「なーにソワソワしてるんでちか、気持ち悪い」
「自覚はある。……だって仕方がないじゃないか!食堂を見てみろ!」
バーソロミューは食堂を指差した。そこにいたのは地母神の様に微笑み腕組をするエミヤと、明らかにサイズの合っていないエプロンを身に付けたパーシヴァル、可愛らしいフリルが施されたエプロンを付けたナーサリーライム、アビゲイル、ジャック。
「バーソロ、ついにロリっ子に目覚めた?」
「違う!違うんだ、まぁ聞いていけ」
「拙者これからDVD鑑賞会が〜」
ガチャリ、と音を立てて黒髭の額にカトラスが向けられ、バーソロミューは再び聞く様促す。
「今からお菓子作りを始めるらしいんだが」
「あらまぁ可愛らしい」
「私の絆10になった記念パーティをするらしい、しかも私に秘密で準備を進めているんだ……私がメカクレ以外に萌えを感じる日が来るなんて……っ!」
「あ、これただの惚気話か」
「見ろ、あのサイズの合っていないエプロン。ビーマに借りれば良いものの、エミヤに借りたせいで胸が隠しきれてないじゃないか!」
「バーソロ、キモイ」
「うるさい!壁を見ろ!絵が貼られてるだろう、あれはな……ボイジャーと子ギルが描いた私だよ……それに食堂であんなに大きな声で喋ってるのにまだ私には気付かれてないと思ってるんだ!どうだ、この居た堪れなさ!」
「要するに、彼ピとロリっ子達が自分の為にサプライズ計画してて嬉し恥ずかしバーソロは楽しみで居ても立っても居られない、と」
「まだ彼ピじゃない!!!ああっ見ろ、袋を開けたら勢い余って小麦粉を撒き散らしたぞ!可愛いだろう!」
「はいはい、そーね」
大きな身体を縮ませ、パーシヴァルはしょんぼりと肩を落としていた。ナーサリーライムとアビゲイルが慰めながら小麦粉を叩き落とす。
隣ではエミヤがハサミを使い、新しい小麦粉を開けていた。
「ところでバーソロ、もう五億回聞かれてると思うんでちが、何で付き合わないんでちか〜明らかに相思相愛とか言うやつでは」
「……」
「急に静かになるの怖っ」
「は、」
「え?」
「恥ずかしいだろう……」
「は?は?はぁあああ????」
「だから!あの清廉潔白な騎士様が私を好いてるのは知ってる!私とて!……私も、その、……悪い気はしてない訳なんだが、いや、私も同じ様な気持ちを彼に、……」
「うっわ、マジのやつじゃん、さっきまでの勢いは?ボリューム機能壊れた???」
「座に還った。そんな事よりもお前はドレイクとどうなったんだ」
「は?あ、あああんなBBA興味ないですしおすし」
「はいはい、そーね」
「そそそれより!彼ピまたやらかしてますけど〜?」
「彼ピじゃない!次はどんな可愛い事をやったんだ」
「ゴムベラが折れてますな〜これまじでバーソロ、抱かれたら座に還っちゃうやつでは??」
「んー……」
「エミヤ氏の顔が引き攣って来ましたぞ〜なんならロリっ子の方が上手なんだが??」
「あああああ、そんな彼が!私の為に頑張ってるんだ、黙って見てろクソ髭!!」
「いやだから何で付き合ってないん……」
「あの顔で直視されたら座に還ってしまうだろうが!」
「好きじゃん」
「うるさい!40近い私が倍近く離れた男と付き合う!?何の罰ゲームだ!私がいかに伊達男だとしても!……彼にはもっといい人がいる、きっと」
「まぁ、自信がないならそれで良いんじゃね?」
「なんだと、」
「あー面倒くせぇな!お前の逃げ口上はもう聞き飽きた。それならそうとさっさと振ってやれば?手離す勇気もないくせに、ぬるま湯に浸って1人で気持ちよくなってんじゃねーぞ、ばーーーーか!!」
「お前だってドレイクのことばかり気にしてるくせに!ばーか!ばーーーか!!!」
「おい、隠れるつもりならもうちょい上手いことやったらどうだ、ただでさえデカいんだから」
背後からテスカトリポカが海賊に声をかけた。
手にはラム酒が握られている。
同じサーヴァントであるものの、相手は神だ。バーソロミューは彼の機嫌を損ねない様最新の注意を払った。
「ご機嫌麗しゅう、テスカトリポカ神。あ、ああ気をつけよう。サプライズに気付いてしまうのはマナー違反だ」
「ほれ」
「ありがとう?」
「今日はお前の絆10おめでとうパーティなんだろ。地獄へようこそ」
「えっ」
「クラス相性関係なく周回三昧だ、おめでとう」
「ははぁなるほど、《絆集めが終わるとどうなる?知らんのか、絆集めが始まる》ってやつですな!ガハハ、バーソロ乙」
「レベル120までの種火の数も尋常じゃないからな、頑張れよ。俺はもう二度と種火なんざ見たくない」
「ヒエ……」
テスカトリポカは言いたい事を言い終わったのか、バーソロミューに軽くハグをしてから颯爽と去っていった。
「……緊張した……」
「バーソロ、神とお知り合い?」
「なんか……時々話しかけてくる……そしてスマートに去っていく……」
「拙者もスマートにハグしてやりますぞ〜」
「おい!やめろ髭!顔を近付けるな!」
「あ、の、……バーソロミュー。取り込み中かな?」
背後から声をかけてきたのは、食堂にいた筈のパーシヴァルであった。
彼らしくない、強張った笑みを浮かべている。バーソロミューは己の状態を鑑みて血の気が引く思いがした。
「取り込んでない!!離れろ髭!違う、違うんだパーシヴァル、誤解しないでくれ!」
「テスカトリポカ神にハグされる所から見ていたので……」
「大丈夫じゃなさそうでちけど〜?」
「いえ!テスカトリポカ神には何も思わなかったのに、エドワードにはモヤっとしたとかそんなのではないんです!!!」
「拙者にジェラっちゃった?」
「うるさい髭!ところで!パーシヴァル、どうしたんだい?」
「バーソロミュー、先日絆10になっただろう?そのお祝いをしたくて……良かったら今から」
「ありがとう、お邪魔させて貰おうかな。んふふ、君、鼻に小麦粉を付けたままじゃないか」
「エドワード、良かったら君も」
「いや〜、拙者これから予定がありましてぇ〜、パー氏もハグしてお祝いしてやってくだちい!でわ!」
「ひ、髭、貴様ぁあああ……」
黒髭はドスドスと音を立てながら廊下を走った。
仲良しこよしの甘々パーティなんて冗談じゃない。そんなものは当事者が楽しめば良いのだ。
「あの、貴方の嫌がる事はしたくない。エドワードはああ言っていたが、」
「嫌じゃない、嫌とかそういうのじゃないんだ、でも、」
「なら、お手を。もう準備は出来てる、どうか貴方の栄誉を祝わせて欲しい」
「じゃあエスコートをお願いしようかな、私を満足させてくれるんだろう?」
「もちろん。全力を尽くしましょう!」
差し出されたパーシヴァルの手のひらに己の手を乗せる。伝わってくる体温をバーソロミューは愛しく思った。
ああ、パーティ会場までの道のりがもっと遠ければ良いのに!