終焉がそこにはあった#1〜301
短い人生の中で、一番大きな事故といえば思いつく限りで家の階段から落ちたことだった。まだ俺がよたよたと足取りもおぼつかない赤子の頃、母親が少し目を離したすきにごろごろと転げ落ちたらしい。当然のように俺はその事故を覚えていないが、額にはその時に切ったという傷跡が今でもうっすらと残っている。五ミリほどの裂傷は肌に馴染んでいるため今では気にすることもないが、思い出話として母親は時折口にした。「貴方はとってもお転婆だったのよ」と。果たして、お転婆の使い方としてあっているかどうかは疑問をもつところではあったが。
バンジージャンプもスカイダイビングもしたことのない、落下初心者の俺には難易度の高い紐なしバンジーダイビング中、このまま死んでしまうのだろうかと、そんな取り留めのない記憶を思い出していた。
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