オレンジソーダのときめき ルミナモールへ買い物に行った帰り。ふと、この間用があって六課のオフィスにお邪魔した時、雅さんが「お前ならいつでも歓迎する」と言ってくれたのを思い出す。悠真が以前好きだと言っていたコーヒー豆を買ったせいだろうか。ビデオ屋はリンに任せているし、みんなに会いに行っても問題はないはず。恋人である悠真の顔が無性に見たくなって、気づくとアキラは車のアクセルを踏んでいた。
言葉通り、六課のみんなは突然訪ねてきたアキラを快く受け入れてくれた。さっと顔を見て帰るつもりだったのに、雅に「プロキシ、ゆっくりしていけ」と椅子まで用意されてしまい、今に至る。柳がおすすめのパン屋のあんぱんをくれたり、食いしん坊の蒼角が自分の飴を分けてくれたり。そうしてゆっくり過ごしていると、自分のデスクにいたはずの雅がいつの間にか目の前にいた。
「アキラ」
そう名前を呼びながら雅が差し出したのは、見慣れたメーカーの炭酸飲料だった。明るいオレンジ色で缶が塗装されている。
「これは……炭酸かい?」
「ああ。先程ファンだという者にもらった。だが、私は炭酸が少々苦手でな。お前さえよければもらってくれ」
「ありがとう、雅さん」
嬉しいよ、と素直にお礼を伝えると、雅さんは満足げに頷いて自分のデスクに戻っていった。
ちょうど喉も渇いていたし、早速飲もうかな。
そう思いタブに爪を引っかけようとするが、肝心の爪を昨晩短く切り揃えてしまったため、なかなか引っかかってくれない。しばらく缶と戦っていたアキラだったが、やがて諦めたようにタブから手を離した。金属部分に爪がかするシュールな音を、これ以上室内に響かせるわけにはいかない。
(これは帰ってから飲もう……)
そうアキラが諦めて、缶を鞄にしまおうとした時。
来た時から仕事の電話で忙しそうだった悠真が、椅子に座ったままこちらに移動してきたかと思えばアキラの持っていた缶を奪いデスクの上に置いた。
カシュッ。
悠真の手元で軽快に缶が開く音がする。そして、当たり前のように缶をアキラの目の前に差し出した。もちろん悠真の片手は今電話で塞がっているため、必然的に片手で開けたことになる。それも相手と喋りながら。
たった数秒間でここまでスマートなことを成し遂げる悠真に、不覚にも胸がキュンとした。悠真がかっこいいことなんて、とっくの前から知っているはずなのに。
ぎこちない動作で缶を両手で受け取ると、悠真の真剣だった表情がふわりと和らいだ。
「悠真、ありがとう」
電話の邪魔にならないように小声でそっとお礼を伝えると、口パクで『いいよ』と言ってくれる。その時の顔は、いつもアキラに向けてくれる穏やかな表情で。思わず照れて顔を背けると、悠真は口元にゆるく笑みを浮かべながら仕事に戻っていった。
自分の恋人の優しさとかっこよさを改めて知ってしまい、ばくばくと高鳴る心臓に見て見ぬふりをするため、アキラは開けてもらった缶の飲み口に口をつけたのだった。