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    drmz_315

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    drmz_315

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    陰陽師パロ

    「__________西北、山、猪、白、巨大、氷雨、つまりは戌亥、六白金気、山、巨大、白、亥、壬。これらの特徴は伊吹山の猪と完全に合致する事から山の神の属性について明らかになるという訳だ。定刻だ……本日の講義は以上」
    やや斜めに傾いた陽光が差し込む陰陽寮に、陰陽博士による授業の終わりを告げる号令が響いた。
    陰陽寮では、学生と呼ばれる者たちが将来陰陽師となるべく日々さまざまな学問を学んでいる。
    そして陰陽博士とはこの陰陽寮において陰陽道を専門に教える事を仕事の一つとする役職についている者だ。
    「カカシ、お前は残りなさい。次の雷除大祭の手伝いを頼みたい」
    講義内容が纏めてある巻子を巻き上げる者や席を立ち帰りの準備をする者のいる中、博士は一人の得業生を呼び止めた。
    「はい」
    カカシ、と声をかけられた青年は薄い笑みを浮かべたまま澱みなく気の抜けたような返事をする。
    その様子を見た他の学生達は嫉妬の眼差しを隠すことなく向けた。
    「またお声がけか」
    「次は雷除大祭だとな」
    「また大勢見物人が来るぞ、貴族の女子達もよく飽きないものだ」
    「それだけ娯楽に飢えているのだろう」
    嫉みや嘲りを含むへばりつく様な視線がカカシに向けられるが、当のはたけカカシはというと柳に風と受け流し涼しい顔をして微笑を絶やさず淡々と儀礼についての問答を滞りなく行っている。
    はたけカカシは陰陽寮の学生の中でも特に優秀な者がなる得業生として一目置かれている存在だ。
    得業生は他の学生よりも高度な知識や技術が求められる場合が多いが、はたけカカシはそれらの期待の全てに応える天才だった。
    有力貴族との繋がりが強く、由緒も正しい家柄の正当性に加えて本人の才覚もあることから、将来が約束されているといって差し支えない陰陽師見習いだ。
    顔半分を口布で覆い眼帯で片目を隠したその出立ちは良くも悪くも目立った。
    しかしそんなナリでも分かる優男ぶりに、宮中の女性達は皆カカシの虜だという。
    カカシが儀式を執り行う時はいつもの何倍もの見物人がくるものだから、当然他の学生たちや一部の貴族からは嫉妬や恨みを買っているということだ。
    眼帯で隠した左眼は幼き頃に潰れたらしい。
    巷では怪異と戦った際の負傷であるとか、さる陰陽師との対決の際の後遺症であるとか、ただ怪我をしただけであるとか、好き放題言われているがこれについて当の本人に聞くと
    「う〜ん、ナイショ」
    といつもの笑みを浮かべたままはぐらかすものだから、噂はとどまるところを知らなかった。
    さて、陰陽師の仕事は多岐にわたるがそのうちの一つに鬼や物怪を視る、というものがある。
    “視”る、とは言っても、基本的にそれは目視によるものではない。
    卜占によって占うことで、どのような鬼が取り憑き悪さをしているのか、家のどの場所にいるのかを感知する。
    そうして適宜適切な儀式を行い魔を祓う。
    これが一般的な陰陽師が踏む段取りである。
    しかし、カカシはその他陰陽師とのとは違い直接“視”ることができるというのが宮中ではもっぱらの噂なのだ。
    カカシは幼き頃の怪我により隻眼であるという事を逆手に取り、陰陽師見習いという立場でありながら直視してはいけない類の妖や神の調伏を成し遂げ、ある時には式神として使役までして見せたという話がまことしやかに囁かれている。
    元々人目を引く優美な見目であった事に加え、圧倒的な才能と実力から嫉妬を買うことも多いカカシは良くも悪くも話題に上がり、尾鰭のついた出所不明の風聞が絶えなかった。
    「雷除大祭での活躍、期待している」
    「ご期待に添えるよう頑張りますよ」
    淡々と、業務内容の具体的な説明と確認が行われて、カカシが祭の儀式の補助として参加する約束が交わされる。
    「それと、もう一つ。これはお前個人への依頼の話なのだが……」
    博士は続けてカカシに話を持ちかけた。
    曰く、はたけカカシに調伏を頼みたいと申し出てきた貴族がいるらしい。
    右大臣家と繋がりのある家の者であるから、断るとカカシの立場が悪くなることは明白だ。
    依頼内容の具体的な話が出ていないとしても、断る選択肢は基本無い。
    カカシの評判を聞きつけた貴族はあるときは面白がり、そしてまたある時は本気で助けを求めてわざわざ話をつけて依頼してくるのだ。
    「……詳しく話を聞かねば、出来るかどうか判断しかねるというのが本音ですが」
    「他の学生達には出来ないことをやって見せなさい」
    ダメ元で依頼内容を具体的に教えろという意の返事をするが、あからさまに躱されてしまったカカシは肩をすくめた。
    「依頼の詳細については屋敷に来てから伝えるそうだ、引き受けてくれるな」
    前述した通り、カカシに断る選択肢は無い。
    であれば、返事は決まっていた。
    「拝命いたしました」
    「良し、お前の噂はもはや宮中を駆け巡っているのは知っているな?今や帝までもが御興味をお持ちになられていらっしゃる……。いずれ帝の前で披露する日の練習のつもりで、しっかり経験を積みなさい」
    「勿論です」
    こうしてカカシは言われた通りに、調伏の依頼をしてきた貴族の屋敷へと向かったのであった。
    多くの学生達が帰り支度を済ませ次々と講堂を去る中、カカシの背中へ値踏みするような視線を送る者が1人あったが、カカシはついぞ気づかなかった。


    _______


    昼下がり、牛車に揺られながら、カカシは依頼をしてきた貴族のいる壬生家に辿り着く。
    案内されるままに屋敷の客間に迎え入れられてから少し待てば、この屋敷の主人である壬生シリュウがやって来た。
    壬生シリュウは萩の国の国司に任命されている初老の中流貴族である。
    国司とは国の行政や財政の管理を主な仕事とする地方官であり、シリュウは国司の中でも最上位の階級である萩守に任命されていた。
    加えて正妻との間に男女の子供が1人ずつおり、娘は右大臣家に嫁ぎ、息子である壬生シグレは陰陽寮の学生としてキャリアを積み上げている。
    同じ陰陽寮で学んでいるとはいえ、カカシはシグレと個人的に話すような仲ではなく、壬生の名を聞いてもすぐにはピンと来なかったほどには関係性が希薄であった。
    カカシが慣例に倣いシリュウに頭を下げれば形式的なやり取りもそこそこにシリュウは廊下を指差した。
    「ここで2人して顔を突き合わせて話すというのも風情がない。どうだ、庭でも眺めながら話そうじゃないか」
    「壬生殿がそう仰るのであれば」
    木の板の床を踏み締める音を鳴らしながら向かった先には、几帳面に整えられた日本庭園があった。
    いっそ不気味さを覚えるほどに整えられた庭は飛んでくる野生の鳥や池に住まう蛙ですら、かくあれかしと命じられてそこにいるのだと思わせる迫力がある。
    さて、はたけカカシを呼びつける貴族は大きく分けて二つに分けられる。
    一つは宮中で噂になっている美貌やその妙術に好奇心をそそられ一目見たいと思い呼びつける者、そしてもう一つははたけカカシの持つ圧倒的な力を使って何かを成させようとする者。
    前者の貴族は不躾な視線でジロジロとカカシを凝視するのが常だ。
    どうやら壬生シリュウは後者であったようだ、どこか試すような態度を隠すつもりもないらしい。
    「時間はとらせない、今日は話を聞いてもらうだけで済む。……ただし、お前の力が本物であればだが」
    「壬生殿は私の力をお疑いになると」
    いきなり本題に入ろうとする貴族らしからぬシリュウの大胆さに多少面食らうが、それを表には出さず薄笑いのままカカシは言葉を返す。
    早く用事を済ませられるのであれば、それはカカシにとって願ってもない事だった。
    「念には念をという話だ。こうやって私はこの地位までのし上がってきたのだ、悪く思うな」
    「それで、貴方の信頼を得る為に私は具体的に何をすれば」
    臆する事のないカカシに満足したのか、それまでは庭を眺めたまま話していたシリュウが口元を歪めながらはたけカカシに向き直る。
    「……式神を使えると聞いた。その式神で、人は殺せるか」
    腹の底が読めない、何を考えているのか悟らせない口ぶりだった。
    「我々が使う術の秘事をあけすけに問われると此方としても返答に困りますが……そうですね、例えば一寸の虫などは今すぐにでも。しかし生き物を生き返らせるとなると話は変わる。娯楽の為にただ殺すなど無益だとは思いませんか」
    薄っぺらい笑みは依然浮かべたままに、ツラツラとそれらしい道徳を語る。
    腹の読み合いはカカシも得意な分野だ。
    シリュウの真意を見定める為動じる事なくパッと一枚の式神を取り出して見せてみれば、シリュウは庭の方を眺めて少し考えた後スッと庭にある苔の生えた岩の上を指差した。
    「あの岩の上、蛙が一匹いるだろう。殺して見せよ」
    「……罪なお人だ」
    表情を引き締めたカカシはシリュウから目を側め、持っていた式神を口元へと当ててぼそぼそ呪文を唱えはじめた。
    「急急如律令_____」
    最後にそう締めくくり式神を真っ直ぐ蛙の方へ向ける、凛とした一連の動作に空気が引き締まる。
    式神にフッと軽く息を吹きかけ腕を伸ばすと、ゆらゆらと飛びながら着実に蛙の方へ向かっていった。
    蛙の真上へと飛んだ式神がふわりと蛙に飛び乗った瞬間、べちゃり、と蛙が潰れた。
    目が痛くなるような色の臓物が岩の上へ広がり、飛び散った血の一部はシリュウの頬を汚す。
    貴族というのは極端に穢れというものを嫌うものだ。
    カカシは血が飛んだのは不味かったかと思いながらそっとシリュウを見るとシリュウは潰れた蛙を見ながら耐えきれないといった様子で口を開け高笑いし始めた。
    「お見それした!噂はまことであったようだ、試す真似をしてしまいすまなかったな」
    頬の血飛沫を袖で雑に拭いながらシリュウは目を細めた。
    「はたけカカシ殿、貴方は本物であるようだ。そんな貴方にだから頼みたいことがある。……鬼殺しの経験は?」
    「残念ながら、まだ」
    「そうか。時間は有限だ、手短に済ませよう。……我が息子に多少縁のある女が、鬼に成り果てたかもしれぬのだ。その始末をお前に頼みたい。」
    依頼内容を聞いたカカシは息を呑んだ。
    鬼殺し_______数々の英雄譚はあれど逸話になるということはそれだけ鬼殺しが難しいということの証左でもある。
    それを単独で成してみせるとなるとカカシでも苦戦を強いられるだろう。
    しかし、カカシの答えは最初から決まりきっていた。
    「拝命いたします」
    「良い返事だ。」
    「して、その女性は」
    カカシが詳細を確かめる為に質問をすると、シリュウはわざとらしく思える程悲嘆にくれたような顔をしながら経緯を話し始めた。
    曰く、シリュウの息子であり、カカシと共に陰陽寮で日々学んでいる学生であるシグレには子を設けている正妻とは別に、家に通っていた女がいたそうだ。
    控えめな女で頑なに名を明かさなかった為、庭にある立派な紅葉に準えて紅葉の君と呼び足繁く通っていたそうなのだが、ある時から家を留守にするようになった。
    そしてその女が失踪した時期は、検非違使が鬼が出たと騒ぎ出した時期と完全に合致していたそうだ。
    考えすぎだろうとあまり気にしないように過ごしていた矢先、その女の屋敷から行方不明になっていた人物の引きちぎられたような首だけが発見されたことで悪い予感は現実になった。
    正式な儀式を済ませた女でもないが、縁を持っていた以上放置するというのも気が引ける。
    しかし陰陽寮の学生の立場でありながら自分が手を出した女の始末一つつけられないと知られればそれこそ醜聞である。
    そこで、はたけカカシに白羽の矢が立ったというわけだった。
    つまりこれは、内密のままに事件を解決しろという命令であった。
    「女に何があったのかは分からぬが、始末は頼んだぞ」
    「……おまかせを」
    下調べの為に女の家の所在を聞いた後、カカシは短く礼をし、その場を立ち去るために一歩踏み出した。
    鬼退治など本来は単独で調伏に挑むようなものではないが、カカシにはある目的の為に陰陽博士になる為の地盤固めに邁進しているところなのだ。
    鬼退治の箔がつくついでに、陰陽寮の人間に恩が売れるのであればそれで良かった。
    カカシの背中には値踏みをする露悪的な視線が突き刺さったが、それに怯んで歩みを疎かにすることはなく、確かな足取りで壬生家をあとにした。



    _______


    十字路というのは、道と道が交わる特異点そのものだ。
    行く者と来る者、進む者と戻る者。
    そしてその特異点はあの世の者とこの世の者が交差するのに丁度良い場所でもある。
    現世と来世の境界である辻には鬼や魔が出る、そしてその魔は禍をもたらすと人々信じてきた_____。
    こういう話があるくらいだから、十字路というものを見かけた時には何か悪いものに取り込まれてしまわぬよう気を強く保つことを心がけるのが吉である。
    日がすっかり傾いた日暮れ、カラスの群れの鳴き声が遠くに聞こえる。
    こんな時間に出歩く者といえば己の正体を隠したい無法者ばかりであるから出歩くものではないというのに、壬生シリュウから依頼の内容を聞いたはたけカカシは洛中から西に向かって少し馬を走らせた場所に存在するとある十字路へと向かっていた。
    そこには朽ちかけた木で組まれ、何を祀っているのかも忘れてしまった佇まいの寂れた祠がある。
    その祠のはるか後ろには、神域とされている大きな山がずしりと存在感をもって聳え立つ。
    ただびとならば本能で何か悪い気を察知して早足に通り過ぎてしまうその祠の前でカカシはしゃがみ込んだ。
    人と魔物、全く違う性質の者同士が落ち合うには最適な場所。
    そこでカカシは虚空に向かって声を上げた。
    「オビト……いるでしょ」
    誰に拾われるでもなくぽつりと独り言が霧散する。
    草原の面を撫でる風の音だけが耳をくすぐる。
    それでも気にせずにじっと待っていると
    「ここにいる」
    と真後ろに突然気配が現れカカシの頭上から声が降る。
    「召喚術でもなんでも使って呼びつければ良いと言っているのに、何故暇さえあればほぼ毎日ここまで来る?」
    カカシは突然至近距離から声がしたことに驚きもせずゆったりと振り返り、声の主の姿を認めて破笑した。
    声の主、オビトは右眼の深紅の瞳と左眼の神秘的な若紫の瞳を丸くしてカカシを見下ろす。
    「オレの方からオビトに会いに行きたい気分だったの」
    宮中で見せる軽薄な笑みは消え失せ、だらしなく目尻を垂れさせ歓喜に満ちた表情を向けるカカシ、その雰囲気に当てられそうになったオビトは大きくため息を吐いた。
    「……好きにしろ」
    オビトは驚かせてやろうと広げていた、暗澹の闇を思わせる艶めいた羽をしまった。
    オビトは都の郊外にある山を拠点としている怪異としての格が高い高位の鴉天狗であり、カカシの幼馴染でもある。
    その山において神聖視され信仰の対象となっている、より高位で旧い鴉天狗であるマダラ直属にして唯一の眷属であるようだが、そのことを話題にすると途端に機嫌を悪くしてしまう。
    一般に天狗といえば人の諍いや火事、疫病など人にとって禍でしかないものを好み、仏を嗤う衆生の敵とされるが、マダラやオビトがそのような物を好む素振りは見えない。
    マダラは単にヒトの世に興味がないといった様子であるが、オビトにいたっては寧ろ正体を隠して気まぐれに山から降りては、道ゆく人々が困っていれば手を差し伸べるといった人助けを度々行っている。
    カカシはオビトが天狗らしくないのは高位の鴉天狗であるからという理由の他に、オビトという鴉天狗の特殊な成り立ちが関わっていると睨んでいるのだが、カカシがその生い立ちに関して詳しく聞いても答えてもらえた試しがなく、分からないままだ。
    カカシはオビトに向き直り立ち上がって裾の砂埃を払ってから、今日受けた依頼について話した。
    「調伏の噂を聞きつけた貴族達がどんどん依頼してくるんだよね、ホント迷惑しちゃう。陰陽師がいるのに、得業生のオレにばっかり頼んでくるのはオレが暇だと思われているのかなんなのか……センパイ方からの視線が痛いよ」
    カカシはまとまった休みが取れないことを嘆きながらやれやらと首を振る。
    「そんな事より……いい加減自分から見世物になるような振る舞いをやめろ。前にも言ったはずだ、そんな貴族共にわざわざお前の術を見せる必要はない。だいたい、カカシが何でもかんでも引き受けるから舐められるんだろう」
    オビトは酷使されているカカシの激務ぶりと、カカシを軽んじた扱いをする貴族の聞いて眉をぐっと顰める。
    カカシはそれがどうしようもなく愛しくなり、人差し指でオビトの眉間をぐりぐりと押した。
    「心配しなくても、オレは大丈夫だーよ。今のうちから貴族との繋がり強めておいて損はない。でしょ?」
    カカシの指を握って眉間からどかしながらオビトが反論する。
    「心配しているわけじゃない!……が、それでお前が倒れるなら元も子もない。……隈が酷い、お前は人の子なんだからよく寝ろっていつも言ってんだろ。優秀な出世頭のお前が一体何に焦ってんだ?権力に固執するような質でもないだろ」
    オビトが話すとき、大人びた古風な口調と、幼少期のカカシと出会ったばかりの頃のような子供っぽい口調が混じることがある。
    この鴉天狗は困った事に人が必死に見栄を張って背伸びをしている時は目敏く気づいて憂うくせに、自分が無理をしている時にはどこまでも無自覚だ。
    本人は気づいていないが、いつもは抑えている本音を漏らす時にオビトは幼い口調になってしまう。
    つまりオビトは本気で自分を心配しているのだ、と分かったカカシは口角が上がるのを抑えられなかった。
    「うーん、なーいしょ」
    カカシはオビトの鈍感さへの当てつけのつもりでウインクをしながら答えを煙に巻いた。
    そんなカカシをオビトは冷ややかな目で見つめる、片目を隠したカカシのウインクは瞬きでしかない。
    カカシがまだ幼かった頃から見守っているオビトは、カカシ自身に教える気がない時はどれだけ詰めても駄目だということを知っていた為、それ以上の追求はしなかった。
    ただ腹立たしい気持ちはあったので、代わりに掴んだままであったカカシの人差し指を関節と逆の方向にぐいっと押してやる。
    「いたたたたふざけてごめんって」
    カカシが少し焦る様を見て溜飲をおろしたオビトは満足げに表情を緩め笑い声を漏らす。
    そんな些細な笑顔にさえ胸が弾んでしまうほどカカシはオビトに骨抜きだった、そんな事を伝えたら照れ隠しに何をしでかすか分からないため口には出さないが。
    だらしない笑みを浮かべるカカシにため息を一つ吐いた後、真面目な顔になったオビトは依頼内容について気になる点を指摘する。
    「カカシ、お前もこれがただの鬼退治の依頼じゃない事くらい察しているだろ」
    「オビトもそう思う?やっぱり何となくきな臭くはあるんだよねぇ」
    「いくらお前に劣る学生とはいえ、陰陽道の知識をかじった奴が自分の女が鬼になるまで気づかないなんてあり得るのか?」
    オビトの指摘は最もであったのでカカシは全面的に同意する。
    「あり得ないね。それに、壬生シリュウの態度も引っかかる。ただの国司で戦地に赴く経験なんてない貴族が、生き物の死や血の穢れに過剰反応しないなんて不自然にも程があるでしょ」
    「違いない」
    貴族というものは穢れの概念を忌み嫌う。
    具体的に何してるか
    馬鹿らしく思えるかもしれないが、それらは貴族からすれば真っ当な自衛の手段であり祈りでもあったのだ。
    その慣例を無視するシリュウの言動は強い違和感を覚えさせた。
    「……あの家の庭
    シリュウの言動はかけ離れている」

    「ただの依頼とは思えん」

    「ただ、それにしたって目的が分からないんだよね。まだなーんも調べられてないから当たり前なんだけど。本当に息子の醜聞を広めたくなくてオレに全部解決させようとしてるだけなのかもしれないし」
    「……いつも言っているが、無茶はするなよ」
    ぼそりと、思わず無意識に口から漏れ出てしまったという形容が的確な様子でオビトはカカシの身を案じる言葉をかけた。
    「なぁに?心配してくれてんの?」
    珍しいオビトの様子を意外に思いながらカカシが冗談混じりに返した言葉はどうやら図星であったようで、オビトは面白いくらいに耳を真っ赤に染め上げてカカシに詰め寄る。
    「調子に乗るな!目をかけてる人間がしょうもない理由で死んだら、オレがマダラに一生馬鹿にされかねねぇんだよ!分かったらさっさと帰って寝ろ!今度から来るとしてもこんな遅い時間に来んじゃねえぞ!」
    オビトはカカシに強めのデコピンをして、さっさと家に帰るように催促した。
    「はぁい」
    確かに、オビトと話し込むうちに宵闇の迫る時間帯になってしまっていた。
    カカシは少しヒリヒリする額をさすりながら今日のところは素直にオビトの言葉に従うことにするのだった。
    太陽は祠の向こうに聳え立つ山の稜線を茜色に染め、じきに辺りは闇に包まれようとしていた。
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