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    クロエとオーエン

    #オーエン
    owen.
    #クロエ
    chloe.
    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra

    手向ける花はない魔法舎の食堂でネロを脅して作らせた甘ったるいクリームでできたケーキをぐちゃぐちゃにして平らげた後、オーエンは別の甘い匂いを嗅ぎつけてふらりと外に出た。ネロが「そっちは行かないほうが」とか言っていたけれど、お菓子を持っていないネロのいうことを聞く義理はない。よく知った魔法使いの気配がするのも、オーエンの好奇心をくすぐった。
    リケ、ミチル、といったいじめがいのある年端も行かない魔法使いたち、そして、誰もが恐れる北の魔法使いに無邪気に接してくる西の魔法使いのクロエ。この三人が甘い匂いをさせて何をしているんだろう、美味しそうなものを持っていたら奪ってやろう、とオーエンはお菓子を奪われた三人が自分におびえた顔を見せるのを想像する。
    ネロがオーエンを制止しようとしていたことを考えると、ネロに作ってもらったお菓子を持ってピクニックをしているのかもしれない。ミチルもリケも、すこし心の柔らかいところをついてやればすぐに泣き出しそうな顔をするから面白い、とオーエンは目を細める。クロエには何と言ってやろう、と考えたところで、想像の中のクロエがオーエンのことをお茶会に誘ってきて、彼は自分でもおどろくほど面食らってしまった。それにつられて想像のミチルとリケも笑顔を見せてくるので、ちょっとだけ面白くない気分になる。
    お菓子のこともどうでもよくなって帰ろうとしたところで、匂いと気配が急に濃くなった。オーエンはやっぱりお菓子を奪ってから帰ろう、と思い直す。

    「あれっ、オーエンさん」
    ミチルの第一声に、オーエンは口をゆがめて笑って見せる。ミチルはすぐに気丈に振る舞うが、一瞬だけでも怯えた姿を見せてくれるので、オーエンは気分が良くなった。ミチルの横にいるリケはオーエンを見て何か言おうとしたけれど、口の中に詰め込んだお菓子が邪魔をして、一生懸命に口を動かしているだけだ。それを見てネロのお菓子があると確信したオーエンは、地面に敷かれた布の上に広げられている焼き菓子たちと、まだバスケットの中に入っているであろうお菓子に目を向けたものの、すぐに周りの光景に気を取られてしまった。
    そこはオーエンが見知った森ではなく、今咲くはずのない季節外れの花たちや、こんなところに咲くはずのない古代の花、北の国の奥地にしか咲かない貴重な花等が咲き乱れて地面を覆っていた。しかも、どれも妙に色鮮やかで生き生きと輝いている。急に狂暴化したり、幻覚を見せたりといった悪影響は特になさそうだけれど、厄災の影響だろうか。
    「こんなところで何をしているの。ピクニックにしては悪趣味じゃない?こーんなに趣味の悪い花がいっぱい咲いているなんて、気持ち悪い」
    「気持ち悪くなんてないです!フィガロに薬草になるものを教えてもらって、採集がてらピクニックをしているんです。ネロにも美味しいお菓子を作ってもらったんですよ。ねっ、ミチル」
    ようやく口の中を空にしたリケがミチルに同意を求める。ミチルも嬉しそうに、バスケットの中をオーエンに見せてくる。中には摘まれたとは思えないほど色鮮やかな花と草が入っていた。
    「ふうん。せっかくこんなにいい気候のところで気持ちよく咲いていただろうに、きみたちにぶちぶちと摘まれちゃって、かわいそう」
    「え、ええー……」
    ミチルが悲しそうに眼を伏せるのを見て、リケが頬を膨らませる。採集された花たちと、ネロのお菓子が入ったバスケットを抱えて、オーエンに「そんなことを言うなら、お菓子をわけてあげませんよ」と立ち向かう。面白くなってきた、と笑顔を作りかけたところで、オーエンはクロエの姿が見えないことに気が付いた。
    「……クロエはいないの?」
    「どこまで花畑が広がっているか見てくるっていってそのまま……」
    リケとミチルが顔を見合わせて、ひゅっと息をのむ。フィガロとネロのお墨付きの場所とはいえ、厄災の影響が色濃い場所だ。しかも奥に行けば行くほど、花たちの魔力の気配も濃くなっているようで、リケもミチルも、クロエの気配が途切れていることに今の今まで気が付いていなかった。オーエンは二人の不安そうな顔をみて、ほくそ笑む。
    「ははっ、弱い魔法使いがどうなろうが僕には関係ないけど」
    「オーエン!お願いです。一緒に探してください」
    リケのお願いを、オーエンは鼻で笑い飛ばす。ミチルも目に涙を浮かべながら、オーエンの外套を引っ張る。オーエンはいよいよその様が面白い。しばらく二人の不安そうな顔を楽しんでいたけれど、ついにミチルが「もういいです、フィガロ先生を呼んできます」と言い出したので、オーエンはバスケットをリケの腕から奪い取った。
    「フィガロなんか呼ぶなよ」
    お菓子も不安な顔もあいつに奪われるのは面白くない、とオーエンはしかめ面をする。

    実のところ、オーエンにはクロエの気配がしっかりと辿れていたので、クロエが無事なことは百も承知だった。ミチルとリケには全然違う場所を探すように伝えて、オーエンはまっすぐにクロエの居場所に向かう。奥に行けば行くほど、花は密度を増して、芳香にも似た甘ったるい魔力の濃度も濃くなっていく。危険は全く感じないどころか、魔法使いには心地の良い空間ではないだろうか。
    オーエンも心なしか足が軽い気がして、手にしたバスケットはリズミカルに揺れている。先ほど中を覗いてみたけれど、結晶のような形をした飴と、色々な形をしたクッキーが入っていたので、それもうれしい。
    果たしてクロエは、その一番魔力が濃いところですやすやと眠りこけていたのだった。花のゆりかごとでも言うような大きな木のうろに横たわり、やわらかな木漏れ日と鮮やかな花々に包まれている。オーエンは良い身分だ、と少し乱暴にクロエを起こそうとしたのだけど、ふと、その穏やかな寝顔をつつむ花たちに、既視感を覚えて伸ばした手を引っ込めた。どこで見たのだろうか。遠い遠いおぼろげな記憶を引っ張り出す。
    黒い服を着た人々、すすり泣く声、一輪ずつ眠っているような穏やかな顔を埋めていく花。あれは誰の葬式だっただろうか。人間なのは間違いないけれど、もう忘れてしまった。だけど、それ以上思い出す必要もなかった。目の前で花に埋もれているクロエも、それを眺めているオーエンも、魔法使いである限りは誰かに花を手向けられることはないのだから。オーエンはクロエのマナ石は一体だれが食べるんだろうかと一瞬考えた後、弱い魔法使いの石なんていらない、と思い直した。
    オーエンはクロエを起こす代わりに、バスケットの中にあった飴をクロエの口の中に突っ込んだ。途端に、ぱちりと大きな目を開けて、花を振り落としてクロエは上半身を起こす。
    「えっ、何!オーエン!どうしたの?俺、何を食べてるの?」
    「そこらへんで死んだ魔法使いのマナ石」
    「えーっ‼」
    クロエは先ほどの穏やかな寝顔と打って変わり、全力で表情を動かして驚いた顔を作るので、オーエンは薄ら笑いを浮かべる。ルチルみたいに泣くだろうかと期待をしたけれど、クロエはそのまま口に含んだ飴をからころと舐めたあげく、べ、と手のひらに吐き出して「なあんだ。さっきムルがくれた飴だ!」と笑う。
    その笑顔に妙に腹が立ってしまったオーエンはクロエから飴を奪い、さっと口に放り込んでがりがりとかみ砕いてしまったのだった。
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