マイルームにて。
今日は《カルナの友人はわしの友人!宴を開く故来るといい!》と半ば強引に取り付けられた約束の日である。時間までどう時間を潰そうか。バーソロミューがそう考えているとマスターからお喋りしよう!と誘われ今に至る。
どうやらマスターも暇を持て余していたらしい。
◼️
「えー、俺の秘密……?」
誰しもが秘密を抱えて生きている。最初は確かそう言う類の話であった気がする。
深夜に食堂の作り置きを平らげた話、恋の話、用事もないのに巌窟王を呼び出し困らせていた昔の話、……
マスターのそう言った他愛のない秘密はバーソロミューに取って可愛らしく、守ってやりたくなるものだった。
「所で、そのクローゼットの中の秘密はいつ話してくれるのかな?」
秘密を暴露している最中、マスターはちらちらと何度もクローゼットに目をやった。隠そうとすればする程、目を向けたくなるものだ。こんなにも嘘が下手でこの子は大丈夫なんだろうか。
「あー、えーっと、何で分かるの……」
「ん?性的なものでも隠しているとか?私とて、お気に入りのメカクレ本は厳重に保管しているからね!気持ちは分かるよ!先日購入したメカクレ本当は神がかっていてね、どうだいマスター君もメカクレになると言うのは。メメメ、メカクレ〜♪」
「……メカクレになったらこの中見ても許してくれる?」
「まだ見てないけど、大抵のことはメカクレには敵わないからね!いいよ!」
マスターは立ち上がり、そっとクローゼットの扉を開いた。
ーーーそこには。
「ひえ……」
「……俺の事、嫌いになる……?」
マスターはいそいそとメカクレウィッグを被りながらバーソロミューを見やった。
「いや、嫌いにならない。ならないけどもこれは……」
そこには沢山のバーソロミューが居た。
まるで人形の様ではあるが、自分自身の事は自身でよく分かっている。
(これらは。私だ)
正真正銘、バーソロミューであった。
基本的に同じサーヴァントを召喚した際は融合させるか、さもなくば焚べてしまうのが常であるはずだ。それが何故、こんなにも大量の自分がいるのか。それに再臨姿も様々である。
時折、素材の在庫が合わなくなっているとダ・ヴィンチが嘆いていたがどうやらここで使われていたらしい。
「前はね、ちゃんと焚べてたんだけど、何でか分かんないけど夏以降焚べたくなくなっちゃって、……最初は1人だけだった、悪夢の中にバーソロミューが来てくれないかと思って一緒に寝たりしてた。……たまに!本当に極稀にだから!!!」
「マスターが手に入れたものはマスターの戦利品だからね。好きにしていいし、嫌いになどならないよ。むしろその収集癖には目を見張るものがあるね!しかも私は伊達男だからね!集めたくなる程いい男だと褒められている様じゃないか!」
「バ〜〜ソロミュ〜〜〜うわぁぁん好きぃぃぃ〜〜〜」
「はいはい。私も好きだよーよしよし」
大粒の涙を流すマスターを抱きしめ、頭を撫でてやる。マスターとは言えどもまだ幼い少年である。不意に寂しくなる事もあるのだろう。
バーソロミューは己がまだジョンと呼ばれていた少年時代を思い出し、マスターを抱きしめる腕に更に力を込めた。
「あの、バーソロミュー。マスター」
ドアの方からパーシヴァルの声がした。
「何度もノックはしたのだが、申し訳ない」
「パーシヴァル!ごめんね、バーソロミューと約束があるんだったね!」
「いえ、構いません。所でこちらをご覧頂きたい!」
パーシヴァルは胸許から数枚の概念礼装を取り出しマスターとバーソロミューに見せつけた。その全てにバーソロミューが載っている。
「……うん?」
「……私にも、その、それをやって欲しくて、その……」
「それ?」
「あっ!パーシヴァルもよしよしして欲しいの?」
「そ、……そうです……」
「ンッフフ……寝物語に聞いていた騎士様からのお強請り……別に私を収集してたから頭を撫でた訳じゃないんだが……ふふっ……まぁ、蹲みたまえ」
言われるがままパーシヴァルはバーソロミューの側に膝をついた。所作の一つ一つが物語の中の騎士そのもので、そんな彼が己に頭を撫でて欲しいと強請る様をバーソロミューは可愛らしく思った。
一旦マスターから手を離し、パーシヴァルの両手でわしわしと頭を撫でてやる。あっこれ大型犬だ。心なしか尻尾まで見えてきた気がする!
「よしよし、パーシヴァル。君はいつもかっこいいのに、なんで今日はそんなに可愛いんだ?あはは!」
「マスター……今しばらくお許し頂きたい。何せ私にはこうされる機会などそうないのですから」
「君、されたかったのかい?」
「貴方に、されたい」
「ンッフフ、素直で可愛いな!……いい子にしてたら、また、ね」
いい子、に何か意図が含まれている気はしたが、パーシヴァルはそれには気付かないふりをした。
「バーソロミュー、パーシヴァル。カルナがお迎え来てるよー」
「遅い。……が、バーソロミュー。そんなに良いものか。俺もアシュバッターマンにやってみる。ドゥリーヨダナにはやられているからな」
「カルナ。私は撫でている側なんだが……」
「見れば分かる」
「推しが楽しそうで俺も嬉しい!」
「さて、そろそろ時間だ。行くぞ」
カルナはバーソロミューとパーシヴァルの手首を握り、マイルームから2人を連れ出した。あっという間に姿が見えなくなる。さすが英雄。
仲良くて何より。マスターはクローゼットの扉を閉めながら微笑んだ。