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    節分に寄せて『鬼なオジサンは静かに暮らしたい』

    とある山の奥で静かに暮らしていた鬼族のオジサン、その土地で生きている鬼はオジサン一人、他の鬼はみんな人間たちに退治されてしまった。
    そんな鬼のオジサンの願いはただ一つ、『静かに暮らすこと』。
    人間たちに見つからず余生を全うしたい。誰も来ない深い山奥に小屋を立て、農作業をしながら野生動物たちを労りながら、オジサンは静かに暮らしていた。
    そこに近くの村のこども、アキレウスが近づく。生まれたときに神の加護を授けられたアキレウスは、周りの人間より少しばかり、いや、大いに体が丈夫だった。お前本当に人間か…?と思われるような無尽蔵な体力、少しの怪我も何のその。自身の好奇心が赴くまま野山を駆け回っていた。少し深い山まで入ったアキレウスは、誰かが世話したばかりの畑を見つける。こんなところに村の人間は来ない、ということは……。
    「村の人間以外の人間が、ここにいる!」
    自分を褒め称えるばかりの村人に飽きていたアキレウスの好奇心は大爆発。つけられていた山道を猛スピードで辿る。行き着いたのは、小さな小屋だった。
    「今年の野菜は少ないねぇ……いや、めんどくさがって手を入れなかったからってのはわかってるよ?でももう長年同じことしてると流石にオジサンも飽きて……いてて、自分の取り分が減ったからってそんなに怒るなよ、山犬くん」
    数匹の犬と戯れながら、小屋の影から男が姿を表す。頭には細い二本の角。村の人間より遥かに高い背。
    「……お、おにだ」
    アキレウスは思わず声を上げる。その声に、ようやく鬼も気がついたようだった。
    「……え、うそ。にん、げん?」
    鬼が自分を認識した。こちらをみた深い緑の瞳は、アキレウスを魅了するのに十分な美しさだった。
    何かに操られるよう、アキレウスは鬼へと近づく。”鬼は人を食う”や”人間より何十倍の力を鬼は持っていて”など、聞いた昔話は頭からすっかり消え失せている。そんな聞きかじった恐怖より、眼の前の美しさだけがアキレウスを突き動かしていた。
    「アンタ鬼なのか!?」
    「ひっ……!な、なに!?」
    目の前にまで迫りそう問いただせば、鬼はわずかに後ずさる。巨体のくせに、人間を怖がっているように見える。
    「どうなんだ、鬼か、鬼じゃないのか」
    「お、おにじゃない。オジサンはここで静かに暮らす……そう、村はじきだよ」
    「……角、見えてんぞオッサン」
    鬼はさっと両手で頭を隠す。が、そそり立ち天を指すそれは、鬼の大きな手でも隠しきれるものではなかった。
    「鬼、なんだな」
    「……そうだとも。オジサンは鬼。この辺に唯一残った鬼の生き残りさ」
    隠すことを諦め、鬼は両手を下ろした。がくりと落ちた肩は、何かを諦めているように見えた。
    「で?それを聞いて君はどうするんだい?他の鬼みたいに、村の人間呼んで退治する?」
    擦り寄る山犬を撫でながら鬼は寂しげに言う。口ぶりからして、仲間は皆人間に退治されたのだろう。寂しげな表情を敷いているのが自分たちだという事実が、アキレウスには悲しかった。俯き、どうするべきかを考える。この寂しげな表情を拭うには、魅了された深い緑を手に入れるには。すべきことは、目の前に転がっていた。
    「まぁ、君が村に伝えに行ってる間にオジサンは」
    「……しない」
    「……へ?」
    「村の奴らに知らせたりしない。アンタが山奥にいるっていう秘密は誰にも言わない」
    鬼は驚いたように目を見開く。どうしてそんなことを言うのか、全くわからないと言いたげな、ぽかんとした表情がアキレウスへと向けられていた。
    「その代わり……また、来ていいか?」
    「……はぁ?」
    「俺、もう村の奴らには飽きたんだ。アンタは初めて会った、村の奴らじゃないやつだ。しかも人間でもない。なぁ、アンタのことが知りたい。いままで退治された、アンタの仲間のことも」
    自分を見る深緑をまっすぐ見て言えば、都合が悪そうに逸らされる。答えを選んでいるのだろう、顔ごと逸らされた視線はしばらく宙をさまよったのち、再びアキレウスへと向く。大きな大きな、ため息と一緒に。
    「はぁ。仕方ない、それが交換条件ってことね。いいよ、オジサンのことは秘密にする、そのかわりオジサンは君と定期的に合う」
    「いいのか!」
    「もうここでしばらく生活しちゃってるしね。今更どっか言ってまた農地を開くってのも手間だし」
    及び腰になっていた体を真っ直ぐにし、鬼はアキレウスへと向き直った。
    「オジサンはヘクトール。この地に住まう鬼の最後の生き残りさ」
    「っ、おれは、アキレウス!神の加護を受けた御子、っていわれてる!」
    「げ、君加護持ち!?なんでそれを最初に言わないのさ」
    「?加護なんて別に関係ないだろ」
    「大いにあるよ……あぁ、神に目をつけられなきゃいいな……」

    このあと、アキレウスが成長し、ヘクトールに告白するまで、二人は森と村を行き来しながら過ごしていくのでした。
    成長したあとは山で二人暮らし。オジサンは長命なのでアキレウスが成長しても姿が変わらない。
    アキレウスが先に死ぬ。残されたオジサン寂しくなるけど、アキレウスとの思い出を抱きながら、寿命まで過ごす。山の奥には、小さな二つの墓がならんでいる。
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