『愛情表現』『秘密』 Side:面影
澄野の愛情表現はとてもわかり易い。喜怒哀楽、ころころとよく変わる表情を見せながら全力でこちらに気持ちをぶつけてくる。
「好きだ」と少し照れながら耳元で囁き慈しむように手を握りこちらをときめかせたり、そのまた別の日には面影のことを無言で抱きしめ離そうとせず甘えてきたりする。
キスひとつとってもそうだ。触れるだけのキスを擽るように何度もしてきたかと思えば、噛みつき貪り荒々しく獰猛に奪ってくる時もある。
子犬のように可愛らしく、かと思えば雄々しく大胆に接してくる。
顔を赤く染め照れながら優しくこちらに触れてきたかと思えば、熱い視線でこちらを捉え逃さない。
──カワイイなあ、澄野くん
澄野からの愛情表現を受け取るたびに面影はそう思っていた。澄野の言葉が、仕草が、態度が、面影の中で愛おしさをどんどん募らせていった。
だというのに面影自身は上手く言葉にできないでいた。気持ちが募れば募るほど、自分の気持を吐露するのに羞恥心が混ざっていく。
情事に誘うのも、澄野の手によって乱れるのも、痴態を晒し艶やかな声を漏らすのも平気だと言うのに、気持ちを言葉に乗せることだけはどうにも上手く出来ない。いやらしい言葉は幾つだって口に出来るのに「好きだ」のたった三文字が声に出せない。
澄野はいつも優しく丁寧に抱いてくる。時折たかが外れて激しくこちらの身体を揺さぶる時もあるけれど、いつも最後は「愛してる」と熱い言葉を面影に落としてくる。それに対して面影は「私も…」と小さな声で返すのが精一杯だった。
今夜も何度も熱く深く愛しあい、多幸感溢れる気怠さの中、澄野がウトウトと微睡んでいた。澄野が眠りに落ちていくのを見守るのが面影の最近の習慣になっている。甘い雰囲気を纏わせながらゆっくりと夢の中へと落ちていく澄野をただ静かに見守っていた。そうして規則正しい安らかな寝息が聞こえてくるのを待ち、それが聞こえてきたら頬に触れるだけのキスを送りそっと囁くのだ。
「好きだよ、澄野くん」
きっと聞こえてはいないはずだ。密かな愛情表現、それすらも羞恥心に苛まれ面影はすぐに布団の中へと身を隠した。
──どうかばれませんように。
今日もそう願いながら面影は眠りについた。
Side:澄野
きっと面影は愛情表現が苦手なんだろうな、と澄野は思う。煽ったりこちらをからかったりと口達者な面影だが、こちらが「好きだ」と伝えると恥じらいながら静かにこちらを見返し「私も」と応えてくれる。頬を染め恥じらうその姿、普段他の誰にも見せないその顔を澄野は可愛いなと心から思っていた。淫らにこちらを煽り艶やかな声でこちらを誘ってくるのも勿論いいのだが(まあ、抗えるはずもなくそこは素直にこちらも応じてしまう。仕方ない澄野の下半身は正直なのだ)、白い肌を赤く染め潤んだ瞳でこちらを見返してくる面影は何度みても堪らなかった。だから、何度だって澄野は面影へ愛の言葉を送る。こちらも恥じらいの気持ちが無くもないが、それよりも恥ずかしそうにだが嬉しそうにはにかむ面影の表情が見れる方が嬉しかった。
情事の際も出来るだけ丁寧に優しく抱いた。面影があまりにも艶やかすぎてたまに熱くなってしまうこともあるが、事が終わった最後は必ず「愛してる」と伝えている。この時の面影の表情がまた、堪らないのだ。情事の名残で上気した身体に生理的に潤んだ瞳。痴態も恥部もそれ以上のものだって晒すのは平気な癖に、愛の言葉は恥ずかしくて「私も…」と返すので精一杯になっている面影の表情が本当に堪らない。つい、もう一回と昂らせてしまうことも少なくない。
今夜も何度も熱く深く愛しあい、多幸感溢れる気怠さに包まれながら澄野は心地よくうつらうつらとしていた。本当はこのまま意識を手放したかったが、目をつむり呼吸を整え静かに気配を探る。しばらくすると──
「好きだよ、澄野くん」
聞こえるか聞こえないかの声と共に頬に柔らかな唇の感触を感じる。
可愛い、なんて可愛いんだ!本当はこのまま面影を抱きしめてしまいたかった。不器用な面影の秘密の愛情表現。初めてこんな可愛らしいことをしているのに気づいてから眠るふりをして待つのが密かな楽しみになっていた。きっともしバレてしまったら面影は羞恥心に苛まれもう二度とやってくれないだろう。
──バレている、ということがバレませんように。
今日も幸せを噛み締めながら澄野は眠りについた。