ここまで来れば、暫くはあの人の目を逃れられる筈だ。
もう散々だ。いつもいつも私は周りの社員に虐げられている。もう20代になる私の息子にこんな姿を見られたら、羞恥と情なさで彼らに顔向けできない。
ふと、嫌になるほど聞き慣れた、革靴が床を打つ音が聞こえた。何故だ、ここは私しか知らないところの筈なのに——それは心なしか軽く、調子のいいように聴こえた。
「あ、朝鮮さん。こんなところにいたんですね」
目の下に濃い隈をつくっている、柔和な微笑みを浮かべたその男は言った。
「逃げないで下さいって前も言ったでしょう?もしかしてまた——『おしおき』されたいんですか?」
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