ホストを辞めた後の話
やめなきゃと思ってもお酒を飲まなければ眠れず前よりは減ったと言えどやはり少しは飲んでしまう。
「…やめなきゃ…ハジメくんに怒られちゃう…」
もう会うことはない、初めて自分を真正面から見て怒ってくれた人の名前を言う。
「あっ…でも今はハジメくんじゃないか…正之くんか…」
誰もいない部屋で誰にも届かない独り言を言う。
「会いたいな、でもあんな別れ方したんだもん、会えるわけないよな」
ネガティブになりこれで最後にしようとしたお酒を飲み干し大きなため息をつく。
ピンポーン
「…?誰だろ…」
返事をして扉を開けるとそこには先程まで口にしていた人だった。
「…えっ…」
「覚えてますか…?あのクラブ・ワンで2年ほど一緒にホストしてた…ハジメです」
「久しぶりだね…まぁあがってよ」
「お邪魔します」
そこからハジメくんがやめた後の話やお互いの話をして盛り上がった。
「元気で良かったです…でもお酒やめてないんですね」
かなり怖い顔で言うハジメくんにたじたじになりつつも
「かなり減ったよかなーーり!でもやっぱり飲まないと寝れないんだ…」
「なら一緒に寝てみますか?」
「…???え、一緒に…?」
突然のことにはてなを浮かべる僕に
「だから一緒に寝るんですって」
「凄いこと言ってる自覚ある?僕相手に枕営業するの?ホスト辞めたのに?」
「そういうことじゃないです、そもそも枕営業しないって決めてた人が突然しかもやめた後に言ったらおかしいじゃないですか」
「それもそうか…んじゃどういうこと?」
「添い寝的な感じです」
「あーなるほどね…」
数秒沈黙したけどまぁそれも悪くないかもと納得してハジメくんの顔を見て
「お願いしてもいい?」
「はい」
そして寝る準備をして一緒の布団に寝てみる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
すぐスースーと寝始めるハジメくんに対し中々寝れずしばらくもぞもぞしてると寝ぼけたハジメくんが
「あれ…?まだ寝れないんですか…?」
と眠そうな顔と声で言い、僕をぎゅっと抱きしめる。
「え…?」
びっくりしてると
「これなら寝れますか?」
と言いそのまま寝てしまう。僕の耳の位置がちょうどハジメくんの心臓が来るところで、どくどくと鼓動するハジメくんの心臓に、もう2度と会うことはないと思った人が目の前に居て抱きしめてくれて、心臓の音が聞こえるのが心の底から安心と嬉しさと愛しさが込み上げる。
「……こんな気持ち初めてだよ…これが好きって言うやつなのかな」
と小さい声で呟きまどろむ中その気持ちを噛み締めて瞼を閉じた。
その後目を覚ましたハジメくんが僕の頭を撫で愛しい目で見てたのは…知らないことにしておいた。