5.カメラはみた普段いがみ合ってる二人がベッドの上で肌を重ねる現場を
「あ、アキレウスどう撮影は順調」
マスターの少女ははアキレウスの胸にかかっているデジカメを指差しにこやかに笑った。
「あぁ、順調だぜ。……しかし、本当にこんなんでいいのか」
「ん、普段のみんなが見たいから撮るものはなんでもいいんだ。……ちょっとみていい」
「あぁ、いいぜ」
マスターが普段サーヴァントの皆がどういう日常を過ごしているのか、に興味を持ち、何人かにデジカメを渡して撮影してもらうことに。
ムービーも撮れるそのカメラを手渡されたアキレウスは言われた通り日常の何でもない風景を撮影する。
ケイローンとの組み手。
アタランテと子供たちの笑顔。
海賊たちの酒盛り。
ケルトたちのいざこざ。
そして、ヘクトールとパリスが起こした嫌がらせ。
取り留めもない日常を記録したほんわかとした写真や動画にほっこりしたり、説明を聞いて笑いあうマスターとアキレウス。
「んこの、妙に撮影時間長いやつなに」
「……なんだそりゃ、そんなん録ってた記憶は……」
ピ、という選択音と共に、デジカメの小さな再生画面に流れ出した映像を覗き込む二人。
写っていたのは、画面の半分以上を締める白い布、だった。
同時に聞こえたのは小さな、男の声。明らかにアキレウスの声とは違うその声に二人は聞き覚えがあった。
『……それ、まさか録ってるわけじゃないよね』
『もう切ってる。こんなとこ残しとく分けねぇだろ』
『……君ならやりかねない』
『お前がして欲しいんならやってやってもいいが』
『そんな性癖ないよ』
「……これ、ヘクトール……だよね」
「…………あー、いや、マスター、違うんだこれは」
『……んっ、くすぐった……』
「……とりあえず、止めねぇ」
「いや、もうちょっと見た」
そういいながらデジカメから視線を離そうとしないマスターからデジカメを取り上げ、動画を止めるアキレウス。
確かに覚えがあった。昨晩、ヘクトールの部屋でデジカメの写真を見ていた。シャワーから戻りベッドに寝転がったヘクトールに覆い被さったとき、手にしていたデジカメをベッドの上に放った。その時、指がボタンに触れたのだろう。
ーーまさか、録画されてるとは。
すぐに消さなければ、ヘクトールが怒髪天を突く勢いで怒り狂い、もしかしたら触れることすら許してくれなくなるかもしれない。
そうは思っても、アキレウスはデジカメに表示されている「デリートしますか」の「はい」を選べない。
ーーすげぇ見てぇ。
デジカメを見たまま固まるアキレウスにマスターが口を開く。
「コピーしようか内緒で」
アキレウスはそれを聞いて迷わず頭を縦に振った。
かくして、アキレウスの部屋にある端末には、奥底の階層に隠しフォルダが作られ、パスワードで厳重にロックされたそのフォルダの中には秘密の動画が保存されたのだった。