根城への道すがら、魔王は空を見ていた。虹がどうかしたかと聞けば、照れくさそうな顔が浮かぶ。書物で見たが、ここまで大きなものだと思わなかったらしい。
思えば雷の音も、雨の降り方でさえ知らなかった。それは守るべき彼の世界が、海の中という箱庭にあるからだ。
抱えた力の分しか守れないなら、ある意味この身に相応しい。だからこそ離れるわけにはいかない。
滞在の提案を断った目は、今も海を見ているのだろうか。にわか雨に降られた気がして、思わず強く踏み込んだ。
「ここは俺の縄張りだからよ、海ん中のこと考えるの禁止な」
自分で言ってから、どうにもおかしさが込み上げてくる。そうだねと笑った顔に、赤鬼はこらえきれず吹き出した。
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