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    三重@ポイピク

    好き勝手に書いてる文字書き。ツイステのイドアズにはまってます。Twitterはこちら→@mie053

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    POIPOI 24

    三重@ポイピク

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    薬を被ったことで幼児退行したアズくんと、退行したアズくんに戸惑うジェと、あまり様子の変わらないフロの話。
    ※アズくんが幼児退行しています※
    ※アズくんが粗相する描写があります※
    ※人魚に関する捏造設定があります※

    #イドアズ
    idoas

    稚いあなたは初めてで稚魚の鳴き声が響いている。おそらく人魚の耳朶のみがその震えを感知できるだろう、幼い人魚の鳴き声が。海の中では時折聞いていた鳴き声に、しかしジェイド・リーチは首を傾げた。
    先に言ったように、この場が海の中なら分かるのだ。だがジェイドが今いる場所は陸である。ジェイドと同年代、10代後半の少年達が殆どを占めるナイトレイブンカレッジだ。こんな場所で、稚魚の鳴き声が響き渡るはずがない。人魚の稚魚を陸に上げる大人はまずいない。密漁を考えるには、孤島にある学校とはいえ、海から離れているのでおかしい。
    一体どこから稚魚の声は響いているのか、と首を傾げたところで、ジェイドは教室の出入り口から自分の名を呼ぶ声を聞いた。振り返った先、出入り口で立ち止まっているのは別クラスの同級生である。ジェイドの幼馴染であり格別の相手でもある、アズール・アーシェングロットと同じクラスだ。その彼がジェイドを呼ぶということは。

    「リーチ頼む! すぐ来てくれ!」
    「どうされました」
    「アーシェングロットがヤバいんだよ! 魔法薬学棟が今大変で……!」

    青ざめた顔でジェイドに訴える同級生を促し、足早に教室を出る。その間にも稚魚の声は響き続け、むしろ今向かっている魔法薬学棟に近づくにつれ大きくなっているような気がした。

    「アズールがどうしたんですか?」
    「俺もよく分かんねえんだけど、実験中アイツに変な薬掛けた奴らがいたみたいで……それ被ったらあいつ、様子がおかしくなって」
    「具体的には?」
    「いや、なんか、急に泣き出したんだよ。そしたら急に、同じ部屋にいた奴らが倒れてって、」

    稚魚の声は更に大きくなる。青ざめた同級生の顔が更に色合いを悪くする。一連を見聞きしたジェイドは、原因は不明だが、この稚魚の声がどこから発せられているのかを察した。つまりこの、痛ましいほどの鳴き声は、アズールのものか。

    「クルーウェルがお前かフロイドを呼んでこいって言うからお前を呼んだんだけど、なぁ、なんなんだあれ、泣いてるだけであんな、頭の中ぐちゃぐちゃにするような声出せんの?」
    「状況は理解しました。あなたも、これ以上は近寄らない方がいい。魔法力を持つ人魚の稚魚は、泣き声に力を乗せてしまうことがあります。今のアズールもそうなのでしょう。恐怖に駆られた稚魚にはよくある事です」
    「よくあるって、あんなのが?」
    「ご気分、また悪くなっているのでは? ほら、これ以上は大丈夫です。念のため保健室に行った方がいいですよ」

    慇懃に親切な体で、一緒についてこられても邪魔な同級生を止める。彼はジェイドの物言いに、強張る顔にほっと緩ませて、足早についてきていた足を止めた。その姿を確かめてすぐ、ジェイドは足の動きを速める。スマートフォンを取り出し、片割れであるフロイド・リーチに「稚魚の鳴き声が聞こえますか? アズールの声だそうです。魔法薬学棟にいますので、気が向けば来てください」とメッセージを送る。既読になったかも確かめないまま更に足を進めていけば、目的の魔法薬学棟は目の前だ。鳴き声が大きく響いている。この先に、なんらかの魔法をかけられた、稚魚の鳴き声の主がいる。
    魔法薬学棟に入れば、廊下だけでも惨状だった。数人の実験着を着た生徒が倒れている。ジェイドは倒れた彼らを無視して、鳴き声が大きくなる方向へ歩み続ける。聞き慣れた魔法薬学教師の「落ち着け子犬!」という声が混ざり、一際大きく声が響いたところで、ジェイドは教室の扉を開けた。
    開け放った先に広がる、別段荒れた様子のない、魔法薬学の教室。そしてその床に倒れ込み、あるいは座り込んでいる、実験着を身につけた同級生たち。今までで一等大きく鳴り響く稚魚の鳴き声が、ジェイドの耳朶を最も大きく震わせる。恐怖、混乱、反抗。人間や獣人の耳では完全には聞き取れないだろう、拙い人魚の言葉。聞こえるそれらを流しながら、ジェイドは見慣れた白と黒の毛皮のコートを纏う教師の元へ歩み寄った。

    「クルーウェル先生、アズールは?」
    「ジェイド・リーチか。言葉による説得は可能か? こちらの言葉が理解できないらしい。話しかけると声が高くなるばかりだ」
    「そうでしょうね。ここまで来ると分かりますが、今のアズールは稚魚同然まで精神が戻っているようですから」

    言いながら、人魚以外が聞けば心身に支障を来す声を止めないアズールへ視線を向ける。
    ジェイドの視線を受け止めたアズールは、実験着を纏い、眼鏡ではなくゴーグルをつけた格好で床に座り込んでいた。ぺたりと尻をつけて座る姿は、平素の澄ました様子からは考えられない。何より、ゴーグル越しにジェイドをじっと見ている目元を少し腫らした青い瞳は大きく見開かれ、警戒を続けている。艶黒子が印象的な口元はわなないて、今も鳴き声を出し続けていた。そんなに鳴いては、喉が枯れるのではないだろうか。そう思いつつ、ひとまず感心を持ったアズールへ視線を向けて、ゆっくりと口を開く。

    『僕の言葉は分かりますか?』
    『っあ、に、にんげん、なんで、にんげんがしゃべるの、にんぎょじゃないのに。ぼくはにんぎょなのに、どうしてにんげんみたいに、あしがあるの、ここはどこ、ままは、ままはどこ?』

    陸の言葉ではなく海の言葉で話しかければ、鳴き声が止まり、アズールの口から拙い同じ言葉が返ってくる。疑問を口にしていくにつれ、再び混乱してきたのだろう。ゴーグル越しの青い瞳が涙で潤み、そのまま素直に涙を零す。ゴーグルを着けたままでは涙が貯まってしまいそうだと、他人事のように思った。普段なら他人がいる場所で泣くことなどしないアズールが、あっさりと泣き顔を晒している姿は、この異常事態を物語る。

    『僕は人間の姿をとっている人魚です。ジェイド・リーチと言います。あなたは?』
    『ぼく、ぼくはアズール。4さい』
    『アズールですね』
    『ねぇ、どうしてぼくはにんげんみたいになってるの? ここはどこ、まま、ままはどこ』

    グズグズと、泣き顔を更に歪めて問いかけてくるアズール。外見は変わりなく、精神のみが退行した彼の弱った姿は、普段の彼を見ている者からすれば幻覚を見ているかと思うような様子だろう。頑是ない、心細そうな稚魚の表情が、大人へ近づきつつある青年の白く整った顔にのる様子は、妙な色香さえある。
    それはそれとして、ジェイドから見て中身だけ幼くなったアズールというものは愉快でもなかった。ジェイドが知るアズールは、青い瞳に炎を燃やすアズールだ。それ以前の稚魚に戻った彼は、ジェイドの言葉1つで呆気なく傷をつけてしまいそうに見える。一時的な状態だというのも分かっているし、雑な対応をして戻るのに時間が掛かるのも面倒なので、適度に接するしかない。切り替えて、いつも通りの笑みを浮かべた。
    しかしアズールは、ジェイドの笑みに安心を見せるのではなく、ひっと喉をひきつらせる。

    『アズール? どうしました』
    『ジェ、ジェイドは、なんのにんぎょなの』
    『僕ですか、僕はウツボです』
    『ウ、ウツボ!』

    素直に答えた途端、目尻が切れそうなほど目を見開いたアズールは、碌に歩けないだろう足を引きずってジェイドから距離を取りはじめた。再び鳴き声が小さく聞こえ始めて、アズールが怯えていることを伝える。その様子がどうにも不思議で、ジェイドは逃げられた分だけ、アズールとの距離を詰める。アズールの全身が大きく震えて、またじりじりと後ろに下がり、ジェイドがそこへ近づく。
    何の益もないが、アズールが止まらないなら止まるつもりもないジェイドが追っていくこと暫し。とうとうアズールは近くの机に背中をつけて、後退できなくなる。やっと逃げられなくなったところで更に近寄ると、アズールの小さく開いた口から、恐怖にわなないた鳴き声が新たに響く。何をそこまで恐れるのかと、目の前で動きを止め、座りこむアズールを見下ろしたところで、教室の扉が大きく開いた。振り返った先には、いつも通り制服を着崩したフロイドの姿がある。

    「ジェイドぉ、アズールどうなってんの?」
    「フロイド」
    『っわ、あ、う、ウツボがふえた!』
    「あ、いたぁ。なぁにアズール、稚魚ちゃんになっちゃったの?」
    『っひ、い』

    ゆったり歩いてきたフロイドは、アズールの前にしゃがみ込む。そこでジェイドは初めて、アズールに対してしゃがみ、目線を合わせることもしていなかったと気づいた。一方、しゃがみ込まれたアズールは、覗き込むフロイドの前で青い瞳を更に潤ませる。元より白い顔が青ざめ、喉からまたか細い鳴き声が響き。
    瞬間、ウツボの人魚であるが故に鋭いジェイドの嗅覚が、刺激臭を捉えた。薬物を取り扱う部屋に突如増えた臭い。本来なら手洗いでしか嗅ぐことのない臭いが、アズールの方から漂ってくる。フロイドも察したらしく、「なんか臭え」と一言呟くと、アズールの実験着の裾を軽く捲った。果たして実験着の下、制服のスラックスを穿いたままの足が濡れているのを確かめて、フロイドは青ざめたアズールに問う。

    「漏らすほど怖かったんだ? アズール」
    『なに、やだ、ウツボ、たべないで、やだっ』
    「大丈夫だって、オレもジェイドも……これ通じてねえ?」
    「4歳と言っていましたから。まだ陸の言葉は覚えてないようですよ」
    『じゃあこっちは分かる? 大丈夫だよぉ、オレもジェイドもウツボだけど、アズールのウツボだから』
    『ぼ、ぼくのウツボ?』
    『そう、だからアズールを食べたりしないって』
    『……本当に?』
    『本当だよ。ねぇジェイド』

    問われて頷いたフロイドは、ジェイドを見上げて聞いてくる。「ジェイドもしゃがめば。アズールビビッてんじゃん」と続けられ、その言葉に従いしゃがみ込む。そうして高さが近づいた青い瞳の、まだ揺れている目を見つめて肯定した。

    『フロイドの言う通りです。僕もあなたのウツボですから、食べたりしませんよ』

    噛んで含めるように、ともすれば浮かべてしまいそうな作り笑いも抑えて言う。アズールは2人の顔を暫く見つめていたが、やがて小さな鳴き声を上げる。これまでの悲痛な、人魚以外を痛めつけることで身を守るものとは違う、安堵を多分に含めた鳴き声に、気づけばジェイドはアズールの乱れた髪を撫でていた。撫でる手に小作りな顔を擦りつける仕草はやはり幼くて、興味があまり湧かないはずなのに、少しも目を離せなかった。
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