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    nicola731

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    nicola731

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    書いたけど書き終わる気がしない俺ぐだとリンボマンの話

    俺ぐだとリンボマンの書き掛け カルデアに召喚されてすぐに道満はマスターと面談することになった。マイルームで椅子を勧められて腰を下ろす。召喚された英霊はマスターへ危害を加える可能性が無ければ、召喚後すぐに面談を行うのだと聞かされた。
    「はい、じゃあ好きなほう選んで書いてね」
     少年は机の上に二枚の紙を並べた。片方は無味無臭の事務的なもの、もう片方は女子が好みそうな可愛らしく淡い色合いのもの。
    「なんですかな、これは」
    「履歴書とプロフィール帳。書きたくなかったら書かなくても良いけど、名前の漢字とかくらいは知りたいな」
     主人に乞われたのであれば従うだけだった。書いている間、少年はボーっと何もない空間に視線を向けながら煙草を燻らせていた。記入を終えて履歴書を差し出す。受け取った彼は目を通して、二つ折りにして脇へ置いた。
    「ご覧にならないので?」
    「名前しか書いてなかったからな。末永くよろしく、蘆屋道満。仲良くやろう」
     皮肉でしかない少年の言葉に道満は歪な笑みを浮かべる。マイルームの天井から殺気を感じている。マスターに忠義を誓うアサシン達。道満がいつかの世界で踏み躙った彼等。少年もよく分かっているはずだ。
     道満は不安げな表情を作る。
    「ンンン、拙僧はマイマスターに滅私奉公、喜んでお仕えするつもりでは御座いますが……他の皆様がそれをお許しになられるかどうか…………」
     少年は「人に気を遣う性質じゃないだろお前」と鼻で笑う。
    「ま、喧嘩するなら俺の見えないところで死なない程度にやってくれ。お前を喚ぶのに大分リソース使ってんだからその分は働かせなくちゃな」
    「おや酷い。庇い立てもしてくれぬとは」
    「泣き真似が姫なのウケんね」
     袂で口元を隠しながら、よよと泣く道満に少年は棒読みで返す。少年が短くなった煙草を灰皿に転がす。
    「俺は、目の前の相手にはなるべく正直に話そうと思ってる。その相手に合わせてな。善人になら善性寄りに、悪人なら悪人寄りに」
    「それは何とも言えないんです器用なことで」
    「矛盾はしてない。言わないだけで、俺にも悪いことを考える脳味噌はあるよ」
     主人は「で、お前だから言うけど」と前置きしてから溜息混じりに言った。
    「お前が何をして、どうして憎まれているのか、俺は知っているが同調はしない。何故なら結構どうでも良いから」
     彼は新しい煙草に火を付ける。道満は黙って聞いているが、浮かべる笑みの下に不快感を漂わせている。あれだけ死闘を繰り広げておいて、己を打ち負かしておいて、あんまりにも「つれない」ではないか。そんなことを道満は思う。
     紫煙が部屋に漂う。主人は道満の揺らぐ感情を加味しない。
    「俺はお前等の持ち合わせた感情や因縁について、特に感想が無い。求められたら話しはするが」
    「薄情ですなァ」
    「適当に検討付けて喋るほうが薄情だろ。あと一々気に掛けてたら普通に病む」
     「俺は聖人君子じゃないからな」と少年は笑う。
    「俺がカルデアに来てくれた皆に求めるのは俺のために働いてくれることぐらいだ。後は野となれ山となれ、どうぞお好きにしてくれ」
     そんなことを言うものだから道満は黒々とした視線を向けてしまう。
    「では、貴方のいない場所であれば好きに蹂躙しても良いと?」
    「それについては『マスターからのお願い』パンフで説明しまーす」
     主人が差し出したのは三つ折りにされた一枚のパンフレットだった。表題は「マスターからのお願い 〜令呪での強制も有るよ!〜」。無駄に力の入った二頭身のマスターが横に描かれている。開いて中を見ると「安全三箇条」の文字。
    「はい、じゃあ復唱願います。その一、『カルデアでの私闘禁止』」
    「しとうきんし」
    「リソース限られてるからマジでやめろよな、というお願い。その二、『現地住民とスタッフを無闇矢鱈に殺すのはやめよう』」
    「むやみやたらに」
    「厄介事のタネになるし、唯でさえ人手不足なんだからやめろ、という理由です」
     無味乾燥。何の情緒も無い。つまらない。道満には不満しか無い。主人が道満を慮ることはない。
    「最後に、『自分のことをできるだけ大切しよう』」
    「…………何故?」
    「前の二つと同じ、資源の節約。以上」
     マスターは煙草の灰を落とす。無感動な彼の青い目は道満を映している。あまりにも無機質に。少年は今のところ、英霊達を純粋な戦力としてのみ語っている。道満の記憶している彼は、泣いたり笑ったりしていたのに。今では酷く淡々としている。
     道満がうんざりしたように溜息を吐き出すと少年は「なんだよ」と片眉を上げる。
    「情熱的に拙僧を求めて下さった割に随分と淡白でいらっしゃる」
    「お前には事務的な応対をしようと思って。キレる度に喜ばれてちゃやってらんねぇからな」
     「お前みたいな手合いはシカトが一番効く」と、少年は煙草を灰皿に押し付けて消す。
    「血反吐吐きながら地べた這い蹲ってるところ、最前列で見たいだろ?」
    「道化気取りで踊るぐらいなら俺と踊れよ、アルターエゴ」
     異星の神なんざ目じゃないぜ、と少年は影の刺す笑みを浮かべる。魅力的な誘いだった。道満だって最低限の楽しみは欲しい。
    「ええ、ええ。是非とも」
    「ま、宜しく頼むよ。俺はお前に期待してるんだから」
     主人は立ち上がり、これで面談は終わりだと英霊に告げる。道満も椅子から立ち上がる。
    「拙僧は貴方様に期待しても良いのですかな?」
    「おう、ヒイヒイ言わせてやるからな。楽しみにしてろ」
     少年は口元だけに笑みを浮かべた。道満は彼に一礼してマイルームから退出した。




     本当に虫の息にされるとは。道満は仰向けに転がったままそう思った。
    「道満お前、呼んだら返事しろよな」
     レイシフト先で巨大な魔猪に吹き飛ばされた道満は、庇ったはずの主人も共に谷底へ落ちていることに今気付いた。式神を使い果たして落下の衝撃を和らげた。その恩恵を主人は得ただろうか。
     地面に仰臥していた道満はどうにか体を起こす。
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