眠れないのか。
独り言のようにかけた声に、寝返りを打つ音が答えた。寝台に広がるアレスの髪は、わずかな光の下でなお、鮮明に灯っている。だいぶ伸びたなと思いながら、辿った先の顔はまだ、苦悶の跡を残していた。
一体なにを悩んでいるのか。そう問うたところで、自身にさえ分からないのだろう。まるでかつての自分だと、浮かんだ記憶が今もまた、渡された言葉をなぞる。
「人を頼れ。貴様の両腕は、今は二本ではないだろう?」
かぶった魔皇の冠は、伸びていく髪と共に重さを増した。重荷ばかりが伸しかかる背を、支えてくれたものはまだ、忘れ形見のそばにいる。
少し話してくる。そう言って起き上がった背を、夜の向こうに見送った。