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    三咲_

    @mi_tsuno

    Blender は飲み物

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    三咲_

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    アスモ&ガープ。ラフ様も少し。★2か3くらいの頃の、腐れ縁が出来上がるまで。

     ようやく静かに本を読める。廊下を端まで横切って、見つけた椅子はこれ以上ない特等席だった。これならわずかな明かりでも事足りる。わずらわしいだけだった夜が、月光の下に不意に華やぐ。
     手元に灯した安堵の火は、しかしわずかに揺れていただけで、向かってくる足音に吹き消された。ガープは苛立ちも隠さずに、もう一度息を吐く。見計らったようなタイミングは、後をつけていたからこそだろう。

    「ここまで酒を頼んだ覚えはないが」
    「困りますなあ、会場に居ていただかないと。こちらとしても警備になりません」
    「それは、……すまなかった」

     嫌味を盛った言い方も、彼にしてみれば当然だったかもしれない。一人抜け出してきたのは自分だ。貴族の肩書きがある以上、一歩型をはみ出せば、勝手な振る舞いにしかならない。

     思わずうな垂れてしまったところに、「いや、冗談だ」と笑い声が降ってくる。睨みつけた顔は、そこで一つではないことに気が付いた。三方に向けて並んだ顔は、真ん中こそ人型に近いが、両肩には獣の頭部が乗っている。胴体を支える翼と尾は、後ろにもう一人いるのかと思ったくらいだ。人々が思い浮かべる悪魔といえば、およそこんな姿をいうのかもしれない。

    「いつも一人で抜け出して、よほどパーティーがお嫌いなのかと思いまして」
    「歓談が得意ではないだけだ」
    「また嘘を仰る。くだらなくて仕方がないと、顔に書いてありますが」
    「貴様こそ、嫌味のひとつも言いに来たなら、そのまま言えばよかろうに」

     魔界はなにかと騒々しい。今でこそ落ち着いているが、下剋上だの闇討ちだのと、派閥争いが日常のようになっていた。
     少し前にも、皇帝の首が落ちたばかりだ。まんまと居座った顔ぶれも、しかし内からすくわれた足元に、あっさり瓦解してしまった。そうしてからになった椅子は、今もまた主という贄を待っている。

     親睦会と言えば聞こえはいいが、要は有力者同士のにらみ合いだった。あいた椅子を巡って、誰もが一歩を譲らない。そのくせ座りたがらないのは、腰を落ち着けた途端、標的になると分かっているからだろう。茶番としか言えない駆け引きも、嫌というほど横目で見てきた。彼も同じらしいのは、聞くまでもないようだ。

     先に吹き出したのは向こうだったと思う。咳払いで誤魔化した自分に、ますます笑い声が上がるのを、不思議と咎める気にはならない。彼も彼なりに、今の魔界には思うところがあるらしい。交互に並べた鬱憤は、小さいながらも見事に積み上がり、互いの壁を容易に飛び越した。

     男はアスモデウスと名乗った。派閥には加わらないことを信条として、要人や屋敷の警備を請け負っているという。こうして声をかける機会を、以前からうかがっていたようだ。

    「そういえば、まだ名を聞いていなかったな、同類よ」
    「くだらん。……私はガープ。貴様と一緒にするな」






     なるほど、声を掛けたのはそういうことか。聞いたばかりの話を束ね、ガープはため息とともに紙をくくる。
     あれから何度か、彼とは顔を合わせる機会があった。要人の警護、それも派閥を問わないとなれば、なにかとうわさも集まってくるだろう。当然、裏付けも取りやすくなる。

    ――ラフロイグ様が加わるそうだ。これからもっと面白くなるぞ。

     歪んだ笑みの名残に、悪趣味な、と胸の内で再び悪態をつく。
     挙がったその名前は、廃位された皇帝の忘れ形見だ。保護という建前のもと、幽閉に近い形で、軟禁されていたと聞いている。宮殿に戻ったあとも、その姿を見たという話は、まるで耳にしたことがない。
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