後ろに大きく跳んだ赤鬼は、なにやら考えているようだった。
しもべとしてのお手並み拝見。早々に追い詰めてはいたが、彼はまだ諦めていないようだ。考え事が口から出るのか、もうこの手しかないなどと、筒抜けになっているのも構わない。ここからどうあがくのか、楽しみではあったのだが。
だからこそ、同じ一撃だったことに、どうにも拍子抜けしてしまった。一連の大仰な構えは、どうやら気合いを入れただけらしい。確かに重さは増していたが、それにしてももう少し……。
かつて渦に足を浸した誰か。よく似た純粋なその赤も、ひとたび混ざれば、すぐに淀んでしまうかもしれない。
だからこそ、と思う。魔王の一撃に倒れた体を、両腕で引き上げた。
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