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    j_gg0r

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    POIPOI 36

    j_gg0r

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    オルタ化したパ卿と、それを戻そうと奮闘するバの話(パーバソ)
    捏造過多ですご注意ください。

    私の宝具で敵を倒した。
    ——と、思った。

    倒した筈だった。
    一斉掃射の後、確かに敵は一瞬退去しかけていた。
    だが、敵は最後の瞬間、力を振り絞り呪いの言葉を吐いて何か得体の知れない霧を噴きかけてきた。

    「バーソロミュー!」

    後方で控えていたパーシヴァルが私の腕を引き、霧がかからない様身を挺した。
    代わりにパーシヴァルがその霧を浴びた。

    敵は満足気にそれを見てニヤリと笑い、消えた。




    **

    呪いの類でしょうね、と共に闘ったモルガンは言う。
    彼女は呪いについて一家言ある。事実なのだろう。
    現にパーシヴァルの髪色や眼球の色が禍々しい色へと変わり始めている。ミシミシと彼の霊基が歪んでいくのを肌で感じた。
    悲しいことに、レイシフトしたサーヴァントの中には解呪出来る者はいない。私も攻撃に特化したスキルしか持ち合わせてはいない。彼を癒やせる者はこの場にいないのだと思い知らされる。
    脆弱な霊基の私であれば、霊基にヒビが入り割れてしまっていたかもしれない。だが、彼のこんなに苦しそうな表情を見るくらいならその方がマシだった。残るべきはパーシヴァルだった。
    私なんかに惚れたせいでこんな目に合って。
    可哀想なパーシヴァル。
    もっとも、己を卑下している訳ではない。ただ、この先もっと強大な敵が現れた時に私よりもパーシヴァルの方が戦力になる。そう思っているだけだ。
    それは単に効率の問題だ。火力でごり押し出来るならそれに越した事はない。

    「バーソロミュー……」
    「パーシヴァル!無事かっ!いや無事じゃないな!具合は!」
    「……私の理性が、……記憶も人格も、私のままであるのに、……バーソロミュー、私から離れて。出来るならば事が済むまで近付かないで欲しい」
    「なぜ、」
    「……愛してるよ、バーソロミュー。だからこそ、だ」

    パーシヴァルは私の手を振り払い、その場から去ってしまった。

    ——愛している、の一言で全てが片付くと思うな。
    悲しい。寂しい。悔しい。すまない。そういった感情が私の中に渦巻く。
    私に罪悪感だけを残して彼は消えてしまった。
    君の愛は君の身体以上に重いが、私だって同じ重さを君に抱いているんだ。
    かつて掠奪した400隻・5000万ポンドにも匹敵する宝を私がみすみす逃すだなんて思っているのか。 

    清廉潔白な彼の魂は邪な物に侵食されていた。まるで白が黒に反転していく様だった。

    ——オルタ化。

    パーシヴァルは呪いによって内側から別側面を顕現させられオルタ化させられている、と思う。
    どんなパーシヴァルだろうが惚れるなどとは言わない。私の騎士は、あのパーシヴァルだけだ。パーシヴァルオルタではない。
    奪って奪って奪って、最後に奪われるのが海賊。オルタにパーシヴァルを奪われてしまった。
    けれど今はまだその時ではない。我々の関係が壊れてしまうのはもっと後でいい。いずれ、マスターがサーヴァントを必要としなくなる日までは。

    私は私の宝を奪い返しに行く。





    ▪️

    オルタ化の解除についてダ・ヴィンチ嬢に助言を求めた。

    曰く、オルタ化の解除は難しい。

    何せ、別のものが取り憑いたのではなく、あくまでオルタとはオルタナティブ——彼の別側面であるからだよ。オルタ化していても、パーシヴァルはパーシヴァルなんだ。イフの世界のパーシヴァル。
    平素ならば、別個体として顕現される。だけど、今回に限っては人為的に体内にオルタを孕まされた状態だ。そうしてオルタが表に出て来た。

    オルタ——例えば、何処かで絶望し、世界を呪ったかも知れない彼。己の人生を恨み闇堕ちした彼。優しさを捨ててしまった彼。隠していた欲望が隠しきれなくなった彼——。
    いくらでも別側面は形成される。今のパーシヴァルが、どういう事情を擁したオルタなのかは知らないけど。
    ああ、そう悲観しないでくれたまえ!
    ジャンヌオルタを知っているだろう?
    彼女はジル・ド・レェが己の聖女にこうあって欲しいという想いがあり、聖杯がその願いを叶えた。彼女には負の側面などなかったのにね。
    いや、もしかしたら一滴程の負の感情でさえも別側面として認識されてしまうのかも知れない。
    とかく、様々なケースがあるんだよ。

    で、だ!彼が本来擁しているものを否定するのではなく比率を戻してやるべきだ。
    今彼はほんの少しの——それこそ一滴には満たない程の感情かも知れないが——負の感情に支配されかかっている。清廉潔白な彼が負の感情に上書きされている状態だね。
    別個体として顕現されたならともかく、今はパーシヴァルとパーシヴァルオルタが一つの身体を取り合っている状態だと考えられる!
    であるならば、負の感情を助長している呪い本体を叩くべきだと私は思う。解呪して、元のパーシヴァルを掬い上げる。
    それが出来るのは——パーシヴァルをパーシヴァルオルタから奪えるのは君だけだと、私は思ってるよ。
    大海賊バーソロミュー・ロバーツ!

    ——との事だった。
    それからしばらく、ダ・ヴィンチ嬢の考察を聞いた。今後パーシヴァルオルタがどう言った行動を取るのか、どう言った武器を手にしているのか。
    すべては考察に過ぎない、と彼女は眉を下げ口端を無理矢理吊り上げて見せた。
    私だけにしか出来ない事だ、とダ・ヴィンチ嬢は言った。それは事実なのだろう、と思う。
    パーシヴァルがオルタになりかけている時の眼差しは恋愛に疎い私でさえ理解出来た。私を欲しているのだ、と。
    無論、すでに恋人同士ではある。
    だが、恋人らしい行為をした記憶を手繰ってみれば、二、三度の口付けと抱擁だけだった。
    もし、本当は彼がそれ以上の事を求めているとすれば、ダ・ヴィンチ嬢の言う《隠していた欲望が隠しきれなくなったパーシヴァル》であると考えるのが妥当だ。
    私とて本気で彼との行為を拒否していた訳ではない。ただ、恥ずかしかっただけだ。
    そうしていつしか彼は身体を求める様な発言はしなくなった。

    ——オルタ化したのは、私のせいか?

    思えば、いつも彼に我慢を強いていた気がする。
    いつだって彼は私に優しかった。私の心情を汲んでくれた。私はそれに甘えて、いつしかそれが当たり前になっていた。
    そう言った日々の積み重ねがパーシヴァルの心の中に膿の様な物を形成していったのではないかと思う。

    だが、それがどうしたと言うのだ。

    私が我儘で奪う事を良しとする悪党だと彼は知っていた筈だ。知っていて、私に愛を囁いたのだ。
    ならば、彼は彼の責でオルタになったし、私は私の責で宝を奪われた。

    「マスター。今から至極勝手な事を言うよ。——私のパーシヴァルを奪い返す手伝いをして欲しい。勿論私は貴方のサーヴァントだ。貴方を守って死ねる。だけど、私にはパーシヴァルが必要なんだ」
    「いいに決まってる!パーシヴァルは大事な仲間だもんね!別にオルタを否定する訳じゃない。でも、貴方にとってのパーシヴァルは、パーシヴァルオルタじゃない。俺にだってそれ位分かるよ」
    「ありがとう、マスター」
    「これ、預けておくね」

    数拍の間置かず即答してくれたマスターには感謝しかない。
    私とパーシヴァルの関係を知ってはいる筈だが、私怨による戦闘を許可された事に私は少し驚いた。
    そんな私にマスターはポケットから小さな何かを取り出し、私に手渡した。

    「これは?」
    「ビリーに貰ったんだけど、銀の弾丸は祈りを込めるものなんだって。もしかしたら貴方の祈りが刺さる事があるかも知れない。お守り代わりに持っておいてよ」
    「重ね重ねすまないね、マスター。有り難く貰っておこう。だが、祈りでは足りない。私に出来るのは奪う事だけだよ。必ず私の手に戻すよ、——私の宝を」




    ▪️

    あれ程長くパーシヴァルの魔力に触れてきたのだ。
    パーシヴァルの居場所くらい肌で感じる事が出来る。——などと、綺麗事を言ってみたが単に私の肌に残るパーシヴァルの魔力を辿っただけだ。
    パーシヴァルオルタは己の魔力を隠す様子すら見せなかった。

    「パーシヴァル、」

    ようやく見つけた。どちらかがマスターに同行しレイシフトしている時の方が時間的には長い筈なのに、パーシヴァルを探していたこの期間は永遠の様にも感じられた。

    「……離れておく様にとパーシヴァルがあれ程言ったでしょう?」
    「私を誰だと思ってるんだ、混沌悪の大海賊バーソロミュー・ロバーツだぞ!たとえパーシヴァルからのお願いでも納得出来ないお願いは承服出来かねるね」

    パーシヴァルの白髪も白い鎧も、まるで彼の心を表すかの様にすべてが黒く染まっていた。
    これがオルタか。
    彼なのに、彼ではない。
    まるで双子の別人でも見ているかの様だった。

    「混沌悪、か。貴方は私との比較によくそれを口にしますね。今の私も……混沌悪ですよ」
    「なるほど、お揃いだ。だが、生憎私のパーシヴァルは秩序善なんだ。私には少し眩しいくらいに、ね。だから君にはご退場頂こう」
    「パーシヴァルですよ、私は」
    「残念、解釈違いだ!」
    「残念、ご理解頂けない様だ!」

    両腕から銃とカトラスを顕現させ、パーシヴァルオルタに向ける。
    対するパーシヴァルオルタは私に矛先を私に向けた。
    その槍は彼の持つ潔白を模した様な槍ではなく、燃える様な憎悪を顕現し黒光りしていた。

    「その槍は……、ロンギヌスじゃないのか」
    「ギャラハッドからしても解釈違い、と言うやつなのでしょう。私では二重拘束が解けない。この槍は借り物です。クリヴァルとか呼ばれているようですね」

    ダ・ヴィンチ嬢の考察はさすがだった。
    曰く——彼、多分ロンギヌスは使えないと思う。二重拘束が解けないだろうからね。
    パーシヴァルオルタは聖杯を見つけたパーシヴァルじゃない。共に探索したギャラハッドが普段ロンギヌスを封印している訳だから、二重拘束解除の許可は出ないんじゃないかな。
    んー、円卓の騎士だからケルト神話辺りの槍でも引っ張って来そうな気はするね。
    例えば、——ドゥフタフのルーン。もしくは毒槍クリヴァル。
    ダナーン神族の槍で、イチイの樹から出来ているそうだよ。ロビンのイー・バウもイチイの樹から出来てるよね。それと同じ様に毒性を帯びてる。
    恨みを以てオェングスという男がこの槍を使いコルマク・マク・アルト上王の片目を奪ったって伝説もある。
    まぁ、あくまでこれは妄想に近いからね。与太話として聞いておいてくれ。


    「毒槍クリヴァル……」
    「おや、ご存知でしたか」
    「という事は君はアベンジャーなのか?パーシヴァルとオェングスが混じったハイサーヴァントなのかな?」
    「……そういう伝説もありますが、私自身恨み辛みを持っているわけでも復讐したい訳でもない。混じってもいない。私は騎士です。クラスはランサーですよ。ランサーでありたい。」
    「騎士、か。パーシヴァルは守護騎士だったけれど……君はどんな騎士なんだい?」

    全てを護り、全てを愛した。
    私の騎士はそういう男だった。

    「護るものはもうない。我が王はカムランで死した。
    探し物も見つからない。奇跡を信じられなくなった私には見つけられる筈もない。
    純潔でもない。それは魔女に奪われてしまった。
    ギャラハッドも私を認めない。
    ない。私には、何もない。全て奪われたこのパーシヴァル……いえ、貴方がいう所のパーシヴァルオルタはただの伽藍堂でした。
    そこへ君が来た。一目見た瞬間、それだけで私の心は満たされたのです。貴方が私の心を奪った。代わりにその穴を貴方が埋めた。
    なのに、バーソロミュー。君も私から離れていこうとする。私を伽藍堂に戻そうとする」

    己の存在価値などないに等しい、とパーシヴァルオルタは自嘲する。
    全てを持ち合わせていないパーシヴァル。それがパーシヴァルオルタだった。

    「……それだけは許されない。許さない、私から逃げようとするなんて悪い子だ。お仕置きしなければ。私のバーソロミュー。私の所有物であると自ら口にするまでその身に私を刻んであげよう」

    こっちが本性か。
    やはりパーシヴァルオルタはパーシヴァルオルタであって、私のパーシヴァルではない。
    彼はその様な事を口にはしないし、己を伽藍堂だなんて表現はしない。何も手にしていなかったとしても雲一つない空の様にカラリと笑える男だ。

    とはいえ、パーシヴァルが持つ逸話全てを失ったパーシヴァル——パーシヴァルオルタに同情しない訳ではない。
    私とて400隻・5000万ポンドを掠奪しえなければ《大海賊バーソロミュー・ロバーツ》とは言えまい。
    パーシヴァルと自認しているのにパーシヴァル足り得る確たるものが何一つない。これ程不安な事もないだろう。
    だからと言って、私は私の宝を諦める訳にはいかない。二度とパーシヴァルに会えないのは嫌だ。
    同じ顔で、同じ声で、同じ様に愛の言葉を囁かれても私の心は靡かなかった。
    パーシヴァルオルタには悪いが、消えて貰う他ない。

    「 —————————— —————— ! 」

    パーシヴァルオルタは宝具を放ってきた。
    言葉は聞こえなかった。己を《伽藍堂》と評するパーシヴァルオルタには詠唱すら《ない》のかも知れない。
    痛みはなかった。代わりに周りの景色すら、なかった。どうやら空間転移の能力を有する宝具であるらしい。




    **

    「ここは、」
    「私の固有結界です。宝具が発動している間は誰も入って来れないし、貴方はここから出る事も出来ない」
    「じゃあ君を倒したら?」
    「出られます」
    「じゃあそうするしかないな。お別れの時間だよ、パーシヴァルオルタ」
    「私は貴方に攻撃を仕掛ける気はない」
    「……は?じゃあ君、私をこんな所に閉じ込めて何がしたいんだ」
    「触れたい。——パーシヴァルとして貴方に触れた記憶ならある。手を繋ぎ、児戯の様なキスをした。だが私はパーシヴァルであってパーシヴァルではない。私は、……《パーシヴァルオルタ》は貴方に触れてみたいと思う」
    「えらく紳士的な物言いだけど、要するに犯したり嬲ったりしたいって事だろう。誤魔化すなよ」

    パーシヴァルオルタが顕現した瞬間の眼差しは今でも忘れられない。
    あれは奪う側の眼差しだった。
    私と同じ所にいる側の、誰かと何かを共有する事が出来ない悲しい人間の瞳をしていた。

    「どちらかと言うと舐りたい、の方ですね。酷い事をしたい訳じゃない。そう、お仕置き、とは言いましたが傷つけたい訳ではないんです。貴方が拒絶し続けるなら吝かではありませんが。私は別に貴方の中で果てたい訳じゃない。ただ頭から爪先まで全てを文字通り味わいたいだけです」
    「はは、喰われてしまいそうだ」
    「喰べはしませんよ、愛するだけです」
    「流石は傲慢な騎士様だ。パーシヴァル以外に身体を許してしまえば、そんなのは浮気だよ。浮気は良くないって君も言ってただろう?」
    「私もパーシヴァルですよ」
    「君は《私のパーシヴァル》ではないよ。……ごめんね、私が好きなのは私のパーシヴァルだけだから。こう見えて身持ちが硬いんだ、私は」
    「ええ、知っています。だからこそ私は貴方が欲しい。私だけの貴方になって欲しい。貴方が欲しいのです」
    「嫌だよ。永遠の約束を交わした、先約が居てるのでね」
    「ならば多少強引にでも」

    パーシヴァルオルタが手のひらをこちらに向けた。途端、私の身体に電流が走り身動き一つ取れなくなった。どうやらスタン効果のあるスキルを発動したらしい。
    そのまま、彼の手が私に触れる。
    布越しの感触がもどかしい。以前手を繋いだ時のパーシヴァルの手そのままだった。
    瞼を閉じれば、私が愛するパーシヴァルの手だと勘違いしてしまえる程にパーシヴァルの手だった。
    けれど違う。感触はパーシヴァルであるのに、心が彼を拒否する。
    惚れた男にしか触れられたくない、など乙女じみているとは思う。だが、その通りなのだから仕方がない。
    初めて手を繋いだ時のパーシヴァルの嬉しそうな笑顔も、初めてキスをした後の照れ臭そうな顔も、今でも鮮明に覚えている。

    だから嫌だ。
    嫌なんだ。
    このままパーシヴァルオルタに私を奪われるのは嫌だ。初めては全てパーシヴァルとしたい。
    パーシヴァルがいい。
    パーシヴァルオルタではなく。

    だが、現実はそう甘くはない。
    パーシヴァルオルタの手は私の首筋に上り、頬に触れた。そうして乱暴に口付けられた。
    強引に入り込んで来る舌を噛み切ろうと顎を動かそうとしても徒労に終わった。
    指一本動かせない。
    何かを探る様に口腔を隈なく蹂躙される。私の身体は無慈悲にも反応を示してしまった。

    「ふむ、こんな感触なんですね、貴方の口の中は。パーシヴァルの記憶にもないものだ。大人しくしていれば酷くはしません。どうか私を受け入れて下さい。まぁ、スタンが効いている以上、大人しくなってしまっている訳ですが。……いずれ貴方は私の物になる。身も心も。恋愛と言うのは心が先にあり、後から身体を繋げるものだ、とパーシヴァルは思っているけども。多少順番が前後したって構いませんよね?」

    よくない。
    生前の——海賊としてカリブ海に名を馳せていた頃の私であったならパーシヴァルオルタの問いを是としただろう。
    だが、今は違う。
    パーシヴァルを悲しませたくはない。
    私自身驚いているんだ、私にもこんな殊勝な心があったのかと。
    気付かせてくれたのはパーシヴァルだった。
    なのに、パーシヴァルオルタは嗜虐的な言葉を吐きながら助けを乞う眼差しを私に向ける。
    パーシヴァルに向ける様な愛情ではないが、どうにも慈しみたくなってしまう。

    誰かから求められたい、と願うパーシヴァルオルタの心に気付いてしまった。
    伽藍堂である彼の心に気付いてしまった。
    気付かなければ、彼を傷つける言葉も平然と吐く事が出来たのに。

    「大丈夫、怖がらないで。優しくします。約束します。だから私を受け入れてください。——どうか、どうか私を受け入れて。私を、私を、私を、私を——、」

    パーシヴァルではないと分かっている。
    けれど、このパーシヴァルオルタを抱きしめてやりたいと思った。
    何も持ち合わせていないこのパーシヴァルオルタは別に私でなくても構わなかったのだ。ただ、誰かを求めていた。
    顕現して初めて目にしたのが私だったから私に固執しているだけだ。
    何も持ち合わせていないから愛されない、と思い込んで殻に閉じ籠っているだけの可哀想なパーシヴァルオルタ。

    別個体として顕現していればこんな想いをせずに済んだのかも知れない。
    だが、彼は知ってしまった。パーシヴァルの中に顕現させられたせいで知ってしまった。
    パーシヴァルが成し遂げた偉業も、皆から愛されている様子も、私との日々も。
    それらを欲し、手に入らない理由を《何も持ち合わせていないから、誰も近付いてはくれないのだ》と考え己を納得させるしかなかった。

    「バーソロミュー、私には貴方だけです。貴方以外は要らない。この世界すら私を必要としなかったけれど、貴方はパーシヴァルを欲した。私もパーシヴァルだ。ならば私も欲してください、どうか、」

    ——スタンが解けた。
    私はパーシヴァルオルタを強く抱きしめた。強く、強く、彼の霊基にまで私の想いが伝わる様に。

    「!?」
    「何を驚いているんだい。君が欲したんだろう、私を。——誰かの温もりを。……どうかな、初めて他人と熱を分け合う心地は。伽藍堂は寒いだろう。寂しいだろう。私の熱を分けてあげようね。——パーシヴァルの内側に戻っても寂しくない様に」
    「バーソロミュー、貴方は、」
    「奪うのが海賊。その海賊が与えるなんて、と思っているのかな?私の友には《施しの英雄》がいてね。彼を真似てみただけだよ。……あまりに君の瞳が悲しそうで寂しそうで辛そうで苦しそうで。見ていられなかった。それだけだよ。私が最期に惚れるのはパーシヴァルだ」

    パーシヴァルオルタは嗤った。
    全てを諦め、悟った様に。

    「暖かいな、貴方は。ねぇ、バーソロミュー。お願いがあるんです」
    「なんだい?やっぱり抱かせて欲しいとかはナシだよ」
    「私を毀して欲しい。今の私はパーシヴァルという核に私——パーシヴァルオルタが殻を張っている状態だ。だからパーシヴァルは出ては来れない。私を斃せばパーシヴァルは戻る」
    「いいのかい?そうなると君は、」
    「良いのです。貴方の温かさで私は満足してしまった。本当は貴方を抱こうと思っていたのだけれど。パーシヴァルだって、……いや、これは本人から聞いた方がいい。とにかく、私と言う殻が消えればいい。君にやって欲しい。君以外からの攻撃は受けない。代わりに貴方からの攻撃で戦闘不可まで持ち込まれればパーシヴァルオルタは消える。そういう縛りを私の身体に設けたので」
    「何処までも私に跡を残したいんだね」

    私に罪悪感を背負って生きろと言うのか。
    何とも酷い話だ。

    「ええ。出来れば、パーシヴァルを見る度に私を思い出して欲しいものです」
    「ンッフフ……!思ったより君性格悪いんだね!嫌いじゃないよ、そういうとこ」
    「ありがとうございます。……あぁ、結界が崩れる。外には貴方の友とマスターがいるでしょう?彼らと協力して私を斃して欲しい」
    「わかった」
    「……ねぇ、バーソロミュー。何度考えても、私は貴方の事が好きです。何度も言いますが、私とてパーシヴァルです。パーシヴァルの中にある者。ゆめお忘れなき様。……私を、忘れないで」
    「忘れるものか。パーシヴァルと君は別人だと言ったが取り消そう。パーシヴァルが意図してるのかは別として私に見せようとはしない——今後も隠し通すであろう負の部分。それが君なんだな」
    「えぇ。いつだって深淵から貴方を見ていますよ」

    パーシヴァルオルタは言い終わると、私に手のひらを向けて来た。
    途端、辺り一面は真っ白な光に包まれた。





    ▪️

    ——景色が戻った。
    目の前にはカルナとマスターがいた。彼らが不安げに私を見ている様は少し面白かった。
    私は彼らにパーシヴァルを取り戻す方法を伝えた。

    パーシヴァルオルタの設けた制限のせいでカルナはサポートに回るしかなかった。カルナの火力があれば攻略はもっと楽だっただろうに。
    だが、どうしようもない事を嘆いても仕方がない。私がやるしかないのだ。
    私が——パーシヴァルオルタを救ってやりたい。

    カルナからの援護もあり、随分とパーシヴァルオルタのHPは削れて来た様に思う。私のNPも300%、最大までチャージされている。
    その上でマスターは更に左手の甲を私に向けた。

    「——令呪を以て命じる!バーソロミュー!パーシヴァルオルタを斃せ!令呪を重ねる!なるべく、痛くない様に、……さらに令呪を以て命じる!——貴方のパーシヴァルを奪い返せ!」

    力が漲っていくのを感じる。
    スキルを全て発動させた。それでもまだ足りない。マスターもさらにスキルで私の攻撃力を底上げする。

    「貴殿はまだ気付いていないのかな?すでに包囲されていると言う事に!!——ブラック・ダーティ・バーティ・ハウリング!!!」

    手応えはあった。私の全力を尽くした。魔力を使い切ったせいで霊基にはヒビが入っている。
    それでもどうしても奪い返さねばならない。
    私はパーシヴァルオルタからパーシヴァルを奪い返さねばならない。

    「まだ、まだです……っ!貴方の攻撃はまだ一歩私に届かない、」

    パーシヴァルオルタはまだ立っていた。
    私はと言えば、もう魔力が枯渇し、銃すら具現化する事が出来ない。
    もう少しでパーシヴァルが帰ってくるのに。
    私にもう少し力があれば。
    もう少し強い霊基であれば。

    「——俺がいるだろう、忘れるな」

    カルナは私の背に回り、腰を支えて手のひらに手を添えた。彼からの魔力が流れ込んでくる。大英雄の魔力に私は酔った心地に襲われる。
    それでもなお、銃を具現化するので精一杯だった。弾丸を形成する余裕がない。

    「……祈りを込めろ。最後の一発だ」

    祈りの一発。
    銀の弾丸。ビリー・ザ・キッドから貰ったものだとマスターが私に預けたものだ。
    私は己の魔力で形成した銃に銀の弾丸を込めた。

    ——パーシヴァルを返して欲しい。
    ——パーシヴァルオルタがどうかこれ以上苦しまぬように。

    カルナに背を預け、私は最後の一発を放った。
    パーシヴァルオルタは微笑み、避けもせずに弾丸をその身体で受け止めた。
    ハラハラと霊基の殻がパーシヴァルの身体から零れ落ち、やがて彼の頭髪は白く戻り、鎧も黒から白へと戻った。

    私のパーシヴァルだ。
    パーシヴァルオルタは消え、清廉潔白の守護騎士パーシヴァルが戻ってきた。
    オルタが消えた、と言う表現は少し違うかも知れない。彼はパーシヴァルの内側に滞在し続ける存在だ。パーシヴァルの裏側に落ちた澱みとして生き続ける存在だ。
    いつかパーシヴァルオルタが別個体として顕現される日がくるかも知れない。
    その時は少しでも憂いのない彼であればいいと思う。

    私はマスターやカルナがいるにも関わらず、パーシヴァルを抱きしめた。
    魔力切れだ。抱きしめたまま、もう動けない。それでも最期の力を振り絞って口を開いた。

    「おかえり、パーシヴァル。私の唯一、愛しい騎士」
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