己の視力でなければ、死霊系の敵だと誤認していたかもしれない。ロビンフッドは既視感を覚えながら、壁に身体を預けながら少しずつ全身するバーソロミューを見てため息をついた。
おそらく、また種火を与えられたのだろう。頬は紅潮し、瞳は涙で潤んでいる。
「オタク、また種火喰らったんすか」
「……ああ、ロビン。君本当タイミング悪いな。今回はわざわざこんな深夜を選んだというのに」
バーソロミューの小言も聞かずロビンフッドは先日と同じ様に肩を貸してやり、部屋へと歩き出した。
それにしてもマスターと来たら。ここ最近バーソロミューに種火を与えすぎなのでは?
「今回はね、私が頼んだんだよ、」
「こうなるのが分かってて?」
「………肩をね、」
「ん?」
「肩を並べて居たいと思った、思ってしまった。彼らとの霊基の強度の違いは理解してるし、彼らには出来ない戦い方を私は出来る。でも、悔しかったんだよ、」
「話が見えないんですが」
「……フフ、先日カルナとちょっと手合わせしたのだけれど」
「負けたのが悔しい?」
「そこにパーシヴァルも参戦して、」
「三つ巴……」
「……まぁ力の差を思い知らされてね。嫉妬だとかそういうのではないし友であると再認識したけども、……やはり私は海賊だからね。単純に強さが欲しいと思った。欲しいと思ったらあとはなし崩しだ、マスターから聖杯転移の話を受けて一も二もなく了承した。火力なんてあればある程いいだろう?」
「ちょいと意地悪な事を言っても?」
「いいよ」
「……オタクの心に居座ってる男の心は欲しいと思わないのかい」
「はは、……夜空に輝く星を手中に収めようだなんて誰も思わないだろう?見惚れはすれど、美しいとは思えど、ただ愛しむだけでいい」
「なるほど。……ちょいと失礼」
熱に浮かされたバーソロミューには聞こえなかった様だが、少し遠くの方から足音がこちらに向かって近づいていた。
廊下は一本道であり、姿を隠せる場所など何処にもなかった。ロビンフッドは己のマントでバーソロミューを覆った。
「ロビン?」
「余計な世話なら悪い、……その顔見られたくないんじゃないか、と」
「ありがとう……、助かるよ」
バーソロミューは押し付けられているロビンフッドの胸筋に頬擦りをした。
どうやら相当量の種火を与えられたらしい、とロビンフッドは動揺を隠しながら思った。
「やぁ、ロビンフッド。こんな深夜に何か用事でも?」
「散歩ですよ、散歩。円卓の騎士様こそこんな時間に珍しい」
マントの中のバーソロミューは身体を強張らせた。
ロビンフッドは背中に腕を回されるのを感じた。何が何でも見られたくないらしい。
「……私も散歩だよ」
「そーですか。ま、いつ呼び出しがかかるかも分かんないんで早めに休みなよ」
「そうするよ、ありがとう。……マントの中の彼にも宜しく」
言葉こそ温厚なものではあったが、ロビンフッドはパーシヴァルの怒りにも似た諦念にも似たその表情わを初めて見た。マントの中の人物が誰であるのか把握しているのだろう。
(いや、そもそもアンタら付き合ってないんじゃなかったか、互いに欲しがりもしない癖に嫉妬するのはお門違いなんじゃないの)
損な役回りを引き受けてしまったものだ。ロビンフッドは己の判断を少しばかり後悔した。なんで俺が間男みたいになってるんですかね!!
◼️◼️
「もう行った。……から、離してくれません?俺のアバラ折る気?」
「……すまない」
「そんなに騎士様を恋焦がれてるなら、種火喰らう度に抱いて貰えば?」
「いやだ!!!!!」
「そんなに?」
「だって、彼はきっと懇願すれば私を抱くだろう。脆弱な私を哀れんで、ね。嫌なんだよ、言っただろ対等でいたいんだ。憐れみなんてクソ喰らえだ、馬鹿にされてるのと変わらない。……彼が私を抱きたいとお強請りすれば話は別だけど」
「あーあ、アンタら本当面倒くさい。自分で始めた責任取りたくないだけなんだろ、終わらせる度胸もないから始めたくない。ただそれだけ。違う?」
「〜〜っ!なんで、君、今日はそんなに意地悪なんだ」
「言ったデショ、意地悪な事言うって。それとも俺の事煽ってたり?種火でガンギマってるアンタなら抱けると思いますし?俺と対等で居たい訳でもないだろうし」
「それは私が煽られているのかな?やっぱり無理ですごめんなさい、と言わせたい?……私とてメカクレの君になら脚を開けるけども?」
「そんな顔で言うセリフじゃないんだよなぁ……あー、もう寝ろ寝ろ、サーヴァントは夢を見ないにしても、いい記憶を思い出すくらいはしてもいい筈だ」
「ありがとう。君とのこの会話すら私には《いい記憶》だよ」
「へいへい」
そんな会話を交わして今日もバーソロミューを部屋へと押し込み、ロビンフッドは己に宛てがわれた部屋へと戻った。
何一つ嘘はついていない。抱けと乞われれば抱ける。けれどバーソロミューがそれを望んでいない以上、実行に移す事はない。
面倒はお断りだった筈なのに。ロビンフッドは己の感情に戸惑いながら帰路へ着いた。