イースター 春もたけなわとなった頃、アバロンにはその祭りの時期が訪れる。
生命の誕生と復活、そして繁栄を願う伝統的なその祭事は大人達にとって家族や仲間と食事を楽しむ絶好の機会となり、子供達にはゲームを楽しむ機会になる。
そんな老いも若いも大いに楽しむその祭りに、子供好きの若い皇帝が何も行わないわけはなかった。
「そんなわけで、子供達のために手伝ってもらえないか。」
そういってジェラールが差し出したのはフェイクファーで作られたやたらと長い白い衣服のようなもの。ようなもの、と言ったのは通常の衣服にはついていないであろう固い球体のような部位があり、そこには縦に長い楕円様の飾りが二つついているからだ。
「よくもまあ、こんなもん用意しましたね…」
ヘクターがため息混じりに呆れた声を出すとジェラールはよく出来ているだろう?と得意気な笑顔を見せる。
「フロスティが作ってくれたから品質は折り紙付きだぞ。」
「技術の無駄遣いすんなって言っといてくださいよ。」
手にしたそれは白いふわふわの布の塊にしか見えないが、祭りの趣旨を知っていればそれがなんなのかは容易に想像がついた。
「うさぎの着ぐるみって…ま、条件次第じゃやらなくもありませんけどね。」
着ぐるみなだけマシだな、とヘクターは内心で安堵する。顔が見えないならある意味では気楽なものである。
「もちろんお礼はする。お祭りの日に時間を取らせるのだから当然ー」
ジェラールがそこまで言ったところで先を遮るようにヘクターは彼を抱き寄せて、耳元で2人だけに聞こえるように囁く。
「今夜、アンタのお部屋でも『ウサギさん』でいいっていうならやりましょうか?」
耳元で震えた空気の感触と意味が掴みきれない言葉に戸惑いながらジェラールが思考を巡らせていると、ヒントだと言わんばかりにヘクターがもう一言を付け加える。
「ウサギは『繁栄』に熱心な動物でしたっけ?」
腕の中で耳まで赤くなるジェラールを見てからヘクターは満足気に笑うと、諸々理解していただけたようで、と耳に唇を落とす。
「じゃ、この礼はそういうことでお願いしますよ。」
そういって赤いままのジェラールを解放すると、国営鍛治工房謹製の一品を手にして意気揚々とヘクターは去っていった。