「いい加減、腹を括ったらどうです」
ポロロン、と弦楽器を鳴らしながらトリスタンは口を開いた。
ここ最近の円卓騎士の間でよく話題に登るのはパーシヴァルと海賊バーソロミューの恋についてであるが、一向に進展しない2人に業を煮やしトリスタンがパーシヴァルに直球を投げつけたのであった。
「愛しているのなら伝えるべきでは?愛しているのなら触れたいと思わないのですか?……もしやパーシヴァル卿は、その、……勃起不全?」
「いや!人並みに、……性欲と言うか、劣情を抱く事はあります勿論。しかし、彼がそれを望んでいない。私は彼と微笑み合うだけで満足なのです」
「己の劣情を隠して、本心を隠したままで満足だと?」
「ランスロット卿、……貴方はもう少し自重すべきだとは思いますが……」
「ま、まぁ私の話はさておき。今はパーシヴァル卿の話だ。兎に角、卿は満足しているとバーソロミュー殿に嘘を付いている。貴方と私は同じ気持ちなのです、と」
「穿った物言いをすればそう、ですが……だって、こんな気持ちは初めてで、」
「思った事をそのまま口にすれば良いではないですか」
「伝えた。美しいと思った事も、気高い所も聡明な所も好ましい、とも。けれど伝わらない。社交辞令だと思われている」
「でも、好きだ愛していると直球で述べた事はないのでしょう?彼はきっと《褒めるのは騎士の気質なのだ》と言うことにしたいんでしょう、貴方とバーソロミュー殿は臆病者ですからね」
「トリスタン卿。さすがに侮辱が過ぎます。私の事はいい。だが、彼の事を悪く言うのは許せない」
「言わせているのは貴方です、パーシヴァル卿。貴方がもっとちゃんとしてれば言われないのです。想いあってるだけで満足?夢精もしてない子供ですか貴方は。人の気持ちに永遠等と言うものはない。バーソロミュー殿がこの先、貴方以外と結ばれても笑顔で祝福出来ますね?口付けをしても身体を交わらせていても貴方には責める事も悲しむ事さえも許されない。……そんな醜い嫉妬心を覚えた事は?まだない?そう、それは幸せな事だ」
「……ある。……あります」
パーシヴァルは拳を強く握りしめた。
確信は持てないが、おそらくはバーソロミューであろう人物が庇護されるかの様に抱きしめられているのを見てしまった。
本当はその時に気付いていた。トリスタンに言われるまでもなく己の中の醜い嫉妬心になど、とうに気付いていたのだ。
頼るなら、どうか私を。何も伝えてはいないのに、独占欲だけが先行して思わず口にしそうになる。
ドバイへのレイシフトから帰って来て以降、バーソロミューへの想いは止まる事を知らずにパーシヴァルの中で溢れかえっていた。
それでも人理の為、マスターの為召喚された身で己の感情の為に動く事などあってはならない。そう言い訳をしていた。
「だが、」
「それでも欲しいなら奪ってしまえば良いのでは」
「ランスロット卿、お黙りなさい。清き愚か者を貴方と同じただの愚か者にする気ですか」
「グッ……すまない」
「とは言え、急に距離を詰めれば躱されるのは目に見えているので、ね」
パーシヴァルは紅茶を飲み干し、微笑んだ。
「海鳥が自ずと帰ってくる宿り木になれるよう精進するとしましょうか」
(宿り木がする表情ではないんですがね、ポロロン……どちらかと言うと海賊寄りであるのは暫く黙っている事にしましょう)
せっかく二度目の生の得たのだ。務めは果たせど少しくらい楽しんでもいい筈だ。
同僚と、出会うはずも無かった未来のウェールズの子との恋を応援したいのだ。
トリスタンは弦楽器を奏でながらパーシヴァルとバーソロミューの恋模様を想った。