雪の国、春の隣「さっ、寒い!!アカン!!凍え死ぬ!!」
翼宿がようやく辿り着いた小屋の戸を開くと、荒れ狂う強風と雪は歓喜に沸いて踊るように舞い込んだ。
何も変哲もない、静かであったはずの場所は瞬く間に賑やかになる。飛び込むように小屋に入る翼宿の姿は、特徴的な橙色の髪も服装も見えず、頭から大量の雪を被ったかのように全身が白で覆われていた。
小屋の入り口で一度だけ振り返る。横殴りの吹雪で視界の悪い中、遅れて歩いてくる影が見えた。よろめきながらも強風に耐え、翼宿が掻き分けて作った道を辿っているのは相方の井宿だ。翼宿はその姿をしかと確認すると、そのまま小屋の奥へと上がり込んだ。
北甲国は雪解けの季節。その話を聞いたのはどちらだったか。しかし、そこに足を運ぼうかと呟いたのは井宿で、同行を申し出たのは翼宿であるのは確かだ。
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