2月の夜更けにキッチンにひとり立つ。くつくつ、ガシャガシャ音を立ててできたチョコレートスフレのカップは21個。もはや美味しそうというよりはやっと終わった、という感想になるのが悲しいところだが、この行事はそういうものだ。
ネロが手伝うというのを頑なに断ったのには訳があって、1番手前にある赤いカップのケーキを晶はじい、と不備がないようあちこちから検分した。
「ありがとうございます、賢者様」
世界中の幸福をつめたような嬉しそうな顔でリケが言う。手に持った薄黄色のカップのケーキを透明な包装の外側からしげしげと眺めている。これで大半の魔法使いには渡し終えた。残るはまだ寝ているシャイロックと公務中のアーサーとカイン、そして神出鬼没のミスラ。
1971