ずっと昔の夢を見る。高い頻度ではないけれど、忘れた頃に襲い来るそれが、鯰尾藤四郎にとっては酷く不快だった。
「なんで、よりによって今なのかな」
うなされた夜に飛び起きて、寒々しい隣を見つめため息を吐くのは、これが初めてではなかった。同じ悪夢を見た夜に、黙って手を繋ぎ合う兄弟は今、ひとりで修行の旅に出ている途中だった。
なかなか修行に発つ踏ん切りがつかなかった鯰尾とは違い、彼の兄弟──骨喰藤四郎は、知らぬ間に決意を固めてしまっていたらしい。出立の朝、彼を笑顔で見送りはした。けれど、鯰尾の心中は複雑だった。だって、まるで骨喰に置いていかれたみたいで──そこまで思い返して、彼は頭を横に振った。燃えて記憶が何一つない兄弟は、一部の記憶がないだけの自分よりも、深く大きな焦燥を感じていたのだと、よく知っていたから。
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