ワンライ練習 遠くから師匠が歩いてきたのが見えたので、手を振りながら声を掛ける。
「師匠〜!」
「……んだよお前かよ」
ちょっと不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた師匠は、一瞬ピリついた空気を纏いながらもすぐ俺と気付くと少し穏やかな顔つきになった。
そんな微妙な違いに嬉しさを覚えつつ。
「どこか行くとこでした?」
「いや、別に」
ふと手元に目を移すと、血に濡れていたので思わず手を取るが、見た限りでは怪我などはしてないようなので安心する。
「良かった。怪我してるわけではないですね」
「ああ、さっき変なのに絡まれてな」
持っていたタオルで返り血を拭けば、自分で出来ると言いたいのかタオルをぶんどられる。
「師匠今暇ですか?」
「まぁ、暇っちゃ暇か」
「俺今から買い出しに行くんですけど一緒に来ません?」
「しゃあねぇな」
返り血を拭いたタオルを返され、鞄にしまう。色々も買いたいものがあるので、人手は多いほうが嬉しい。
「じゃあ決まりですね」
「かわりに奢れよ?」
「チョコミントのアイスで良いですか?」
そう言えば、よっしゃとガッツポーズをして喜ぶので微笑ましく思いつつマーケットの方へ歩き出した。
ここのところ雨続きだったので地面のあちこちに水たまりが出来ている。濡れないように避けながら暫く歩くと、マーケットへ辿り着いた。
「何買うんだよ」
「食品中心ですかね〜」
買いたい物のメモを見ながら、カートを転がす。師匠はたまに欠伸をしながら後ろを着いてきていた。
「なんか新鮮ですね」
「まぁ普段の買い物なんざ飯くらいだからな」
「確かにそう」
野菜をいくつかかごに入れつつ、何気ない話をする。師匠は意外と買い物慣れをしていて、時たまどれがいいかを聞きながら買い物を楽しんだ。
ドアを開けて買ってきた物をとりあえず地面に置く。
「思ってた倍買いやがってよ」
「しょうがないじゃないですか。最近雨続きで中々買い出しに行けなかったんですよ」
それに筋トレの代わりになるでしょ、なんて続けながら師匠に駄賃代わりのアイスを投げる。うまくキャッチするとソファに座って食べ始めたので子供みたいだなと思いながら冷蔵品をしまう。
「今ガキって思ったろ」
「なんでそう言うところ鋭いんですか」
「おう表出ろ」
「今忙しいんで後にしてもらってもいいです?」
何気ないやりとりを交わしながら、同居してたらこんな感じなのかなと思った。