あまずっぱ鉢雷(になる予定) 夜闇が手足を四方へ伸ばし、広大な森林ごと辺り一帯を抱きかかえている。人肌を忘れた小夜風は、さらさらと修験者の身をひと撫でしては去っていった。冷えた空気が深夜の静寂を覆う。
それでも朧月は明かり障子から部屋の中に身を映していた。そろりそろりと、人々の営みに伺いを立てるように。
それは不破雷蔵が灯明に布を被せ、火鉢の消えかかった炭火をボンヤリと眺めていた時分であった。
「私を振ってくれないか、雷蔵」
雷蔵は並べて敷いた布団の上に胡座の体勢、両の膝には拳を置いて、キョトンとした顔だけを同室の彼へ向けた。返された剣呑な眼差しに、これは只事ではないぞ、と胸中で腕を組む。そして投げかけられた言葉を反芻して、反芻して、
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