いたずら 早朝、リタはあくびを噛み殺しながら「たんぽぽ組」と書かれた表札の下がった部屋の扉を開けた。今日は一人先客がいたようで、その後ろ姿を認めて胸がざわつく。扉の音に振り向いた彼と目が合った。
「おはよ」
「…っ、おはようございます、ダグ先輩」
柔らかな声で挨拶を投げかけられて、リタの心臓が軽く跳ねた。ダグと付き合い始めてからというもの、今まで以上に彼を意識してしまっているのが近ごろの悩みである。もちろん、仕事中は意識を切り替えているつもりだけれど。
リタの頭の中はすこぶる騒がしくなってしまったというのに、ダグは特段変わった素振りを見せないから気にくわない。顔を赤らめたダグを見たことはあるのだが、それだけでは物足りなかった。彼がこういった関係に慣れているからだろうか、あるいはこちらが意識しすぎているだけなのだろうか。いずれにせよ、自分一人だけ色恋沙汰に浮かされているなんてずるいと思った。
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