マッサージ店員レウスくんと客オジサンのラクガキ転生、記憶ありオジサン、絵に描いたような仕事人間(もう奥さんと子ども失いたくないので独身)してたけど、年取って体にガタがきはじめ、毎日どっかしら痛いって日常送ってた。まぁ自分の体がどうなろうと知ったこっちゃないし、現実逃避という名の仕事できてりゃいいかぁ、程度に思ってたけど、いよいよ痛い。座ってるだけでも腰が痛い。こりゃ仕事になんねぇなぁ、辞めて別な仕事するかぁ、とか思ってたところにマッサージのサービス券を貰う。「肩のこりが秒で消えた」「次の日驚くほど体が軽い」「もう軟体動物」と絶賛する同僚の言葉に半信半疑、そんなに言うなら言ってやろうじゃないのとマッサージ店を訪れる。
そこにいたのはかつて命を掛けて一騎打ちした相手、アキレウス。
「な、んで、お前……!」
覚えてるとか覚えてないとか、そういうの気にする前に口走るオジサン。
「てめぇこそ……!」
どうやら記憶はある模様。敵意を向け合う再会となる……が。
「どうしたのアキレウスくん、なんかあった?」
他の店員から声がかかる。
「っ、いえ!なんもないっす!」
誤魔化すように声を張ったアキレウスは、
「……寝ろよ。マッサージされに来たんだろ?」
と寝台へとオジサンを促す。自分も転生して色々あったように、アキレウスも色々あったのだろう。なんとなくそう察し、オジサンは寝台へうつ伏せになる。積もる話はマッサージを受けながらでもできる。
布ズレの音がし、マッサージが始まる。なんて会話を切り出したらいいものか悩んでいると、肩に触れたアキレウスから声が漏れた。
「かっっっっった!」
「え?肩だけに?」
「うるせぇよ。何だこの肩、どうすりゃこんなに凝り固まらせれんだよ」
「いやぁ……人徳?」
「人徳でこうなるなら切っちまえんなもん」
グイグイともみほぐす手は暖かく、心地よい。その熱が伝わるよう、ヘクトールの体もぽかぽかと暖かくなっていく。上がった体温は、ヘクトールに睡魔を連れてきた。
「オッサン、なんで……」
アキレウスがなにか言っていたように思えるが、瞼はその言葉を全て聴ききる前に落ちていた。
□
「おい、オッサン」
その声にぱちりと目が覚める。
「っ、う、あ――」
上半身を起こせば、否応なく肩の軽さに気づく。ぐるぐると回せば、可動域が倍ほどにも広がっていた。
「ちゃんと寝てんのか、アンタ」
柄にもない心配そうな声をあげるアキレウスに言葉を返す。
「うーん、寝てるつもりではあるけど」
「含みがある言い方だな。何時間だ」
「さ……よじかん」
「三時間は短いだろ」
「誤魔化した言葉を拾うんじゃないよ」
座っていても痛い体が横になった位で痛みがなくなるわけでもない。肩の痛み、腰の辛さと戦ううちに、自ずとヘクトールの睡眠時間は減っていた。
「軽いだろ?肩」
「うん、正直驚いてる。君英雄よりマッサージ師のほうが向いてるぜ」
「馬鹿にしてるだろ、と、言いたいところだが、今世じゃそうみたいでな。お陰でこの店の指名ナンバーワンだ」
「ナンバーワンて」
ホストじゃあるまいし、と思いつつ軽くなった肩を想う。本当に気持ちがいい。今日は肩だけだったが、腰も、足もしてほしい。そんな欲求がむくむくと湧く。そう、ヘクトールはマッサージにハマってしまっていた。
「じゃ、今日はこれで終わりだが……どうする?」
「どう、って」
「次の予約だ。アンタは嫌かも知れないが、俺は決めた。アンタのそのガチガチの体をふにゃっふにゃにしてやろうってな。だから次、いつ来れるか決めろ」
「……オジサンの拒否権は」
「ない。俺が次に空いてるのは一週間後の夜十九時とその次の日の昼間三時だ。どっちか選べ」
「え、えと、じゃあ夜で……」
「夜だな?押さえとく」
正直願ったりかなったりだった。いくら転生して立場はまっさらだとはいえ、自分から頭を下げて予約するのはなんとなく気恥ずかしいし情けない。心のなかで安堵をしていると、嬉しそうに目の前の天敵が言う。
「次は腰と足、どっちがいい?」
それは奇しくも、自分がほぐしてほしいと思っている場所だった。驚きながらも腰、と答えると、屈託のない笑みが返ってきた。
「だろうと思った」
にかにかと嬉しそうに笑うアキレウスにヘクトールは苦笑を漏らす。出かかった、俺はかつての敵だぞ、とか、友人を殺した相手だぞ、と言う言葉を、浮かべた笑みの中でもみ消しにしながら。
みたいなマッサージアキヘクみたい。
オジサンがハマっちゃってレウスくんから抜け出せなくなる感じの。
恋愛ーになるかな、レウスくんがその気になったらなるかも。
あー、わんちゃん、足の付根とかマッサージしててオジサン立っちゃって、興味本位で抜いたらめっちゃかわいい反応されて、もう一回みたい、ずっと見たい、となってなし崩しにセッセセするかも。
それがいい、そうしよう。
体繋げてから恋に落ちるオジサン。
そうだそうしよう。