結果的に同一人物なら浮気にならないってことにしない?「…」
暗闇の中、ゆっくり上体を起こした。嫌な夢だ。
幾度目かの目覚めを経て、動けるようになったのは日もとっぷり沈んだ夜だった。端末で時間を確認すれば時刻は21時過ぎ。いつもシャリア・ブルに食事を持っていっていた時間だ。
…ちゃんと飯は食えているのだろうか、ふとそんな心配が過る。もともと自然で暮らしていたのだから大丈夫だろうとは思うが、これからは独りで生きていかねばならないのだ。あの広い海の中、ただ独り生き残ったタコの人魚として。そう思うと胸が詰まる思いがした。
「ーシャリア・ブル?」
自分の言葉にふと疑問を覚えた。シャリア・ブルとはなんだ?彼にシャリアと名前を付けたのは自分だが、そんな風に呼んだ覚えはない。だけど、妙に口に馴染む響きだ。自分はどこで、その響きを知った?
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