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    三重@ポイピク

    好き勝手に書いてる文字書き。ツイステのイドアズにはまってます。Twitterはこちら→@mie053

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    POIPOI 24

    三重@ポイピク

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    滞納者視点、物騒なオクタ3人の話。CP要素はありませんがイドアズ前提。やや暴力描写があります。

    #イドアズ
    idoas

    誠意を示す作法について紫の照明を反射する水槽を、色鮮やかな小魚達が泳いでいる。以前この部屋を訪れた時、壁沿いの本棚の下に水槽があることなど、男は気づかなかった。二度目の訪問となった現在も、磨かれた床へ頬を押しつけ這いつくばっていなければ、きっと気づかなかっただろう。男の目的は部屋ではなく、この部屋の主であったから。
    冷たい床に、殴打され常より熱い頬の熱が移っていくのを感じる。ここへ引きずり込まれる前に受けた傷が、拘束された体を痛めつけ続けている。うめき声、あるいは文句の1つでも言いたいところだが、男を挟むようにして立つ長身達がそれを許さない。転がされた男から見れば巨人の如き2人の男。海のような色の髪と、色が違う瞳が特徴的な取立人が彼のすぐ傍に立ったままなのだ。実際、先ほど身じろいだところで一撃食らったのもあり、男は大人しく待つしかない。ただ取立を行うのではなく、この部屋へ連れてこられたということは、彼らの主人が男に用事があるということだ。処刑の準備を待つ罪人のような心地で、男は息を殺す。水槽の方から水音が聞こえる。少し聞こえる音は、店の方に流れるBGMだろうか。張り詰める神経が、余計な情報を追ってしまう。それが自分の緊張を高め、首を絞めることとなっても止められない。
    少しでも気を抜けば上擦りそうになる呼吸。体の痛み。恐ろしさに身が強張っていく中、頭上から「困りますね」と呆れた声をかけられた。大きく震え、自分を挟んだ男達からの追撃を恐れたが、何もない。恐る恐る声の方へ、伏せていた視線を持ち上げた。一度だけ男自身も座ったことのある革張りのソファに、1人の男が座っている。灰色のトレンチコート、礼服じみた黒い寮服。首にかけたストールの先をソファの上に流した部屋の主、男が這いつくばる元凶たる悪徳商人、アズール・アーシェングロット。手元の書類──恐らく男が署名した金色の契約書──を眺めるアズールは、男に視線を向けることなく続ける。左側のみ伸びた銀色の髪が、男の視線から彼の表情を隠す。

    「対価はきちんと支払っていただかないと。契約は順守していただく旨、事前にお伝えしましたよね」

    冷淡なアズールの声に張り詰めた神経が逆なでられ、気づけば口を開いていた。

    「あ、あんな、あんなの、守れるわけないだろ! お前、俺ができないとわかってて言ったんだろうが!」

    一度開けば口を突いて出る罵り。座る男は視線を向けもしない。挟む男達も何も言わない。まるで何も聞こえていないかのような振舞いに、こみ上げる怒りは止まらない。拘束された身を捩り、声を荒げた。

    「やろうと思ったらなんもできねえし、しかもこいつら、こいつらだよ、邪魔したよな! 俺が守れないように! 何が商売だ詐欺だあんなの、その上こんな、こんな痛めつけて、くそが、何が、商人だ、お前なんて、くそ野郎、ひい!」

    やはり目を向けないアズールを見上げて声を上げ続けたところで、向かって右側、顔すれすれに足が振り下ろされた。あと数センチ近ければ頭を踏みつけていた黒い服を纏う足に、悲鳴と共に言葉が止まる。足を伝って見上げていけば、吊り上がった色違いの目と目が合い、喉がひきつった。ゆっくりと足が離れても、恐怖による強張りは消えない。

    「っひ、え」
    「ジェイド、無作法です」
    「失礼しました。虫の羽音が随分とうるさくて、つい。海では聞いたことのない音ですから、耳に障りますね」

    アズールの窘める声に、足の主、ジェイド・リーチは少し頭を下げた。無作法の原因としてあげられた虫の羽音、それが己を指していることに気づいた男の顔が熱くなる。また口を開いたが、合わさったままの色違いの瞳が細められたところで、連れてこられる前に振るわれた暴力を思い出し口を閉じる。マジカルペンは奪われ、冷静さのない状態で魔法など使えない。そもそも使おうとしても、連れてこられる前のように、フロイド・リーチに逸らされる可能性が高い。でも、そうなら、どうすれば助かるのだろう。
    混乱を極めた男は、縋るようにジェイドからアズールへ視線を向けた。そこで初めて、黒い帽子を被った彼の頭が動き、銀髪に遮られることなく顔が見える。数秒、レンズ越しに目が合った。たまたま視界に入った塵芥を目で追ってしまった、そんな酷薄さを湛えた青い瞳が見下ろしてきて、傷どころか荒れ一つない口元が動く。

    「落ち着いてください。取って食おうというわけでもありません」
    「そ、んなこと言って、なぐるんだろ、こいつらが」
    「あなたに対価を支払う意思があれば、これ以上の手出しはさせませんよ。ただその前に、誠意を示していただきたくて」
    「誠意、」
    「ええ」

    ソファに腰かけていたアズールが、勿体ぶるように立ち上がる。合わさった碧眼が逸れて、自然と男の視線が下がる。トレンチコートの裾とストールが持ち上がる動きを下がりゆく目で追い、床を映そうとしたところで、磨かれ埃一つない靴の先を見つけた。アズールの靴だ。

    「何をすべきかお分かりでしょう?」

    頭上から声が降りそそぐ。目の前に靴の爪先が留まる。誠意を示す。それはつまり、自分がアズールに負けたことを示せということか。息が詰まる。挟んだ男達は何もいわない。爪先を、磨かれ傷のない靴を見つめる。誠意、誠意、示すというのは行動だ。この状態で、這いつくばった姿で、示せる誠意など。価する行為など、混乱した男は1つしか浮かばない。酷く屈辱的で、現実に行うことなど考えたくない行為。
    けれど今、何もしなければまた暴力に襲われる。

    「っ、っ」

    引きつった喉から、微かに出た声がいやに響いた。対価を支払えば願いを叶える、そう言ったから契約した。相手側が指定した対価は一見多少の労力を払えば支払えるものにしか見えなかった。それが払えなかった上に、確証はないが妨害したのだろうアズールの両腕達のことを考えて、今こうして床に這う状態にまた苛立って、歯が軋む。
    誠意。誠意を見せれば、きっとまともな交渉に移してくれる。恥ずかしさと情けなさを押さえ込め。忌々しいこの男は、今確実に、自分の格上だ。軋んだ歯を開け、顔の目の前に見える磨かれた靴をもう一度見る。開いた口から舌を伸ばして、情けない姿になる。転がされた体をよじり、アズールの足元へ更に近づき、伸ばした舌先が艶やかな靴の革へ触れそうになって。
    瞬間、男の体は後ろへ吹き飛んだ。
    湯でもかけられたように顔が熱さを覚え、間髪置かず背中から衝撃を受ける。手が使えない状態では身を守ることはできず、頭までぶつけた。出入り口である大きな扉にぶつかったのだと気づいたのは、ついさっきまですぐ傍に立っていたアズール、ジェイド、そして振り上げた足を下ろしたフロイドと距離が生まれているのがかろうじて見えてからだ。

    「っが、うぅう!」
    「なに気持ちわりーことしようとしてんだよ雑魚」

    まともに話すこともできないところに、蹴飛ばした張本人の声がかかる。長すぎるほど長い足を開いたままのフロイドを、滲んだ視界にかろうじて捉える。帽子の下から色の違う瞳で睥睨し、男をはっきりと威圧してきた。身が竦んだ男から視線を外さない相手に息が止まる心地になっていると、いつしか2人の中央に立つアズールがまた窘める。

    「いけませんよフロイド、陸には様々な文化があるんですから」
    「靴舐めんのがコイツにとって誠意見せる方法ってこと? 意味わかんね」
    「ちが、らって、」
    「おや、違うんですか。なら……あなたがお考えの誠意の示し方、随分と屈辱的な手法なんですねぇ?」

    それまで冷淡に見るばかりだった青い瞳が、初めて笑みに歪む。はっきりと男を、今の男の振舞いを嘲弄する。今の男を、真っ当に扱うことなどないのだと教えてくる。屈辱、怒り、後悔、痛み、全て混ざりあい顔を歪めた男に、3人の悪魔のごとき男達が揃って笑った。
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    冷たい床に、殴打され常より熱い頬の熱が移っていくのを感じる。ここへ引きずり込まれる前に受けた傷が、拘束された体を痛めつけ続けている。うめき声、あるいは文句の1つでも言いたいところだが、男を挟むようにして立つ長身達がそれを許さない。転がされた男から見れば巨人の如き2人の男。海のような色の髪と、色が違う瞳が特徴的な取立人が彼のすぐ傍に立ったままなのだ。実際、先ほど身じろいだところで一撃食らったのもあり、男は大人しく待つしかない。ただ取立を行うのではなく、この部屋へ連れてこられたということは、彼らの主人が男に用事があるということだ。処刑の準備を待つ罪人のような心地で、男は息を殺す。水槽の方から水音が聞こえる。少し聞こえる音は、店の方に流れるBGMだろうか。張り詰める神経が、余計な情報を追ってしまう。それが自分の緊張を高め、首を絞めることとなっても止められない。
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