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    三重@ポイピク

    好き勝手に書いてる文字書き。ツイステのイドアズにはまってます。Twitterはこちら→@mie053

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    POIPOI 24

    三重@ポイピク

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    人魚と不老不死と慈悲の精神を混ぜた、ちょっとした事件の話。人が死ぬ描写がやや出てきます。

    #イドアズ
    idoas

    魔法士という存在はどうにも胡散臭いが、目の前の男はとびきり胡散臭い。それが、辺境の地にして魔法士を育成する名門校を2つ有する賢者の島へ降り立ち、名門校の1つ、ナイトレイブンカレッジを訪れた男の抱いた印象だった。本来この島は、数多くの交通機関を利用しなければ訪れることのできない場所にあるのだが、今回は事情聴取のため訪れたこともあり鏡を利用してこの地を訪れた。魔法士を目指すには魔力が足りず、魔法執行官とごく稀に接触する程度の刑事にしてみれば、魔法技術により数百キロ離れた箇所を鏡1つで乗り越える感覚は奇妙以外に言いようがない。
    訪れた学び舎は、長い歴史を強調するように厳かな造りとなっており、通された学園長室は最たる趣である。普段自分が使っている法人用の一括購入したデスクなどとは物が違う、重厚な木が形作る机に座ったまま、学園長ディア・クロウリーは仮面越しに笑みを浮かべた。友好的だ。そもそもここまで訪れる手筈を整え、聞き込み対象に事情聴取の許可を取ったのもこの目の前の男である。本来、この手の名門校はスキャンダルに繋がることを厭うはずだが、何故だか目の前の学園長は親身になって刑事である男の希望を叶えた。たとえ肩に烏のごとき黒い羽根が目立つマントを羽織っていようと、同じく烏を連想させる仮面で顔の大半を隠していようと、協力的な態度というのはある程度警戒を緩めさせるものだ。
    だというのに、この男がどれほど誠心誠意に満ちた言動を取ろうとも、信用するには至らない。たまたま人間に似た形を取っている存在──この世界には、そういった存在が数多いる。男は縁遠く会えた試しがないが──が気紛れを見せた。そんな風にしか思えなかった。

    「学園長、本日はご協力感謝致します」
    「いえいえ、堅苦しいことはおっしゃらないでください。では、彼のいる場所へご案内致しますね」
    「こちらに呼ぶのではなく?」
    「あなたもご存知でしょうが、彼は学内で飲食店を経営していまして。彼が1、2時間抜けたところで、経営に支障が出るような教育はされていない筈なんですけどねぇ……今回の事情聴取を受ける条件となっていまして」
    「一生徒の要望を、学園長であるあなたが呑むんですか?」
    「ええ、私優しいので。彼、アーシェングロット君も動揺しているようなんですよ。取引先の相手が変死したなんて事件が起きたんです、当然でしょう。このナイトレイブンカレッジに在籍している間は、私が彼らに対し責任を持たなければなりません。本来なら精神衛生を鑑みてお断りするべきかとも思ったんですが……アーシェングロット君がぜひ協力したいと自ら申し出てくれましたので」
    「はあ。それは本当に、感謝しております」
    「彼は海の魔女の慈悲の精神に基づく、オクタヴィネルの寮長でもありますからね。私すっかり感激してしまって、多少の希望は聞くべきだろうと。ええ、そう思いまして。刑事さんにもぜひお分かりいただければ」
    「分かりました。では、お手数ですがご案内いただけますか」
    「勿論。鏡舎まで距離がありますからね、少々お待ちください」

    にっこりと、仮面の下に見える口元に笑みを浮かべた学園長は、机から腰を上げて男の方へ歩み寄ってくる。こうして目の前に立たれてみれば、見上げるほど背が高い。座っていた時に気づかなかったのだから、足が長いのだろう。全身を改めて観察したところで、学園長の爪の先に金属製の飾りがつけられているのに気づく。これもまた魔法士が使うマジックアイテムなのだろうか。魔法犯罪の可能性がある現場で顔を合わせる魔法執行官達も、それぞれに装身具を着けている者が多い。初めて見た時は現場へ来るのに飾りなどいらないだろうと胸中で悪態を吐いたが、彼らが装身具につけた魔法石を用いて魔法を使うということを後日知った。
    魔法犯罪の可能性があれば案件を横から取っていくことも平然と行う、忌々しい同胞を思い出して顔をしかめたのと、目の前に立った学園長が何事か呟くのは同時。腹が落ち着かない浮遊感、10秒ほど地から足が離れたかと思うと、気づけば見知らぬ場所に立っている。ドーム状の空間に立った男は、ぐるりと周囲へ視線を巡らせた。ドームの中心に立った男と学園長に対して、7つの鏡が壁沿いに置かれている。それぞれの鏡は異なる装飾に彩られており、何よりその大きさが目を引く。2メートルでも足りないほどに大きな鏡なのだ。鏡を置くだけにしては大袈裟な建物を見ていると、隣に立ったままの学園長がそのうちの1つを指差した。

    「アーシェングロット君の寮、オクタヴィネルはあの鏡の向こうにあります。鏡の先に案内の寮生が来ている約束になっていますので、どうぞ」
    「……学園長はいらっしゃらないと?」
    「どうしても変えられない予定がありますので、こちらで失礼します」
    「よろしいんですか。事情聴取でこちらに来ている警官を、教員もつけずに」
    「生徒の自主性を重んじていますし、アーシェングロット君の邪魔をすると後が面倒で……」
    「今なんと?」

    聞きそびれた後半の言葉を聞き返せば、学園長は慌てたように笑みを浮かべて「いいえなにも!」と勢いよく答えた。高くなった声が建物内によく響く。ナイトレイブンカレッジの生徒達だろう、ブレザーの制服に身を包んだ学生達が学園長と男を不審そうに見て、そして鏡の1つを潜っていった。

    「ともかく、終わりましたらこちらにご連絡ください。それでは」
    「はあ……」

    いつの間に用意していたのか、自分の電話番号を書いたらしいメモを渡してきた学園長に生返事をした時には、マントを着けた長身は目の前から消えていた。影も形も消え失せ、1人だけ残された状況で頭をかく。まぁ、学園長がついていない方が好都合だ。すぐに意識を切り替えて、男は指し示された1つの鏡に向かう。海の生物や貝殻で飾り立てられた鏡は、「オクタヴィネル」と名が彫られている。先ほどから耳にしていた寮の名だ。グレートセブンの一角、海の魔女の慈悲の精神に基づく生徒が集まる寮。

    「……慈悲、ねえ」

    もしも寮長の座に就いた生徒が寮の精神を体現するのであれば。15名の人間が変死に至る原因を作り上げた慈悲の精神とは、一体どれほどのものなのか。まだ疑いの段階とはいえ、可能性の高い仮説を頭の中で転がした男は、数回呼吸を繰り返した後、鏡の縁に手をかける。そうして、堅い硝子に触れることもなく沈んだ指先と、沼に沈むような心地が伝わってきたのに顔をしかめながら、鏡を通った。
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    三重@ポイピク

    DONE薬を被ったことで幼児退行したアズくんと、退行したアズくんに戸惑うジェと、あまり様子の変わらないフロの話。
    ※アズくんが幼児退行しています※
    ※アズくんが粗相する描写があります※
    ※人魚に関する捏造設定があります※
    稚いあなたは初めてで稚魚の鳴き声が響いている。おそらく人魚の耳朶のみがその震えを感知できるだろう、幼い人魚の鳴き声が。海の中では時折聞いていた鳴き声に、しかしジェイド・リーチは首を傾げた。
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    一体どこから稚魚の声は響いているのか、と首を傾げたところで、ジェイドは教室の出入り口から自分の名を呼ぶ声を聞いた。振り返った先、出入り口で立ち止まっているのは別クラスの同級生である。ジェイドの幼馴染であり格別の相手でもある、アズール・アーシェングロットと同じクラスだ。その彼がジェイドを呼ぶということは。
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