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    パーバソのバと、パ卿ぬいの話。

    パーシヴァルです。
    バーソロミューの部屋のベッドに鎮座しております。

    どうにも身体が上手く動かないが、何やら呪詛の類にかかった様だ。
    いつもより随分とバーソロミューのベッドが大きく感じる。
    何より頭が重い。手足も動かしにくい。私の体内に宿る魔力も随分と低下してしまっている様だった。
    バタバタと手足を動かすだけで随分と体力が減っていく。魔力の無駄遣いはするべきではないと私は移動を諦めた。

    そもそも、いつ呪いにかかったのかも何故バーソロミューの部屋にいるのかもわからない。気がつけばここにいた。
    ベッドが大きく感じるせいか、いつもよりダイレクトにバーソロミューの香りに包まれている心地がする。その香りに包まれながら私は少し眠る事にした。本来サーヴァントは睡眠を必要としない筈だ。なのにこんなにも睡魔が襲ってくるのは何故なのか。
    わからない。私には現在の状況を把握する術がない。

    サーヴァントは夢を見ない。見るのは過去の記憶だけだ。ならば私はバーソロミューとの楽しかった思い出が見たい。何でもいい。夏に初めて会話し素敵な時間を過ごした夜の事でもいいし、ドゥリーヨダナに招待され楽しんだ宴の日の事でもいい。
    楽しかった。ーー楽しかった、筈だ。記憶に残っている筈なのだ。
    そういう行動を共にしたという記憶ならある。確かにあるのに私にはどうにも実感が湧かない。まるで映画でも見ている様だ。私の記憶なのに、私ではない誰かの記憶を追従している様なーー。

    「パーシヴァル……?」

    部屋の主が帰ってきたようだ。
    バーソロミューは易々と私を抱きかかえ頬に口付けた。普段は照れてなかなかしてくれないのに一体どうしたのだろう。嬉しいけれど。

    「バート?」
    「具合は?何処か痛い所は?」

    やはり私には不具合が生じている様だった。意識を失ったままバーソロミューの部屋まで辿り着いたのだろう。
    ーーいや、バーソロミューが私を易々と?
    おかしい。何かが、おかしい。
    改めて辺りを見回してみると私の体はバーソロミューの手のひらにすっぽりと収まってしまう程縮んでしまっていた。

    「バート、私は……?どうしてこの様な姿に?」
    「やっぱり記憶が抜け落ちているのか、私としては可愛い君がそのままでも構わないのだけれど……」
    「どうしたんだ、君らしくもない。私はどの様な呪いを受けているのか、教えてほしい」

    どうしてそんな顔をしているんだ、バーソロミュー。彼であればどの様な表情でも好んではいるが、その表情は悲しい。
    今の私には、苦しそうに無理矢理微笑うバーソロミューの頬を包んでやる事も出来ない。どうか、いつもの様に明るく笑ってほしい。

    バーソロミューは私を連れ、洗面所に向かった。
    そうして私は鏡に映る己の姿を確認し、バーソロミューの表情の意味を理解した。


    ーー私は、普段からバーソロミューのベッドの隅にいる小さなぬいぐるみだった。


    「なぜ……?私の体がぬいぐるみに?」
    「ぬいぐるみになったんじゃない、君は最初からぬいぐるみなんだよ、パーシヴァルの魔力が少しだけ宿ってしまったんだ」
    「……私はパーシヴァルだよ、だって君との記憶もある。夏の記憶も、昨夜だって君をーー」

    昨夜も私はバーソロミューを褥を共にした。
    熱を分け合って。愛し合って。私は昨夜の記憶を手繰った。
    大きな手が彼の肌を滑り、蕩けきったバーソロミューと一つにーー、
    私ではない、誰かがバーソロミューと一つになっている光景が私の眼前に現れた。
    そうして二人は精を吐き出し、果てた。私ではなかった。私はただその様子を見ていただけだ。

    そうだった。
    何故今の今まで忘れていたのか。
    私はしがないぬいぐるみだった。
    ただ、羨ましかった。悲しそうな表情を見せるバーソロミューを抱きしめ癒す男が。蕩し、愛を紡ぎ合えるのが。動く事すら出来ない私とは違う。私も動けたら。そうしたらベッドの隅で行為を見詰めるだけのぬいぐるみではなくなるのに。
    そう思った。
    祈りが通じたらしく、吐き出された精に残った魔力が私に宿った。けれど、やはり私はぬいぐるみのままだった。動ける様になった所で彼に何かしてやる事は出来なかった。

    「思い出したようだね。君に宿った魔力は多分明日の朝には消える。……何か私に出来る事はあるかな」
    「では、今夜貴方の腕の中で眠りたい」
    「可愛いお願いだ。いいよ。どうする?三人で川の字を所望かな。それとも私と二人?」
    「意地悪な人。私は貴方と二人がいい。分かって聞くのは卑怯だ」
    「んふふ、そうだね。ごめんね。今日は二人きりで居よう」

    私はパーシヴァルではないのに。パーシヴァルの残滓でしかないのに。彼は優しい。きっと今夜もパーシヴァルと二人で過ごす予定だっただろうに。
    そんな優しい彼だからパーシヴァルも私もバーソロミューを愛したのだ。

    優しく、苛烈で、美しい彼を今宵一晩でも独り占め出来るのを嬉しく思う。パーシヴァルにはバーソロミューに包み込まれるなんて経験は出来ないだろう。これは私だけの記憶だ。
    明日の朝に魔力はきっと本体へと還るのだろう。
    私の記憶も一緒に還ればいい。そうして少しでも羨ましがればいい。私が普段から感じていた嫉妬心を味わえばいい。

    明日からはまたベッドサイドで二人の関係の動向を見守る事としよう。


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