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    アリス視点 アキとアクアが付き合い始めた後少しナーバスになるアリスの話

    「They were good days. Yes, they have been good days.(それは良き日々だった。それは良き日々として、今もある。)」

    ##そらめも

    SS「アクアと付き合うことになったよ」
     そう言ってはにかむように笑ったアイツの顔を見たまま、笑顔で「おめでとう」と言えた自分のことを、俺は後世まで誇ると思う。


    「わっ、えっ何、起きてたの?」
     居住スペースを区切るカーテンを開けたアキは、暖炉の前で一人本を読んでいた俺を見て驚愕した声を上げた。
    「……ちょっと、眠れなくて。お前こそ……」
    「ぼくは、いつもよりちょっと早く起きちゃって」
    「ちょっとって、早すぎね? ジジイかよ」
     時計の針は朝の四時を示している。窓から見える空には、まだ夜の帷が落ちていた。
     あははと朗らかに笑ったアキは、ふと思いついた顔で言った。
    「ねぇ、アリス。せっかく起きているのなら、ちょっと散歩にでも行こうよ」


     アキと共にレイブンクロー塔の螺旋階段を下る。ホグワーツ城のどこかしこもが薄暗く、額縁の中の肖像画もまだ夢うつつだ。
    「深夜徘徊って校則違反なんじゃねぇの」
    「ふふん、早朝の散歩は違反じゃないからね」
     アキは得意げに言うが、朝の四時は『早朝』の区分に入るのだろうか。議論の余地があるようにも思う。
     正面玄関から、雪が降り積もる校庭に出る。アキは吹き抜ける風の冷たさに「寒っ」と身を震わせつつ指を鳴らした。
     一瞬魔力が弾けた直後、アキの魔法で風が止む。吹き荒ぶ寒風に枝葉を震わせる木々を横目に、アキは新雪を踏んでは校庭を真っ直ぐに横切っていく。その後ろに、俺も黙ったまま続いた。
     雪の白と、夜の黒。その黒に、アキの長い黒髪が溶け込んでいる。
    「…………っ」
     輪郭を失うような感覚に、咄嗟にアキの腕を掴んだ。アキは驚いた顔で振り返る。
    「あ……悪い」
     バツの悪い思いで手を離した。アキから軽く目を逸らす。
     ──アキの隣にいるべきなのは、俺ではない。
    (だってアキの隣の席は、もう埋まってしまっている)
     これまで、どうやってアキの隣に並んでいたのか。普段の感覚が思い出せない。
     ──変わったのはアキではなく、ただ、俺の心の方。
     奇妙なほどに遠慮をしている。自分でも不思議なものだと思う。
     アキは何も変わっていない。アクアと付き合い始めたからといって、俺との関係が揺らぐこともない。
     そんなことはわかっている。アキは俺のでもないし、アクアと付き合い始めたからといって、アクアのものになったわけでもない。
     ……わかっているのだ。
     アキは俺を見上げたまま、数度軽く瞬きをした。と思うといきなり、その場に腰を下ろしては寝転んでしまう。
    「ほら、アリスも!」
     勢いよく袖を引っ張られ、たまらず腰を下ろした。アキに促されるまま、俺もその隣に寝転がる。
    「何だよ……」
    「ほら、場所を変えるとアリスも眠れるかなって」
    「ここで寝たら流石に凍え死ぬっつーの」
    「だいじょぶだいじょぶ、アリスが本当に寝ちゃったらぼくが責任持って運んであげるからさ」
     明るい笑い声を上げ、アキは夜空を見上げ目を細める。ハァと小さくため息をつき、俺も身体の力を抜いた。ぼんやりと夜空を眺める。
     ……不思議な気分だ。雪が全ての音と色を拭い去ってしまったかのよう。
     痛いほどの静寂の中、聞こえるのは自分と、そしてアキの微かな身じろぎと息遣いのみ。
     視界に入る星の数が、今日はやけに多くって。
     思わず、ホッと白い吐息を零した。
    「あのさぁ」
     アキの声が静寂を切り裂く。フラットで柔らかなその声に、俺は視線を遣ることなく「何」と応えた。
    「最近、未来のことを考えるんだ。ホグワーツを卒業した後のこととか、あと……いろいろなことを」
    「…………」
    「でも、やっぱり思うよ。アリスとの、この眩い青春の日々はきっと、何年、何十年経ったとしても鮮明に思い出すんだろうなって」
     言いつつ、アキは左手を空へ掲げる。その華奢な手が虚空を掴む様を、俺は見る。
     そのまま、アキは淡々と呟いた。
    「……このまま、時が止まってしまえばいいのに」
     ──アキは一体、どんな気持ちでその言葉を口にしたのだろう。
     何を、考えていたのだろう。
     わからない。わからないけれど。
    「……あぁ……そうだな」
     胸の上で指を組み合わせた。小さな声で、それだけを囁き目を閉じる。
     ──俺もきっと、この先何十年が経とうとも、お前との日々を忘れることはないだろう。
     雪の舞い散る校庭で、俺はただ祈っていた。
     永遠を、祈っていた。

    fin.
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