「みんなはもう接吻の経験しているの?」
ほわほわした長閑な口調の問いかけにその場にいた面々はぴたりと身動きを止める。
事の発端は守一郎のひそひそ話だ。
夕飯時、同学年のうちたまたま時間が合った五人が長屋の台所に集まっていた。い組の喜八郎と滝夜叉丸、ろ組の三木ヱ門と守一郎、は組のタカ丸である。分担して持ち寄った米を炊き、味噌と豆腐で汁を作り、川魚を焼いた。食に関わる場での言い争いは腹が空くだけでいいことがないと過去に痛感しているため、互いに対抗心を燃やすナルシスト二人も淡々と手を動かしている。無言でも連携が取れるのは曲がりなりにも三年以上共同生活を送っているからだ。喜八郎はいつもこうなら静かで良いのにな、とぼんやり思う。
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