ティースプーンで好きなだけ 視線を泳がせる。その目はアイメリク本人に到底向けられるものではなく、彼の持つ本に対してもそれは同様であった。表紙からも背表紙からも、嫌というほどタイトルがはみ出している。どうして買ったときにブックカバーを貰わなかったのかと過去の自分を恨んだ。
閉じられていた本はアイメリクの手によって開かれ、ぱらぱらと飛ばし読みでページを捲る。彼は聡明である。短時間でも少し頭に入れれば内容を把握できるのであろう。互いに無言を貫くその間も紙の擦れる音だけが響いた。
「なるほど」
先に沈黙を破ったのはアイメリクのほうだった。どこか力強く閉じられた本は、私の手元へと返される。タイトルはこうだ。───『旦那様の淫靡な夜』。
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