【キスのはなし】
(…キス、したいなぁ)
彼の部屋のベッドの上で寝転びながら、ぼんやりとそう考えている。僕と彼が付き合い始めてから、週に数回はこうやってお互いの部屋で過ごすようになっていた。基本は各々の好きな事をして、たまに喋り、たまに触れ合う。この穏やかな時間を僕はとても気に入っていた。何より、部屋の中では彼のマスクの下の素顔が見れる。彼の顔立ちはとても美しく、この秘密の素顔を独り占め出来ているのだと嬉しい気持ちになり、化粧箱を整理する横顔をじっと眺めていると――そう、凄くキスしたい気分になってしまっていたのである。
「ビクターさん」
いきなり名前を呼ばれて心臓が跳ねる。流石にじろじろと見られるのは嫌だっただろうか、謝らなくてはいけない…と思ううちに彼がこちらに近付いてくる。急いでだらけていた体制を直しベッドの縁に腰掛けると、頬に手が沿えられる。
7254