それでもやっぱり。テトはふらりと深夜の街を歩いていた。
今日はなぜか、部屋に帰ろうとは思えない。
誰もいない街。冷えた夜風が頬を撫でる。星空の元で彼女はうなだれていた。
「…走りたい。」
身体が甘く痺れるようにうずいている。
頭の中では「ダメだ」と分かっている。
けれど、体はどうしても駆け出したがっていた。
その時、背後からエンジン音が近づいてきた。
「テト。こんなところにいたんだ。」
振り向くと、バイクのヘッドライトがこちらを照らしている。
「あ……ミク。」
「いいんじゃない?」
「…え?」
「誰も見てないよ。いいんじゃない、少しだけなら、『獣』になっても。」
その言葉に、テトは思わず息を呑んだ。
ミクは、ずっと気づいていたんだ。
僕がもう、人間の姿を保つのに疲れてしまっていること。
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