に居た赤髪の気だるげな青年がグラスを手に取ってからりと中の欠片を揺らして、晶へ無表情のまま視線を向ける。

    「やっぱりおかしくないですか?なんで俺が1番じゃないんです?喧嘩売ってます?」
    「ちょっとミスラちゃん!」
    「はあ、面倒だな……。ミスラです。さっさと終わらせてください。“アルシム”」

    揺らしたグラスの中にからりと欠片を増やし、そのまま隣へ滑らせる。黒と白のツートン髪色をした青年がそれを受け取ってみんなと同じように晶へ視線を向けて笑う。

    「歌舞伎町のナンバーワンホスト、ブラッドリー様とは俺のことだ。こんな所で油を売ってる暇はねぇんだが、ま、昔馴染みに会えるって言うんでね、わざわざ時間を作ってやったわけだ。テメェが俺のお眼鏡に叶えば豪遊させてやってもいいぜ?“アドノポテンスム”」

    見ようによっては全員ホストで通じそうな容姿だが確かにブラッドリーには華がある。女性なら一瞬で恋に落ちそうな笑みのまま拳を開いて欠片をグラスへと落とす。
    そうして順に自己紹介とシュガーをグラスに1つずつ落としていく。

    「ファウストだ。………特に言うことは無いよ“サティルクナート・ムルクリード”」
    「あー…ネロだ。シャイロックのバーで料理人をやってる。俺も特に言うことはねぇな“アドノディス・オムニス”」
    「俺の名前はシノだ。ファウストもネロも人見知りしてるだけだけでほんとはあんたに会えて嬉しいんだぜ。もちろん俺もそうだ。そしてヒースの従兄弟で幼なじみ。どうだ?すごいだろ?“マッツァー・スディーパス”」
    「ちょっとまってそこ誇るとこか?あ、ええと改めましてヒースクリフです。えっと…さっき言った通りですが、機械工学を専攻している大学生です。お会いできて本当に嬉しいです“レプセヴァイブルプ・スノス”」
    「俺は医者のフィガロだよ。何か病気になったとか助けて欲しいことがあったらなんでも言ってね?賢者様のためにならなんだってしてあげたいからさ“ポッシデオ”」
    「俺はレノックスです。お会いできて嬉しいです“フォーセタオ・メユーバ”」
    「私の名前はルチル。今は美大に通っています。賢者様とはお話したいことが沢山あるので仲良くしてくれたら嬉しいです“オルトニク・セトマオージェ”」
    「ぼ、僕はミチルです。高校1年生で将来は薬学を学びたいと思っています。賢者様さえよければこれからもよろしくお願いたいです。“オルトニク・セアルシスピルチェ”」
    「先程も申し上げましたがシャイロックと申します。よければ私のバーに来てくださいね“インヴィーベル”」
    「ムルだよ。賢者様いらっしゃーい!“エアニュー・ランブル”」
    「さっきは驚かせてごめんね賢者様。俺はクロエ。服飾の専門学校に通っててデザイナーを目指してるんだ。賢者様に俺が作った服を着て欲しいなって思ってます。ええと“スイスピシーボ・ヴォイティンゴーク”」
    「お久しぶりです賢者様。こちらでは初めましてですね。僕はラスティカ。音楽が好きで、チェンバロを主に弾いています。僕の伴奏で歌ってくれたら嬉しいな“アモレスト・ヴィエッセ”」
    「オズだ。“ヴォクス」
    「オズ様」
    「……………教職に務めている……“ヴォクスノク”」
    「私の名前はアーサーです。賢者様に会えるのを楽しみしておりました。賢者様のご迷惑でなければ以降も交流して頂けると嬉しいです“パルノクタン・ニクスジオ”」
    「俺もさっき名乗らせてもらったが改めて。俺はカインだ。ここまで来てくれてありがとうな賢者様“グラディアスプロセーラ”」
    「僕はリケです。昔は人々を導く立場でしたが、今はただ学生生活を楽しんでいます。ミチルとは同い年で同級生なんですよ。賢者様に聞いてもらい事が沢山あるんです。けれど今は我慢しますね“サンレティア・エディフ”」

    全員が名前と一言を終え、晶の前にリケがグラスを差し出した。グラスいっぱいに詰まった様々な形の輝く欠片は昨日拾い瓶に詰めたものと同じ。手品のように彼らが手のひらから生み出す時に唱える言葉は聞いたことがないはずなのにどこか懐かしく、耳馴染みの良い名前はすっと頭の中に入って全員の名前をすぐに覚えることが出来た。

    「………」

    前世で関わりがあったかどうかの記憶は晶にはない。しかしそれを信じさせる力が彼らからの親しげな言葉に宿っている。

    「「さあ賢者よ、グラスを取って」」

    スノウとホワイトの言葉に促されるままに晶がグラスを持ち上げれば、欠片が一気に溶けてグラスの中で液体となって揺れる。ひんやりとしたグラスの縁に唇で触れ、透き通った液体を口にする。

    「……………っ……!」

    突然晶が胸を押さえ前かがみになった。口の中に広がる甘く爽やかな液体を呑み込んだ瞬間に、食道を焼く痛みが襲い、胃がじわりと熱くなると全身にその熱が回り力が漲ってくるような感覚がして、脳が揺さぶられるような目眩が起き、走馬灯のようでいて、形の全くない記憶が駆け巡る。

    「……は、…っ……ぅ……ふっ……」

    その衝撃は数秒にも満たない時間だけだったが、体は普段以上に元気が有り余っているようだが、目眩と熱が治まってなお、晶の頭は巡る記憶の混濁により、頭の芯がじわりと痺れような疲れに覆われているようだった。

    息を整えて顔を上げた先に映った21人の姿に、何年も姿を見せず、生死さえ分からないような大切な人と再会した時のように込み上げた懐かしさに晶の両目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。

    「オーエン!」
    「オーエン賢者様に何かしたのか!?」
    「はぁ?知らないよ。こいつが勝手に泣き出したんだろ」
    「誰も呪いの魔法とかは掛けてなかったけどなぁ」
    「全員の祝福が掛かっていた」
    「はぁ、そうなんですか?」
    「だよね、我らにもそう見えた」
    「大丈夫か賢者」
    「賢者様大丈夫!?どこか痛いの?」
    「ど、どうしよう…!もしかしてすごく不味かったりしたのかな」


    心配したり慌てたり冷静だったりと様々な反応を見せる21人の姿を見てもただ懐かしさが過ぎるだけで思い出せそうな記憶はただ砂のように零れていくだけだ。

    「そ、う、じゃなくて……っ」

    息を震わせながら晶が懸命に口を開く。

    「俺には、あなた達の……記憶力がないんです。こんなにも懐かしいと、思っているのに、思い出したいって、なのにほとんど思い出せなくて、それが…っ……っで、でも大丈夫です、シュガーを食べたことで苦しくなった訳じゃなくて、懐かしくて胸が詰まったというか…っ、ご心配お掛けしてすみません…っ」

    ずる、と涙と共に流れそうになる鼻を啜り、涙を袖で拭いながら話す晶の手をいつの間にか近くに来ていた双子がそれぞれ握りしめる。

    「なんだか初めて会った頃を思い出すのじゃ」
    「元の世界に帰れなくて不安になっていたお主とこうして手を繋いだんじゃったな」

    双子はどこからか取り出したハンカチで晶の涙をそっと拭ってから手を離す。

    「賢者様が覚えておらずともよいのです。我々は貴方に、ここに居る皆と再び逢いたいと、結びつきたいと思った。そして今ここで私たちに繋がりが出来た。もちろん郷愁を懐かしみたい気持ちもありますが、それ以上に前世の私にとって大切だった方々と本来交えることのなかった私たちに再び縁が出来たことが嬉しいのです」
    「私たちは今の貴方とここに居る方々と仲良くなりたいと思っています」
    「昔と同じままってのは無理だろ、俺もあんたも今を生きてるんだからな」
    「覚えていないのは単純にムカつきますけど、まあ貴方が生きていてよかったとは思います」
    「知り合いが増えると自分の可能性も広がるからね!前世は前世、今世は今世、過去の経験が今に生きて、今の経験が未来に生きる!だから賢者様、この世界でもこの時代でも俺たちと友達になってくれる?」

    21対の視線が晶に向けられる。年齢も場所も生きる環境も全く違う彼らと新たな絆を結ぶのだって悪くは無い。晶は全力で頷いた。





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