『指先』『温度』「面影、ありがとう」
「うん、もう大丈夫だね。良かった」
「お前の処置が速かったおかげだな」
「殺れ殺れ、もう探索中に無理はしないでね」
先日、探索中にうっかり深めの怪我を負った澄野だったが面影の手当が迅速かつ適切であったため大事にならずにすんだ。怪我の治りも速く、今こうして面影の自室で見てもらった限りでは(やたらと触診がしつこかったが)もう完治したといっていいだろう。
「また、お前に助けられたな。ありがとう」
澄野は面影の手をとり感謝を告げた。
「この手には何度も助けられたな……」
「でも、この手は…命を幾つも奪ってきた手だよ。侵校正も、部隊長も……そして人間も、ね」
「それでも、俺にとっては……」
澄野は慈しみをこめて、面影の指先にキスを落とした。突然のことに面影は頬を赤らめ驚いてしまう。
「俺にとっては救いの手だ」
「……私の手は汚れているのに」
「俺は白くて綺麗だと思うけど?」
「そう思うのは澄野くんだけだよ……」
綺麗、という言葉に面影はどうも居心地の悪さを感じる。こんな幾つもの血で汚れた自分が綺麗だと称賛されるなんて、面影は思っても見なかったのだ。
面影の指先一本一本に丁寧に触れてくる澄野の唇が、妙に生温かく擽ったい。指の付け根、腹、そして少し尖った爪のある指先まで、まるで大事なもののように澄野の唇が触れていく。
「ん…擽ったいよ、澄野くん」
「嫌か?」
「嫌じゃ…ないけど……んぁっ」
面影が戸惑っていると今度はもう片方の手に澄野の温かな指先が触れた。指先で探るように撫でられたあと、ゆっくりと絡み取られていく。
「面影の手は少し冷たくて、なんだか気持ちがいいな」
「そういう澄野くんの手は、温かいね」
「そうか?」
「うん、温かい……」
羞恥心に苛まれ、面影は澄野の目を見れないでいた。こんな真っ直ぐな熱があるのかと戸惑い、うまく受け止められない。いつも調子よく淫らな言葉を幾つも紡ぐ面影の口が、今日は随分と大人しい。
澄野からの熱い視線を感じる。
「面影」
名前を呼ばれおずおずと澄野へと視線を向ければ、曇りのない真っ直ぐな瞳がこちらを射抜く。
「綺麗だ」
「綺麗、だなんて…私は……」
心臓の音が高鳴り、体温が上昇していくのを感じる。熱い視線を向けてくる澄野から、目が離せない。
澄野の唇が指先から離れ、二人の目線が近づいていく。
面影が目をつぶると唇に温かな体温が触れた。